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21話 武辺者、やぐら建設を指示する・その2

 =前回のあらすじ=

「また」アニリィがやらかした。



 ―・―・―・―・―


【第三項:再建現場進捗報告】

文責:トマファ・ファーレン


 本日午前、アニリィ殿による荷車暴走および爆破魔法行使により、現場資材および仮組み構造物の一部が倒壊、甚大な被害が発生しました。

 事件は、アニリィ殿が資材運搬中、明らかに過剰な速度で荷車を押していたことに端を発します。重たい木材を積んだ荷車が制御不能となり、仮組みされた石材の山へ直撃。僕の叫びが空に虚しく吸い込まれる中、現場には重い沈黙が落ちました。

 しかし、当のアニリィ殿はまるで反省の色を見せず、がれきの山に腰に手を当てながら『ふむ』と一言。明らかに何かを思いついた時特有の、あの目をしていました。


「トマファくん、これ……もう手で片付けるの面倒だよね。だったらさぁ――ねぇ?」


 クラーレ殿とウタリ殿が、まったく同じタイミングで振り返る。そして僕は、心の底から確信したのです。これはまずい。


「あの、アニリィ様?」

「その『だったらさぁ』の後に続く言葉、不穏当な予感しかしねぇなぁ」


 全員が、次に来るであろう破滅の予兆に身構えます。

 アニリィ殿は既に魔法詠唱の構えに入っていました。両足を軽く開き、両掌を前に差し出し、指先に魔力を集中。青白く輝く魔素の球が生まれ、空気がざわめく。口元が笑みでゆるみ、あの悪魔のような詠唱が始まる――。


「――我が内に眠る炎よ。秘められし魔力よ。大地を貫き、空を割り、瓦礫を片付ける神の手となれ……!」


「アニリィ様、それ、どう考えても爆破魔法じゃ――」


 クラーレ殿の制止は、遅すぎました。


აფეთქება(吹き飛べ)、瓦礫どもォォ!!」


 蒼白い閃光が掌から放たれ、がれきの山を包む。轟音とともに、風圧と爆炎が現場を吹き抜け、木片と石片が空を舞いました。



\ ドォォォン!! /



 砕けた瓦礫がまるで石の花火のように打ち上がり、空中で弾け、次々と地面に落ちていく。現場は一瞬にして土煙に覆われ、視界が真っ白になりました。

 僕は呆然と空を見上げ、クラーレ殿は地面に転がり、ウタリ殿はすでに諦めたようにフードを深く被っていました。


「……なんで、片付けるって言って、さらにぶっ壊してるんですか」


 この言葉は、きっと記録に残すべきです。


「いやぁ、これでも『爆破魔法・小』にしたつもりだったんだけどなぁ。抑え加減が難しいんだよね、これ。で、どう? ちょっとはスッキリした?」


「そっちはスッキリしても、瓦礫は増えました!!」


 クラーレ殿の悲鳴混じりの声が、現場に響き渡る。

 爆煙は風に乗り、ゆっくりと上昇していく。遠くキュリクスの空へ、まるで狼煙のように昇っていくその様は、もはや戦の開幕すら予感させるものでした。



 * * *



 そして、ちょうどその頃。

(スルホン視点)


 領主館の執務室。

 午後の光が差し込むなか、俺はようやく一息つけると、茶を啜ろうとカップを手に取った。

 ……その瞬間、遠くから――「ドォォン!!」という地鳴りのような音。窓の硝子が微かに震えた。

 眉がぴくりと跳ね上がる。カップの中の茶が波打つのを、ただ見つめた。


「――なんだ、今の音は……」


 立ち上がり、執務室の窓へと歩く。開け放たれた窓の向こう、空高く立ち昇る“爆煙”――それは、見間違いようもない。


「――アニリィだな」


 静かに、しかし確実に、胃が痛くなる。

 カップを丁寧に戻し、椅子の背にかけていた軍用ジャケットを掴む。袖を通す間も惜しむように、吐き出すような声が出た。


「またあいつかァァァァ!!」


 バタン、と重厚な扉が音を立てて閉まる。

 残された執務室には、わずかに立ち上る茶の湯気と、呆れを帯びた沈黙だけが残っていた。



 ―・―・―・―・―



【第四項】領主館からの反応

『スルホン様が本気で怒った日』

 文責:クラーレ・ミルレース


 あの日、現場にはまだ爆煙のにおいが残っていました。午前中にアニリィ様がやらかして、瓦礫がドーン!ってなったあとのことです。

 トマファ君は瓦礫を見てぽかーんとしてて、ウタリさんは土煙を払いながら「はぁ……」って顔をしてて、私は帳簿持って資材の数を数えてました。爆破されて使えなくなった木材の山が、まるで心の折れた文官の墓標みたいで泣きたくなりました。



 そんな時でした。

 正午の鐘が鳴って、みんなお昼休憩に入って、少しだけ現場が落ち着いたそのタイミングで――やってきたんです。あの人が。スルホン様です。武官長。おっかないヒゲの人です。馬を降りたその足音が、もう怒ってる音してました。


「――アニリィ」


 その声、地鳴りかと思いました。


「スルホン様、手伝いに来てくれたの?」――アニリィさんの言葉に「来てくれた、じゃねぇよッ!!」って怒鳴った瞬間、現場の空気がビリビリしました。もう、スルホン様の顔には怒り、呆れ、悲しみ……それと“こいつまたか”って気持ちが全部のってました。


 そのあとの怒鳴りは、まるで嵐のようでした。

「洞窟爆破して! 地上も爆破して! バカか!?」

「再建三日目で進捗マイナス六割!? マイナスって何だよ!?」

「禁酒でマシかと思ったら、素面でこのザマかァッ!!」


 私はもう、心の中で「やっぱり怒ったー!!」って叫びながら、アニリィ様のことを見ていました。アニリィ様、正座しながら泣きそうな顔してて、途中から「ごめんなさいごめんなさい」って連呼してて、でもスルホン様は本気で怒ってて。


 ――でもそのときです。

 スルホン様が、ふっと言ったんです。


「お前は本来、誰かを守るためにその力を使う奴だったろ」


 その瞬間、アニリィ様が動きを止めました。  たぶん、あの言葉が一番響いたんだと思います。……たぶん。



 * * *



「うぅ、ごめんなさいでしたァ!」

「もっと腹の底から謝れェ!」

「ごっ、ごめんなさいいいいッ!!」

 アニリィさんは突如その場にへたりこみ、両手を振って泣き喚いてました。

「もう禁酒のストレスが限界でぇぇぇッ! 飲み水を啜るだけで飲んだ気になろうとしたけど無理なのぉぉ!」

 スルホン様の手は宙で止まったまま、次第に震え出します。

「――殴れねぇよ、そんな泣き芸されたらよ!」

「ぴえん」

「よし、そこに直れ! 今すぐ叩ッ斬ってやる!」



 * * *



 あの「ぴえん」で全部ぶち壊しでしたけど。


 スルホン様が剣に手をかけたとき、私は思いました。  ――あ、あの人、絶対反省してない。

 その横で、トマファ君が黙々と作業員の動線を確認してて、それがすごくかっこよく見えました。冷静に仕事する人って、やっぱり強いです。

 あの日私は、「怒る大人って、怖いけど優しいんだな」って、ちょっとだけ思いました。

 そしてもうひとつ。


 “スルホン様を止めるのが一番大変だった”――ということも、ここに付け加えておきます。




 ★ ★ ★




 その二人のやりとりに、クラーレとトマファ、ウタリが目を見合わせて、ふっと小さく笑った。


「あぁもう、これじゃ木材が全然足りないですよぉ……」


 クラーレがようやく呟いた頃には、現場の空気も少しだけ柔らかくなっていた。


「納期は、まあ、伸ばしますか。当初予算より建築費がかかりますけど。――あと、現場監督がアニリィ様だと作業が全然進みませんね」


 トマファが設計図を抱えて、ため息を吐いた。


「それも報告書に書いておきな、トマファ殿」


 ウタリがトマファの肩を叩く。




 ★ ★ ★




 そして、アニリィとスルホンはお互い正座して話を続けていた。

「でもほら、爆破で発破みたいになったおかげで、地盤の亀裂とか出たら、温泉湧くかも?」

「――アニリィうるせぇ! お前は正座、反省!」

「今のは冗談、冗談だってばぁ! うるうる」

「うるうるって……お前いつの時代の人間だッ!」

「あ、どっかんぴー」(※)

「うるせぇ!」





「てかさ、――なんだこれ?」




 * * *



【速報】建設現場における不審鉱物の発見について

 文責:文官長補佐 トマファ・ファーレン


 本報告は再建中の物見やぐら跡地において確認された未確認鉱物に関するものである。以下、経緯と初期対応を記載する。

 時刻は午後一番を少し過ぎたころ。現場では先刻の爆破事故によって生じたクレーター状の凹地を埋め戻す作業が始まっていた。作業班による砂利投入が開始されようとしていた、その直前のこと。

 作業員のひとりがスコップを振りかざしかけたその瞬間、現場監督代行のウタリ殿が「――待て」と一言、動作を止めさせた。その口調は低く、しかし明確な緊張を孕んでいた。

 彼女は一歩、二歩とクレーターの中へ慎重に下りていく。そして地面の一部に散らばる異物を確認。直後、「なんだこれ」という呟きとともに、地中から半ば露出した金属質の粒を拾い上げた。

 その時点で確認できたのは、掌に乗るほどの粒状鉱物が三粒。

 それを見てクラーレ殿が「それ、黄鉄鉱――ですか?」と問うた瞬間、私はある“事件”を思い出していた。

 ――数か月前、アニリィ殿がキュリクス西の洞窟で見つけた鉱石を「金だああ!」と叫び、爆破魔法で洞窟を破壊した出来事だ。その正体は、ただの黄鉄鉱(愚者の金)であったが。



 その記憶が脳裏をよぎった私は、正直なところ「また黄鉄鉱か」と思った。が、ウタリ殿はそれを掌に乗せたまま真顔で作業員に声をかけた。


「……誰か、金槌を貸してくれ」


 一人の作業員が差し出した金槌を受け取ると、ウタリ殿は鉱石を石の上に置き、無造作に打ち据えた。パァンと鋭い火花が飛び散り、鉱石の表面から淡く白い煙が立ちのぼる。そして、その煙を嗅いだ彼女が一言。


「――ニンニク臭い。たぶん黄砒鉄鉱だ」


 その言葉に、作業員たちはぽかんとした表情を浮かべた。 「――黄砒鉄鉱って、なんだ?」とスルホン殿が問う。

 ウタリ殿は静かに応じる。


「硫黄と鉄と砒素の鉱物、それにミスリルが含有していることがあるんだ」


 その瞬間、現場は一気に騒然となった。数名の作業員が、


「ミスリルだと!?」「お宝じゃねぇか!」

「今日から俺も鉱山王!?」「ボーナスだな」


と色めき立ち、隅でずっと正座させられていたアニリィ様が「それ、拾っていい?」と手を伸ばしかけた瞬間――


「お前、それ砒素だから死ぬぞ」


――スルホン殿の怒声が飛び、アニリィ様は首をすくめて手を引っ込めました。


 ウタリ殿はあらためて全体に向き直り、きっぱりと告げました。


「この鉱物は毒性が強い。しかも腐食性もある。もし素人が掘れば、肺をやられる危険もある。発掘作業は鉱属技師ギルドに依頼する。現場は直ちに封鎖」


 その言葉により、ざわめきかけた空気は一気に静まり返った。

 私は封鎖用ロープを班長に渡し、現場を一時閉鎖。その間、鉱物サンプルは革袋に入れ、スルホン殿の手によりキュリクス領内の錬金術士、テルメ殿のもとへ運ばれる予定である。

 確認のため詳細鑑定と成分分析を依頼中。もしこの鉱物がミスリルを含む黄砒鉄鉱であるならば、今後の再建計画に重大な変更を加える可能性がある。

 以上、取り急ぎ現場での状況を報告いたします。

 ……報告を急ぐあまり、文面が散らかりましたことをお詫びします。



 * * *



【最終報告】新規建立地の決定について

 文責:トマファ・フォーレン


 本報告は、物見やぐら再建予定地において実施された地質調査の結果、建設場所を移動させることが決定された件について、詳細を記述するものである。

 この新たな方針は、地下から発見された黄砒鉄鉱(おそらくミスリル含有)の存在に伴い、銀資供給を担う鉱属技師ギルドより 『当該地域を露天掘り鉱区として優先的に保護したい』 との正式な要請を受けた結果である。よって、掘削作業と安全確保を最優先とする措置として、再建場所の変更が推進された。


 新しい建設地は、旧建設予定地から約500ヒロ(およそ900メートル)ほどキュリクス側へと移動した街道沿いの地点である。風通しや視界の良好さに変化はなく、むしろ原地と比較してわずかながら地勢的に優位であるため、結果的にはより良い選択であったと判断される。

 建設施役の再計画はウタリ殿の指揮のもと、初期設計を基盤として修正が進められている。現時点では、再開時期を第三週に設定し、全体工期として約一か月の延長が見込まれている。


 最初からここに建てていたらもっと早く済んでいたかもしれない。


 なお、資材は従前のものを再利用可能であり、大幅な設計変更は必要ないと見られる。また、追加費用については、執事ノックス殿からの第一報によれば、発掘された黄砒鉄鉱の売却益により一部が補填可能との見通しが立っており、財政への大きな影響は想定されていない。


 無論、ミスリル含有の最終的な判断は、現在依頼中の錬金術師テルメ殿による鑑定を待つ必要がある。しかしながら、今回の事案は単なる障害ではなく、我々にとってひとつの成果でもあったと評価すべきである。この小さな勝利の感覚を大切にしつつ、今後も冷静かつ着実に工程を進めていきたい。



 なお、今回の一連の騒動を受けて、精神的再教育の一環として「1週間の出勤停止および、当面は練兵所にて新人訓練生と共に基礎訓練に励む」旨を命じられたアニリィ様は、当初「ごはん食べられないじゃん!」と訴え、しばらく部屋に引きこもっておられた。


 最後に一言――アニリィ様、どうか本気で内省し、再出発していただけますよう、心より願っております。



     ★ ★ ★



(とある新任女兵士、ネリスの日記)

入隊1か月と1日目



 アニリィ姉さま、出勤停止ってなにやったの!?

 めちゃくちゃ気合い入れてメイクしたのにぃ!



 疲れた、寝る。

★どっかんぴー

昭和61年頃に流行った『のりピー語』の一つ。

のりピー語なんて知ってる奴は間違いなくアラフォーじゃねぇ!

もうアラフィフだぞ!? おっさんだぞ!



ちなみに中の人が小学生2、3年生の頃の話。

とある昼休み、友人らと給食の牛乳一気飲みで勝ったら『のりピー下敷き』が貰えるイベントに参加。そして見事優勝を果たす。

しかし5時間目からお腹が痛くなり、授業中ながら数度もトイレに駆け込む事態に。

6時間目にその勝利をもぎ取った下敷きにマジックで


『マンモスげりピー』


と誰かから書かれた逸話がある。バカである。


のちにその逸話をはがきに書いてオールナイトニッポンに送ったら読み上げてもらった。ただ、誰のラジオ番組だったかは覚束がない。(松村邦洋さんだったか福山雅治さんだったかな?)



おまけに、結婚式の際に新婦から「マンモスげりピー」の逸話を語られるというオチ付き。しかも証拠の品まで持っていた。そんなもん後生大事に取っておいてた嫁もバカである。


てか、なぜに嫁がそれを持ってた?

『それ書いたのが、嫁』


のりピー音頭でピッピンがPi!


※なお、のりピーとは酒井法子のことである。

♪こころに冒険を~♪

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