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201話 武辺者と、金属錬成への道・5

 反射炉の設置予定場所は無事に縄張りも終わり、現在は土木ギルド主導で整地作業に取り掛かっている。現場ではクラーレと金属加工ギルドが開発した、魔導エンジンを三機も積んだ整地用重機が威力を発揮している。排土板で土砂を押し均したりして回っているとか。ちなみにこの整地用重機、元々は大型耕運機として開発が始まったのだが、迷走した結果このような形となって生まれたという。設計手順や計画目標を立ててきっちり成果を測ろうとするルツェル技師たちが聞いたら「これだから"向こう見ず"のキュリクス技師は」と呆れそうだ。他にも魔導転圧機という魔導エンジンが生むエネルギーを振動や打撃に変換して地面を叩き固める機械も試験導入している。反射炉作りに必要な土地はいつでも建造に入れるよう準備は整いつつある。──ただ、この開発がキュリクス地金不足の原因なのではという説もある。


 翻って領主館会議室。ヴァルトアは机の上に並ぶ計画書や設計図を見ながら腕を組み、難しい顔で唸っていた。


「図面も計画も整った。だが最大の問題は──資材調達だな」


「はい。他の品目はクラーレ殿やレニエ殿の尽力でなんとか目処は付いたのですが、この耐火煉瓦の調達についてはヴァルトア卿のご判断を仰ぎたいと思っております」


 文官長トマファが眼鏡を押し上げながら言った。耐火用の目地やセメント、鉄骨芯などは彼らが付き合いのあるギルドにお願いしてかき集めてもらったのだ。ギルドも「なに、クラーレちゃんのお願いじゃあひと肌脱がなきゃな」なんて言ってくれたりもしたが、きっと大変な労苦があったと想像がつく。おかげでキュリクスへと出入りする荷馬車の数は増え、街は賑やかになってきたと実感できるのだが、耐火煉瓦だけはどうしようもなかったのだ。キュリクス周辺でも耐火煉瓦用の粘土鉱はあるのだが、圧倒的に量が足りないし、今から採掘を始めれば工事に多大な遅れが発生してしまう。それに安定した品質とも言えないので今回の供給先からは除外した。オキサミルは地図を広げて候補地を指し示した。


 まずはルツェル公国ファーレンシュタッド産のは高品質で近隣国からも“ファーレン煉瓦"として有名だ。高温にも耐え、熱伝導率も低いし一個当たりの単価も安いのだが、ずしりと重いという欠点がある。十万個も仕入れるなら何十何百台もの荷馬車を用意しなければならないため全量をファーレン煉瓦で賄うのは現実的ではない。


 ファーレンシュタッド以外にもルツェルには耐火煉瓦の産地があり、ファーレン煉瓦より安価で“ルツェル煉瓦"とも呼ばれている。こちらは煉瓦一個が比較的軽く熱伝導率も低いのだが、とにかく水に弱いのだ。輸送時は幌馬車を仕立てなければならないため輸送費は高くつくし輸送効率も下がってしまう。


 ポンドゥ家からビルビディア産のを紹介されたのだが、輸入するにしてもロバスティアかルツェル経由となるため輸送距離が延びてしまう。試しにいくつかサンプルで取り寄せたのだがいくつかは割れて使い物にならなくなっていた。つまり大量輸送しても破損リスクがあるし、そもそも品質ムラが大きかったので考慮から消えた。


 ロバスティアでも販売はしてる。特にキュリクスとトラブルになったクモート産は周辺国では有名だが購買契約しておいて“通関切れません”とか言って来たら目も当てられない。つまり国家的信用が期待できないところから仕入れるのは現実的ではない。


 同じ王国内で、フューゲル産は熱伝導率も低く水にも強いのだが、とにかく運賃が高くつく。ヴィルフェシス産も耐火粘土の取扱いがあるためクラーレの父の伝手で取り寄せが可能だ。


「運送業ギルドと何度も相談したんですが、『空車の片荷での運行は運賃を高くせざるを得ないから、一か所から十万個以上もの耐火煉瓦を運ぶのは現実的ではない』って言うんです。出来れば分散して欲しいそうです」


 荷馬車担当のオキサミルは眉間に皺を寄せてそう告げた。彼は出来る事ならファーレン煉瓦で建造したいと考えたのだが、何百もの荷馬車がキュリクスから小さな田舎町のファーレンシュタッドへ輸送する物がないから『片道保証分の運賃』を要求されたのだ。同じ理由でフューゲル産も運賃が高い。


「誰か収納魔法が使える人を探せばいいんじゃないんですか?」


 会議室の隅っこで控えてたプリスカが言った。眉間をしわを寄せてたオキサミルはさらに険しい顔になって「バカ言うな」と吐くと続けた。


「収納魔法なんて使える奴が居たら、ただの軍事的脅威だぞ」


 そもそも収納魔法なんてものは軍事的脅威でしかない、為政者から睨まれて当然だ。──人知外の“収納ボックス”に物資を詰め込めるだけ詰め込んで商売するなんてほぼコストゼロで各国を股にかけて商売出来るって事だ。それこそ禁制品を持ち込もうが、戦略物資を売り捌こうが誰にも止めようがないのだ。つまり物流を独占する事も可能だし、戦略物資の流れを完全に掌握して、自身や相手国に経済的支配を及ぼしてしまうって事に直結する。その力は内政や外交への影響力となり、最終的には物資の遮断や情報網の掌握を通じて直接的な軍事的優位性の獲得に繋がってしまう。他にも前衛兵に水や食料、矢玉を提供できる人が居れば兵たちは高い士気を維持したまま戦い続けるだろう、そうなれば対戦相手はただただ不幸でしかない。──それだけ非常識なものだ。


「しかも新規の取引窓口を開いて大量購入となると、信用担保がいるんじゃないか?」


 ヴァルトアが口を開いた。物語中に何度も説明してる事だが、金貨を見せびらかして商売をするってのは現実的ではない。“鑑定魔法”があるわけじゃないのだから見せ金とされた金貨を悪意あるものが改鋳したり削り取ったりして価値を損壊してるのをどうやって見抜くのか? 真実性と有効性、換金の手間や物理的な重さ、盗賊に襲われるリスクも考えればハードカレンシーとして使えるとは限らないということだ。それなら信頼置ける銀行口座を使って為替手形や信用状で取引したほうがマシだろう。──そうなれば、信用担保が必要となる。


「そこは俺に任せてください、何とかしますから」


 ミトゥが椅子を軋ませて立ち上がる。あまりの眼力にヴァルトアも「うむ」としか答えられなかった。せっかくならということで銀行家の力を頼らせてもらう事にした。


「ルツェルと北方領への交渉なら私とクラーレさんが適任でしょう」


「えっ……わ、私が……!? いやよ! あなたと組むなんて絶対に嫌!」


 ハルセリアがそう言ってクラーレの肩に手を回すが、彼女は露骨に嫌がって悲鳴を上げる。


「これは仕事じゃないの、プロジェクトなの。──私の事が気に食わないのは知ってるけど、私情は捨てて取り掛かって欲しいわね」


 ハルセリアがそう言うとクラーレは軽く舌打ちをした。クラーレ自身も自分のその感情がキュリクス領の発展に邪魔なのは判っている、だけどどうしてもこの女が気に入らないのだ。オキサミルがやおら立ち上がると周りがおぉと声を上げた。


「じゃあ今回、俺も参加させてもらおうかな──耐火煉瓦の目利きが出来る奴もいるだろ? ってことでヴァルトア卿、俺が提案する調達手段は……」


 結局、調達方針は四本立てとなった。


 ファーレン煉瓦を三万個程度、フューゲル煉瓦を三万個、ヴィルフェシス煉瓦を四万個。そしてルツェル煉瓦を二万個の予定である。もちろんその都度運送業ギルドへ赴いて運賃の交渉を続ける事になるだろう。


「──よし、炉の心臓部を築くための第一歩だ!」


 ヴァルトアの力強い言葉に皆が頷いた。だが一人、クラーレだけは青ざめた顔で机に突っ伏し、「本当に私が交渉に行くのね……」とぶつぶつ呟き続けていたのだった。

・作者註1

今回で無事に201話目突破です。

前作の『アンジェ先生転勤します』より長く続けられるとは思ってませんでした。

なるべく頑張って書きますので、応援お願いします。



・作者註2

『今回の没ネタ』

→一生懸命書いたけど、なんとなく面白くない、スベッてるのであとがきでこっそりと書き綴る。ぴえん


「誰か収納魔法が使える人を探せばいいんじゃないんですか?」

 会議室の隅っこで控えてたプリスカが言った。眉間をしわを寄せてたオキサミルはさらに険しい顔になって「バカ言うな」と吐くと続けた。

「収納魔法なんて使える奴が居たら、ただの軍事的脅威だぞ」


==ここから、ボツ部分==


 読者諸君、戦争で「負けない方法」とは何かご存じだろうか?


「剣聖」のような者を先鋒に立てる。強力な魔法を使う者を出す。天才的な軍師を雇い入れる。トラックに轢かれた転生者を探す。作者より賢明なる読者諸君なら様々な答えを思いつくだろう。だが、作者が提示したありきたりの答えはすべて『違う』と言っておこう。


 もし「剣聖」一人でどうにかなるなら足利義輝は三好三人衆や松永久秀に暗殺されていない、というか塚原卜伝か上泉信綱の一人勝ちだろう。

 強力な魔法で都市を破壊しても最終的な制圧には歩兵が不可欠だ、魔法使いで世界征服出来るなら超高性能爆撃機(B-17やB-29)を持ってたアメリカがWWIIを一人勝ちしてた。

 諸葛亮孔明もせいぜい周瑜を憤死させ、司馬懿を五丈原で退かせたにすぎない、あとパリピ。

 ──異世界転生物は某一神教徒の作者は宗教的価値観から受け入れられていない(まじめ)、てかトラックに撥ねられて異世界転生できるならおじま屋は4回目の人生楽しんでるはずだ。(4回撥ねられてる。なお路線バスなら2回)


 戦争で負けないための唯一にして最も重要な答えは、『兵を飢えさせないこと』だ。士気を乱す原因は数多くあれど兵站が崩壊した状況で士気を維持することは不可能である。この常識を根底から覆すのが「収納魔法」という概念だ。収納魔法に食料を詰め込むことができれば兵士たちは長期戦でも戦い続けられるだろう。かのナポレオンですら『軍隊は胃袋で動く』と説いている。(※一説によるとプロイセン王フリードリヒ2世)


 では兵站さえ整っていればなんでも勝てるのか? というとそうでもない。だから「負けない方法」と説いたのだ。


 そもそも兵站が整っていて全てが勝てるというのなら、イギリス軍の圧倒的な制空権を持つ中、戦術的無理を押し通して自然の猛威と戦ってインパールを奪取できたとは思えない。牟田口廉也の無謀采配のせいだと片づけるのは楽だろうが、そもそも論としてありゃ無理だ。


 ──というか、戦争の発端の一つが食糧問題であるという事実も忘れてはならないが、な。


(と、語ってみたけど世の中は『芸能人とスポーツマン以外の“素人”があれこれ言ってはいけない(戒め)』らしいので、ここまでにしておこう。──そもそも『お笑い芸人』というけど、今どきの芸人さんで笑う事なんてほとんど無い。テロップやワイプを使ったテレビ演出と『笑われてるだけだよ』って思ってる)


==以上、没ネタでした==


けっこう真面目に書いたけど、チョコ○ラの炎上騒動をふと見返してみてボツにした。

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― 新着の感想 ―
トラックに4回、バスに2回って、なんと恐ろしい国……。 なお、仏教では、俗に「三千世界」と言い、無数の異世界が存在しますが、真面目に考えたら圧倒的に動物の方が数が多いので、異世界「人」に輪廻転生する確…
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