19話 武辺者を追い出したあとの新都エラール =幕間=
週末更新、心がけております。
ブックマークしてくれたらうれしいです。
新都エラールの外れ。
常に霧が立ち込め、陽の差さぬ鬱蒼とした木立の奥――忘れられたように、だが確かに、ひとつの屋敷が佇んでいた。イルハム・ハミロフ子爵邸。かつては名門宰相家の名を誇った一族の末裔が住まう屋敷だ。だがその誇り高き血統も今や過去帳の一行に過ぎない。蔦の絡む石壁、崩れかけた塀の向こうで、雑草は好き放題に伸び、門扉は油を差されぬまま哀れに軋む。その音は、まるでこの家そのものの呻きのようだった。空虚な中庭には干からびた噴水と苔の絨毯、風が吹けば窓ガラスが幽かに震え、死者のささやきのように響く。ここは、かつての栄光を喪い、それでもなお己を“次の宰相”と信じて疑わぬ男の、執念の根城である。そしてこの日、またひとり――運のない来客がいた。
「――ハミロフは俺の本家筋だが、相変わらずひどいな」
屋敷の応接間に通されたドリーは、埃の山と煤けた燭台に目を細めた。かつては宮廷にも名を連ねた家の末路が、今やこれだ。
「ははは、ドリー待ちかねたぞ!」
現れたのは、緋色のローブを着崩し、いかにも軽薄そうな顔をした男――イルハム・ハミロフ子爵、ドリーのはとこだ。そのイルハムは自信満々に羊皮紙を片手に掲げている。
「ついに見つけた。魔導界の革命だよ。新系統魔法の幕開けだ!」
ドリーの表情が、ほんの少しだけ固まった。
「――新系統魔法?」
「そうだとも。君も知っているだろう、ミスリルに他の金属を混ぜて――なんだ、あれだよ、導力が強くなるとかなんとか」
「ミスリル合金による魔導効率の向上ですか?」
「そう、それそれ。それだ、それが核心だ! そこから、新たな系統が生まれる。いや、生まれたと言ってもいい! これがそれの論文だ!」
イルハムは『それ』を連呼しながら勝ち誇った顔で羊皮紙を投げ渡す。ドリーはそれを渋々拾い取ると一瞬で顔を曇らせた。
「――これ、僕の研究メモじゃないですか」
筆跡、文脈、癖。そして右下に焼き印の署名まである。資料ですらない、試験中の走り書きだ。
「ふむ、そうだったかな? でもこれはすごい発見だ。これをもとに魔導杖を作れば、新たな魔法の扉が開くんだ。まったく、俺の見る目も捨てたもんじゃない」
「イルハム子爵。こんなもの“魔法の系統”でもなんでもありません。単なる出力補助技術です。素材が変わったからって、新しい魔法の分類になるわけないでしょう」
「え? でも魔法適正が低い者でも杖から魔法がグワッと出るって誰かが言ってたぞ?」
「なんですかそのふわっとした迷信まがいの話――いや、というか、なんで僕のメモがあなたの手元に?」
「たまたま手に入っただけだ。細かいことを言うな。大事なのはこれが世紀の発見だってことだ」
たまたま手に入るものではない。科学者において研究ノートは命の次に大切なものだ。武官の剣、文官の法典に匹敵するものだろう。しかしそんな事よりも――。
「勝手に発表するつもりですか? これを、あなたの名前で?」
「安心したまえ、俺が責任もって発表してやるよ」
「無断でですか!? ――盗作などと生ぬるい言葉では片づけられません、ただの魔導詐欺ですよ! あなたがやろうとしているのは」
徐々にドリーの声が上ずる。研究者としての矜持を踏みにじられたようなものだからドリーも熱くなってしまい、しまいには声が裏返るほど怒りを露わにする。その下書きに書かれた実験メモとは、たまたま起きたコンタミから導かれた極めて不安定な現象にすぎない。新たな魔導具の素材として使えないかとメモに残したものをイルハムはどこからか盗み出し、新系統魔法として発表すると言うのだ。理論も制御もへったくれもない。到底発表などできる段階でもない。
「新系統魔法の考察すら出来てないのに何を発表するんだ! それよりも我が国の魔導工学を世界の笑いものにするつもりか!」
それでもイルハムは耳を貸さない。いや、最初から聞く気すらなかっただろう。
「そんなことはどうでもいい! “それらしい論文”と、“それらしい実演”があれば十分だ! なんならお前の名前も出してやるぞ? 感謝しろ!」
ドリーは唇を噛んだ。これは、最悪の物語だ。名前なんか出されたら研究者として一発詰みだろう――。
「来月に隣国の使者が王宮に来る。その日に王宮の中庭で発表するぞ! もう既に貴族へ招待状も送ったし、予算も獲得した。――失敗? 失敗しなければいい! “それらしい論文”と、“それらしい実演”があれば十分だ!」
「言ってることが無茶苦茶だ!」
「俺らハミロフ家の威信も掛かっているんだ!」
「お前の責任でもあるんだぞ? いいな、判ったな!」
――そしてイルハムは得意げに片目を細めた。
その言葉に、何かがぷつんと切れた気がした。責任? この無様な空回りの企画を、失敗すれば俺のせいにするというのか。ドリーは立ち上がると、重い扉の取っ手に手をかけた。冷たい風がすっと頬を撫でる。その風に乗って、誰も掃除しない床の埃が、まるで名残惜しそうに彼の足跡を追いかけるように舞い上がる。彼は静かに、そして鋭く言い放った。
「――なら俺は研究所を辞める、やってられん」
扉の向こうに出た瞬間、ドリーはようやく息を吐いた。心がざわつく。悔しさ、怒り、そしてなにより――こんな茶番に、自分の名前が利用されようとしていることへの、深い、深い嫌悪。それでもどこかで理解してしまっている自分がいた。動き出した歯車はもう止まらない。新たな物語がいびつに始まってしまったのだ。
* * *
玄関の扉が軋む音を立てて閉じるとドリーは何度も深いため息をつきながらまっすぐとリビングのソファへと歩み寄った。その背には目に見えない重石のような疲労がまとわりついている。いつもの定位置に腰を落とすや否や、彼はぐったりと肩を垂らして額に手を当てた。もうひとつ、深く重い息が漏れる。
研究者としての矜持も、国の威光も――今日ばかりは、この疲れには敵わない。と、その空気を和らげるようにふんわりと柔らかな足音が近づいてきた。バターと芋を焼いた甘く香ばしい匂いが懐かしい安心感とともに鼻をくすぐる。その匂いだけで張り詰めていた心の緊張がふわりと緩んでいくのをドリーは静かに感じた。
「おかえりなさい、あなた。イルハムのお宅に行ってたんでしょ? ――って、なにその顔。世界の終わりでも見てきたみたいね」
台所から現れたのは、妻マリシア。錬金術の世界でも一目置かれる才媛にして、ドリーのかけがえのない伴侶だ。研究所では冷静沈着な科学者も、今は部屋着姿に髪をひとつに束ね、ほんのりと火照った頬が柔らかく灯に照らされている。手には素焼きの皿に盛られた芋バター、もう片手には香り高い赤ワインのカップ。彼女はそれらをそっとテーブルに置くと、自然な仕草でドリーの隣に腰を下ろした。二人の距離が近づいた瞬間、部屋の空気がほのかに変わる。ワインの赤がランプの薄明かりの下で静かに鈍く輝いた。
ドリーはしばし言葉を探すように沈黙し、それからぼそりと、今日の出来事を語り始める。イルハムの暴挙――基礎研究どころか理論の構築すらないまま、あの不安定な現象を「新系統魔法」として王宮で発表すると言い出したこと。科学でも魔法でもない、ただの詐欺まがいの空論。理解も誠意も欠いた、傲慢な態度。ひととおり話し終えると、マリシアは一瞬吹き出し、それから冷ややかな笑みを浮かべた。
「はは、マジであいつ、魔法研究をなんだと思ってんの? ……まさか、“混ぜればなんか出来る”とでも思ってる? それに基礎研究もままならないものを発表って、何を見せびらかすの?」
皮肉を込めて、しかし明快に言い放つその口元には、ワインを一口含んだ艶やかな笑みが浮かんでいる。そして、さらりと続けた。
「――恥?」
その一言にドリーの頬がわずかに緩んだ。張り詰めていた緊張の糸が少しだけほぐれる。ドリーはマリシアのワインを一口借りて飲み、静かな沈黙が二人の間に流れた。言葉はなかったが、その静けさが心をじんわりと温めていく。
やがてマリシアがそっと手を伸ばし、ドリーの肩に触れた。その手のひらには、どんな慰めよりも確かな優しさがあった。
「本当に王室研究所、辞めるつもり?」
ウインク混じりに、けれどその声は冗談めいていながらも真剣だった。ドリーは一拍置いて、ふと笑った。
「――あぁ。ちょっと生活が苦しくなるかもしれんが」
彼はそう言ってゆっくりと立ち上がる。そしてマリシアからワインのカップを受け取り一息に飲み干した。それは彼なりのひとつの決意の形だった。
「いいよ、全然大丈夫」
マリシアも立ち上がると、何のためらいもなくそう答えた。そして、小さく笑いながら、続ける。
「ふふ。あなたと一緒なら、どこにでも行くわ」
二人の声が重なり、吐息が交わる。外の世界がどれほど不条理でも、この空間だけは――確かに、守られていた。
* * *
同じ頃、エラール貴族街の一角――石畳が磨き抜かれ、花壇は季節の花で彩られた壮麗な屋敷があった。メソド・オセピャン男爵邸。ファサードだけ見れば伯爵家の邸にすら見える、彼の爵位に不釣り合いな屋敷だ。近隣の口さがない貴族たちですら口をそろえてこう噂する。――裏金で建てたに違いない、と。
その屋敷の執務室には簾が掛けられ、外の風が心地よく揺らす。だがその涼やかさとは裏腹に室内の空気はどこか濁っていた。その中心でメソドは重そうな金ボタンの付いた貴族服に身を包み、肘掛け椅子にどっかと腰を下ろして独りごちた。
「イルハムの野郎、発表会の予算を何とかしろって最初に聞いた時は豪腹だなと思ったが――それを中抜きして王家の連中らに献金すりゃ俺の株も上がる。うまくやりゃ子爵の椅子も夢じゃねえな」
爪を整えながらにやけるその顔に下劣な笑みが浮かぶ。その爪の先には応接用ソファに腰かけた大柄の男。クシュラ・ポム。新都エラールの中堅商会《ポム交易》を率いる、商会を継いだ父の名に泥を塗るまいと真面目一筋で奮闘する商人だ。整った顔立ちに端正な服装。すらりとした体躯。メソドとは対照的に生真面目で誠実な男である。
そんなクシュラは手にした羊皮紙を睨みつける。額に浮かぶ汗を拭う余裕もない。
「――この額で、装飾だけでなく食事も、ですか?」
クシュラの低く絞り出された声を聞いてメソドはくつくつと笑う。
「領収書は――言わんでも、分かるよな?」
羊皮紙に書かれていたのは発表会の運営費としてはあり得ない低予算。まともに請け負えば赤字どころか、信用にも響く。しかし嘘の領収書さえ出せばメソドは差額を好きに使える――そんな構図が透けて見える。クシュラの顔が引きつる。
「無理です。装飾だけならまだしも、食事にワイン、給仕まで含めたら――」
「おいおい」
メソドは腰を浮かせ、机に片肘をついた。目を細め、口の端を歪める。
「俺はノクシオス卿から、王宮財務を任されてる身なんだぜ? そんな俺様がお前の会計帳簿に不審な点があるって税務局にチクったら――商会ごと簡単に吹っ飛ぶぞ?」
その言葉には薄く毒を含んでいた。
「なっ!?」
クシュラの声が詰まる。部屋に静かな風が流れ簾がわずかに揺れる。どれほど真っ当な商売でも長くやっていれば一つや二つ突かれれば困る点はある。王宮の権力を背景に圧力をかけられれば潔白もまた罠になる。蝋燭の芯から一滴、蝋が垂れる音が妙に大きく響く。クシュラは拳を握り、震える声で呟いた。
『――商人の意地だ。ここは、耐えるしかないか』
持ち出しで片付けるのは容易い。しかし商会のために働く社員たちの汗を思えば彼らの苦労を無にするような真似はできない。それならば俺にできる最大限の努力と抵抗をするまでだ。それは誰に言うでもない己の中の決意だった。父から継いだ商会をこんな連中に潰されてたまるか。
内心静かに、だが確かに闘志が灯るのを感じながらクシュラは目の前の偽領収書の山に沈黙のまま視線を落とす。それは燃え盛る炎をじっと見据えるような覚悟の色を帯びた眼差しだった。そしてしたり顔で追加の書類を差し出すメソドの薄笑いを射抜くように睨みつけた。しかしメソドはその鋭い視線など意にも介さずさらなる追い打ちをかけるように言葉を重ねた。
「お前の商才は、嫌いじゃないぜ? だからこそ回してるんだ、この仕事。持ちつ持たれつ、だろ? “できない”じゃない、“やれ”よ。クシュラ。――それに、恩を忘れんなよ。俺が、せっかく作ってやった『チャンス』なんだからな?」
にやりと笑ったメソドの顔は金の匂いにまみれた狡猾な笑みだった。――その笑みは王宮の財務担当の顔でない、金貨一枚すら惜しむひたすらにケチくさい小男そのものであった。
★ ★ ★
一か月後。
王宮の中庭は今宵の催しのために絢爛豪華に飾り立てられていた。燃え盛る篝火が夜空を赤く染め、黄金色の燭台に灯された無数の蝋燭が光を放つ。長テーブルには香ばしいロースト肉や色とりどりの果実、そして惜しげもなく注がれた深紅のワインが並ぶ。楽師たちの調べが優雅に響き、華やかな衣装に身を包んだ貴族たちがグラスを傾けながら談笑している――表面上は。
だがその華やかさとは裏腹に貴族たちの間で交わされる言葉は刺すように冷たかった。イルハム卿が今宵、開発したという新系統魔法を披露する発表会。それがこの宴の目玉だったが誰もがその成功を信じていない、いやむしろ失敗を待ち望んでいるかのようだった。
「イルハム卿が新系統の魔法だと? 笑止千万!」
「ノクシオス卿に媚びを売る以外に能のない文官風情が、一体何を成し遂げられるというのだ?」
「どうせまた、宰相の機嫌を取るための見え透いたゴマスリさ」
「宰相を輩出した名門の末路がこのざまとは、見るに堪えん」
「それに、よりにもよって隣国の使者が列席するこの日に発表会とは!」と、若い貴族が声をひそめる。
「失敗でもしようものなら、我が国の威信に傷がつく。誰か止めるべきじゃないのか?」
煌びやかな衣装に身を包んだ彼ら貴族らの視線はイルハムたちが立つ前の舞台を遠巻きに捉えていた。そこには期待の欠片もない。ただ哀れな道化師が舞台で滑稽に躓く瞬間をいまかいまかと待ち構えるような侮蔑と嘲りが滲んでいた。
そして芝居がかった態度で悠然と登壇したのがハミロフ家の現当主・イルハムだった。青白く光を放つマントを翻し、片手に掲げた奇妙な杖には銀と紫の妖しい輝きが宿っていた。
その横にはなぜか会計担当のメソドも立つ。商人など立場の弱い者の前では強気だが、上位貴族らが勢ぞろいの壇上ではメソドは書類の束を抱え居心地悪そうに目を泳がせていた。
「本日はお忙しい中、私イルハム・ハミロフの研究発表会にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
彼は優雅に一礼すると、誇らしげに杖を掲げる。
「この『イシルディン・ロッド』こそが、魔法の未来を切り拓く鍵なのです!」
ざわめきが中庭に広がった。
イルハムが掲げた杖――聞き慣れぬ素材名で呼ばれたその一本は、燭台の光を鈍く反射し、まるで場違いな玩具のように見えた。発表会の案内状には「設計協力」として小さくドリーの名が記されていたが、彼はすでに王室魔法研究所を退職済みだ。その退職理由についても貴族たちはあれやこれやと噂を立てていたのだがイルハム達は気付かない。
イルハムは堂々と胸を張り、「魔導伝導率の最適化」「共鳴干渉の抑制」と、専門用語らしき言葉を次々と繰り出した。だがその内容は曖昧でまるで意味を成さない呪文の羅列のようでだった。声は自信に満ちていたが時折言葉に詰まり額に浮かぶ汗が燭光にきらめく。
「ふん、またそれらしいインチキ用語を並べて――」
中庭の隅で腕を組むドリーは深い溜息をつき目を伏せた。準男爵の肩書で一応招待されていたものの彼にはこんな場に出席する気など毛頭なかった。発表会の強行を言い出した日、彼はこの馬鹿げた発表会に巻き込まれまいとさっさと退職したことを思い出す。再就職はどうしようかと悩む日が続いているが、妻のイリシアが『せっかく招待されたのだから冷やかしに行こうよ』と目を輝かせたため、渋々足を運んだのだ。
イルハムの発表を聞いて貴族たちの間では、嘲笑がさざ波のように広がっていた。
「新系統の魔法? こんな子供騙しの戯言で我々を納得させようとは!」
「金に汚いメソドまで引っ張り出すなんて、よほど人手不足なのね」
貴族たちがグラスを傾けながらくすくす笑う。
隣国の使者さえ、眉をひそめて魔術技官に何かを尋ねている様子だった。
イルハムは貴族たちの冷ややかな視線に気づいているのかいないのか、なおも杖を振りかざす。
「この新系統魔法は我が国の魔法史を塗り替える!」
――と声を張り上げた。だが、その声はどこか空しく響き、演壇の脇でメソドが書類を落としそうになる小さな音にかき消されそうだった。
ドリーはちらりと隣にいるイリシアを見やった。彼女はどんな手品が繰り広げられるのかと興味津々といった様子で演壇を見つめているが、ドリーにはわかる。種明かしは私におまかせ、と。
「イルハム殿はいますぐごめんなさいして降壇したほうがいい」と呟き、ワイングラスを手に取った。
「では――新系統魔法の第一段階を、お見せしましょう!」
イルハムが杖を振る。
――ボンッ!
空気が震え、杖の先端から派手な火花が弾け、地面にバチリと火花を散らした。一瞬、貴族たちの間にざわめきが走る。だが、何が起きたのか分からない。失敗した雷系統の魔法と言ってしまえばそれまでだが。
「す、すごいだろ! 今のが、第一段階だ!」
イルハムは力強く叫ぶ。しかし観客たちの反応は薄かった。貴族同士であれやこれやと耳打ちしあう。それを見てイルハムは焦り、メソドは目を泳がせる。そして焦りを覆い隠すかのようにイルハムはさらに叫ぶ。
「では次に、広域エネルギー放出を――皆さま、驚かぬよう刮目せよ!」
イルハムは満面の笑みを浮かべ、まるで舞台俳優のように芝居がかった動きで両腕を広げて見せた。彼の手には異様な装飾の施された銀と紫の妖しい輝きの杖。金属と鉱石を銀蝋で継ぎ接ぎにしたのだろう、見ようによっては美しくも見えた杖を、高々と掲げ――
――バチィィィン!!
――ボボンンッ!!
現在研究中の無詠唱魔法だった。
詠唱もなく突然空気が裂けるような爆音とともに杖から火花が炸裂した。紅、緑、紫、金――まばゆい閃光が炸裂し、夜空に放たれたそれは星屑のように瞬いて宙を舞い、観衆から一斉に歓声が上がる。
「うおおっ!」「新手の花火か!?」「美しい!」
一瞬の輝き――
だが、それは『惨劇の輝き』だった。
火花の粒は空中で異様に長く漂い、重力を忘れたかのように弧を描きながら、やがてゆっくりと降下し始めた。
――バシャッ!
最初の火花が貴婦人のテーブルのワイングラスに落ちた。
ワインは虹色に輝きながら発泡し、音もなく破裂する。貴婦人は慌ててワイングラスを投げ捨てた次の瞬間、泡立った液体が中庭にこぼれてこぽこぽと音を立てて一面に広がる。
「な、なぜ、ワインが泡を!?」 「熱い、なにこれ!? 服が、服が――!」
「きゃあああっ!!」「ドレスが、ドレスが焦げてる!?」 「火花が――火が、火が燃え移ったぞ!」「あの照明にまで蔓が! 崩れる、逃げろ!」
ぼこっ、ぼこっ……!
すると突然、地面が脈打つように泡立ち、突如、植物の芽が土を割って生え出した。その芽が徐々に鋭く尖った蔓となり、うねりながら蠢きテーブルの脚に絡みつく。椅子が引き倒され、悲鳴が重なる。
空から次々に降ってくる火花が、観客の髪や衣服に落ち、小さな火の手を上げた。薄いドレスはたちまち焦げ、香水とともに焦臭い甘さを放ち始める。中庭に置かれた篝火が蔓に引き倒され、テーブルクロスに火が移り――それはまるで地獄の祝祭だった。
「こ、これが! これが新系統魔法の真髄です!!」
イルハムはなおも声を張り上げ、両手を広げて高らかに宣言した。額に脂汗を浮かべ、周囲の混乱を――予定通りの演出――であるかのように偽ろうとするその姿は、滑稽というよりも哀れだった。しかし実際には――ドリーには協力を拒まれ、悩んだ末にモグリの錬金術師にレシピ通りのミスリル合金素材で作らせた粗悪な「仕込み杖」だ。掃射装置に硫黄と木炭とミスリル粉、そして金属粉を詰め込んだだけのお粗末なものだった。
それがいま、この王宮中庭を、未曾有の魔禍の宴へと変貌させていた。
「ち、違う! 俺のせいじゃない! 杖が――いや、論文を書いたドリーが!」
叫ぶイルハムの声を、鋭く切り裂くような声が響いた。
「僕はそんな論文、書いてませんよ」
混乱する中庭だったが、ドリーの一言で騒ぐ貴族たちは一瞬にして静まり返る。
貴族の中でドリーの名を知らぬ者などいない。何せ独自研究で魔導エンジンの理論を組み立てて『加熱・冷却のスクロール』を実用化させた名誉で準男爵位を授爵した研究者なのだから。
隣国の使者ですら困惑の表情を浮かべる中、そのドリーがゆっくりと歩み出た。彼は演壇の前に立ち、冷ややかな視線をイルハムに突き刺した。
「研究ノートに、『ミスリル合金の可能性』とだけ書いた。それもごく初歩的な観察メモです。理論も、制御式も、一切触れていない。そのメモを勝手に盗み出して『お前の名前を出して新系統魔法として実演発表する』と言うから、僕は先月、王立魔法研究所に辞表を出しました」
ドリーの声は静かだったが言葉の一つ一つに鋭い棘が込められていた。彼は鼻で笑い侮蔑の色を隠さない視線をイルハムに投げつけた。だがその瞳の奥には怒りや軽蔑だけではない。もっと深い感情、悲しさも揺れていた。基礎研究を積み上げたらひょっとして夢のある新素材が出来ていたのかもしれないのに、こんな形でミソを付けられたのだから。
「ただの炸薬仕込み杖を新系統の魔法として発表するとは恥知らずだ」
「焦げた髪とドレスの謝罪を要求するわ!」
誰かが叫ぶ。絹のドレスに点々と焦げ跡が広がり、精緻に結い上げられた髪が煙を上げてちりちりと焼けた貴族たちが怒りに顔を歪めてイルハム達へ一斉に詰め寄った。ある者は扇を握り潰しある者は焦げた裾を掴んで喚き、誰もが今にも爆発しそうな激昂の表情だ。
「違法な爆破魔法じゃないか!」
「魔法制御は術者の責任だ!」
「インチキじゃないか!」
と、罵声が嵐のように演壇を叩く。そして誰かが演壇に上がるとイルハムとメソドを引きずり下ろした。
「ぐ、ぐぬぬ! ――ま、待ってくれ! メソド! お前も関わってたよな!?」
「会計だけだよ! 俺は金しか見てない! ――そもそも俺、魔法苦手だし! 理論とか無理だし! ていうか今この場にいたことにしないでくれ」
引きずり降ろされた二人は無駄にあがくが、貴族たちから足蹴にされ怒号が飛びかう。そんな時、中庭に突然生えた蔓に足を取られた貴婦人がバタリと倒れるとパニックはさらに広がっていく。衛兵や警備兵も飛んできて中庭は騒然となる。
一方、パーティの実務を取り仕切っていたクシュラは頭を抱えて青くなっていた。食材も装飾も自らの手で用意したのだが――今や中庭はパニック寸前である。
「この催し、どこの商人が手配したのだ?」
その混乱を断ち切るように中庭に響く静かな声。振り返る一同の前に立っていたのは、伯爵位を預かる大身・クラレンス。重みのある渋い声に、貴族たちのざわめきが一瞬で止む。クシュラは群衆の後ろで身を縮めうなだれながら進み出た。
「はい、私、クシュラ。《ポム交易》でございます」
「そうか。もしよかったらこの宴、メソドからいかほどの予算でやってみせろと言われた?」
突然の質問に彼の声は小さく、まるで己の敗北を認めるかのように応えた。メソドが出した予算は、王宮の宴にふさわしい規模とは程遠いものだった。それでもクシュラは自らの人脈と機転を総動員し、安価ながら貴族の舌を唸らせるワインや食材を厳選。装飾や楽師の手配まで夜を徹して奔走し何とか形に仕上げたのだ。だがイルハムの失態で全てが水の泡――『終わった』と彼は心の中で呟いた。商人としての評判もこの夜で地に落ちるだろう、と。
ところが、予想外の声が上がった。
「おい、商人! そのワイン、絶品だったぞ。わが領地の宴にも卸してくれ!」
「食事も素晴らしかったわ。あの果実の盛り合わせ、どこで仕入れたの?」
「ポム交易、たいしたもんだな!」
と、クシュラをたたえる声が笑い混じりに響く。クシュラは呆然と立ち尽くした。騒動の渦中で、なぜ?
彼の手掛けたワインは、確かに市場では安価な部類だったが、提供される料理に併せて厳選した逸品だ。料理も質素な素材を巧みな調理で貴族の口に合うよう仕上げるよう料理人に注文を出した。だがこんな状況でそれが評価されるなど想像だにしていなかった。イルハムの滑稽な失敗が貴族たちの怒りを引き寄せた一方で、クシュラの細やかな手腕は、彼らの記憶にしっかりと刻まれていたのだ。
クラレンス伯がゆっくりと頷くと口元に薄い笑みを浮かべた。
「ふむ。良い仕事ぶりだったぞクシュラ殿。次は我が館の宴を任せたいな」
その言葉にクシュラの胸に熱いものがこみ上げた。絶望の淵で差し伸べられた称賛は、商人としての誇りを静かに灯した。
中庭のドタバタを見ながらワインを傾けていたマリシアが微笑んだ。
「ところで――生えてきた蔓、ブドウじゃない?」
* * *
その混乱の中、ひとりの黒服の男が落ち着いた足取りで現れる。
黒服の男は舞台の前でもみくちゃにされるイルハムたちを見下ろすとソフト帽をゆっくりと摘み、男は礼儀正しく言った。
「失礼。王宮会計院特別捜査官のマドベと申します。この発表会について、少し――お話を伺いたいのですが」
その声は低く、渋く、よく通った。野次馬の間にざわめきが走る。
王宮会計院の特別捜査官、貴族がその名前を聞くときは不正を告発される時だ。
『囚人を刑場へ呼び出す執行人』ともあだ名される役職名だ。
「い、、今はそれどころではない、しかも任意なら拒否す――!」
しかし興奮状態のイルハムには理解が追い付かないのか、マドベに怒鳴りかけた瞬間、彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、ゆるりと掲げた。
「王宮捜査令状です――王国刑法159条私文書偽造の罪および161条行使の罪、それにともなう収税法第94条・不正領収書の取扱いに関する規定に基づき、詐取および虚偽帳簿の嫌疑により、イルハム子爵とメソド男爵の両名を拘束します」
「なっ!? 俺たちは貴族、官吏風情が偉そうに――」
「御託はそこまでにするんだな」
メソドの手から帳簿が滑り落ち、石畳に散らばる。一人の女性収税官がそれを拾い上げ、確認する。
「俺の、俺の次期宰相計画が――!」
「ば、馬鹿な! 俺はただイルハムのバカ計画に乗せられただけだ! 俺は関係ねえ!」
メソドは書類の束を胸に抱え、震える声で叫びながら収税官の手を振りほどこうともがく。その目は怯えと混乱に揺れ、まるで巻き添えの犠牲者であることを必死に訴えているようだった。そしてイルハムは泥だらけの姿でよろめきながらなおも虚勢を張って喚く。だが、その声はかつての自信を欠き、ただ敗北者の嘆きとして空しく響く。貴族たちの一部が冷ややかな視線を投げかけ、「恥知らずめ」「ハミロフ家の面汚しだな」と囁いた。
「詳しくは取調室で伺います――かつ丼は出んぞ」
マドベが、鋭い目で二人を睨みつけ皮肉と威厳を滲ませる。衛兵たちはさらに力を込めて二人を引っ立てた。群衆が道を開け、嘲笑と罵声が容赦なく降り注ぐ中イルハムとメソドの姿は哀れな道化の行列のようだった。
その時、連行される二人がドリーの立つ横を通り過ぎた。ドリーは腕を組み凍てつくような視線をイルハムに突き刺した。――目の前にいるのはハミロフ本家の当主なんかではない、嘘と裏切りで自らを破滅させた男だ。ドリーの唇がわずかに動く。
「イルハム――二度とハミロフの家名を名乗るな」
その言葉は、鋭い刃のように静かにしかし深くイルハムを切り裂いた。イルハムは一瞬顔を上げてドリーを見たがすぐに視線を落とし衛兵に引きずられるままドリーの横を通り過ぎる。メソドはドリーと目が合うと、怯えたように顔を背け震える手で書類を握り潰していた。ドリーはゆっくりと息を吐き、イルハムに背を向けた。軽蔑と失望の重さは、胸に冷たい余韻を残していた。だが、その瞬間、そばに立つマリシアがそっと彼の手を握った。
「ねえ、ドリー。私も仕事、辞めたのよ。二人で新しい研究始めよう?」
彼女の声は軽やかだが、どこか真剣な響きを帯びていた。ドリーは一瞬、篝火が揺れる夜空を見上げた。イルハムの破滅と、自分の過去が、まるで遠い影のように感じられた。
「――ああ。マリシアとなら」
地面に生え広がる蔓を見つめドリーは呟いた。彼の声には微かな、だが確かな希望が宿っていた。
衛兵たちがイルハムとメソドを連行していく。その行列の先にクシュラが静かに進み出た。手には分厚い封筒――彼が命がけで集めた証拠の全てがそこに詰まっていた。ソフト帽から覗くマドベの目が鋭く光る。
「マドベ殿、こちらがイルハム様とメソド様の不正取引の記録です。私が発行した正式な領収書も全て添付済みです。予算の水増しや、偽装された素材費、裏金の証拠――全てここにございます」
クシュラの声は落ち着いていたが、抑えきれない決意が滲んでいた。マドベが鋭い目でクシュラを見据えた。だがその口元には微かな笑みが浮かぶ。
「――では、預かります」
彼は黙って封筒を受け取り衛兵に一瞥を投げて連行を続けさせた。イルハムは衛兵に引きずられながら蒼白な顔でクシュラを振り返った。
「クシュラ、貴様!」
だがその声はすぐに衛兵の足音にかき消された。メソドは書類の束をさらに握り潰し怯えた目で地面を見つめ、ただ震えるばかりだった。クシュラは深く息を吐き、正面を見据えた。
「今日をもって、イルハム様、メソド様との全ての取引を終了しました。いままでのご利用ありがとうございました!」
その言葉は、静かだが断固とした刃のように騒然とした中庭を切り裂いた。彼の胸にはこれまでの重圧が蘇っていた。イルハム達の無謀な計画、無茶な予算の穴を埋めるために奔走した夜。貴族の舌を満足させる宴を限られた予算内、安価な素材で作り上げた苦労。そして不正の片棒を担ぐ自分への嫌悪――全てを振り払うためのこの一歩だった。
突然、群衆の間から拍手が湧き起こった。
「ポム交易、最高だ!」
「クシュラ殿、ワインについて商談がしたい!」
「次は我が領地の催しを頼むぞ!」
と、髭の貴族たちがグラスを掲げて叫ぶ。クシュラの細やかな手腕がイルハムの失敗を背景に貴族たちの記憶に鮮やかに刻まれていたのだ。クシュラは呆然と立ち尽くし肩の力を抜いた。騒動のカオスの中でこんな称賛が自分に降り注ぐとは想像もしていなかった。視線を中庭の端に投げると、遠くで蔓が篝火の光に揺れているのが見えた。
「ありがとう――ようやく一歩踏み出せそうだ」
彼の呟きは、夜風に溶けるように静かだったが、その胸には商人としての誇りと、新たな未来への確かな希望が灯っていた。
★ ★ ★
発表会の翌朝。
中庭は静寂に沈んでいた。
イルハムの「新系統の魔法」が引き起こした騒動は夜と共に消え、残されたのは地面を這う無秩序な緑の蔓だった。メイド達ですらその乱雑な光景を失敗の汚点と嘲り目を背けた。
だが、中庭の端で、ひと組の老夫妻が汗を流す。
誰の目にも止まらず、静かに動き始めていた。
「ここは儂が……なんとかするよ。」
老いた男は王宮のメイド長に静かにそう言うと、深い皺に刻まれた顔を上げてかすれた声で呟く。ぼろぼろの外套をまくり廃材から木材を切り出した。彼の仕草にはどこか威厳を帯びた落ち着きがあった。男は丁寧にパーゴラを組み上げ地面を這う蔓を一本一本剪定しては絡ませ、まるで傷ついた大地に秩序を呼び戻すように形を整えた。
「この蔓、ブドウなのね。せっかく生えてきたのだから、無駄にはできないわ」
男の妻は穏やかに微笑み男とともに手早く枝を剪定する。彼女の手つきはかつて華やかな宴で人々を導いた優雅さがかすかに残っていた。陽光を浴びて青々とした葉を広げる蔓はイルハムの魔法の残滓とは思えぬ生命力で伸び中庭を覆う緑の波となった。
その後も夫妻は毎朝、朝露に濡れながら根を養い枝を剪定する。まるでこの国そのものを癒すかのような慈愛で世話を続けた。やがて蔓は小さな実を結び始めた。紫に輝くブドウが一つ、また一つと実をつけ、夫妻はそれを丁寧に手に取って確かめた。男は実を見つめて静かに一人ごちた。『これなら、良い酒になる。』妻はそっと頷き彼の手を握った。
その瞬間、朝日がパーゴラの隙間から差し込み、ブドウの葉を黄金に染めた。
しばらくして秋の半ば、『シャトー・エラール』という新酒ワインが少量ながら王国内で出回るようになった。深紅の液面にはかつての騒動の影はない。ただ芳醇な香りと静かな希望が漂う。だがその始まりがイルハムの破滅から生まれた奇跡、名もなき老夫妻の無私の献身とそしてエラールの中堅《ポム交易》の努力だったことを、誰も知らない。い、知る必要もないのかもしれない。
「陛下、来年もいいブドウができますかね?」
「――出来ればいいね」
* * *
夜の辺境キュリクスは、星空の下でひっそりと息づいていた。
西区職人街の立飲酒場『酔虎亭』はテーブルがわりの木樽と煤けた提灯が揺れる。
職人たちが肩を寄せ合い、笑い声と酒の香りが響き合う。粗野で温かい灯りに満ちていた中で、お忍びでやってきた領主ヴァルトアは静かにグラスを傾ける。
「ほう――こいつはいい新酒だな。シャトー・エラール、だと?」
ヴァルトアの無骨な手が深紅のワインを緩やかに揺らし、燭光に映る液面を目を細めて眺めた。武辺者の彼の顔には領主の威厳というよりどこか少年のような好奇心が混在していた。
「ヴァルトア様! それ、めっちゃ美味そう! 私にも一口、ね、一口だけ!」
女家臣アニリィが身を乗り出した。赤毛を無造作に束ねた彼女の目は飢えた狼のようにワインを追い、グラスに手を伸ばす。だがその瞬間、隣に立つスルホンが鋭い目を光らせた。
「アニリィ、お前は禁酒中だ! また酒で暴れて洞窟を全壊させる気か? 我慢しろ!」
スルホンの静かだが容赦ないツッコミが酒場に響く。彼の声には上司の呆れというよりどこかアニリィを放っておけない愛情が滲んでいた。アニリィは涙目になりながら「うーっ」と唸り木樽に額をゴンとぶつけて抗議したが、すぐに諦めたように肩を落とす。
酒場はくすくすと笑いに包まれた。顔なじみの金属加工職人が、
「アニリィ姫、まだ禁酒一か月目だろ? あと二か月は耐えろ、頑張れよ!」
とからかう。いつの間にか女家臣は客たちから「姫」とあだ名されるようになったという。――もちろん「酔いどれ姫」を省略して、だが。
酒場の娘であり領主館で勤める新米メイドのプリスカが、
「スルホン様、厳しいねぇ! それならもう少し売り上げに貢献してよ!」
と笑う。
「俺は飲めん! プリスカ君のおすすめを貰おう」
「毎度あり! 姫閣下も同じのでいいよね?」
「うーッ!」
ヴァルトアはグラスを置き、二人とプリスカを眺めて小さく鼻で笑った。
「アニリィ、こいつは確かにうまい。スルホン、たまにはこいつを許してやれ。――てか酒が飲めないって泣くやつがどこにいる」
「ヴァルトア様までそんなこと言うんですか!」
「てことは飲めるんですね! じゃあプリスカちゃん、シャトー・エラールを3本持ってきて!」
「馬鹿野郎、禁酒だぁ!」
スルホンが頭を振ると酒場はどっと沸く。
シャトー・エラールの芳醇な香りが、酔虎亭のざわめきに溶け込み、辺境の夜は静かに、だが確かに温かさを帯びていた。
実は中の人はジャガイモが食べられません。料理で芋を書くことが多いのですがどんな味か、――知らないんですよね。サツマイモや里芋は好物なのですが。
「じゃがバターってうまいん?」って妻に聞いたら「んまい」と応える。
「どんな味?」と聞いたら「じゃがバターの味」って言われ当惑したことがあります。
王宮会計院の特別捜査官マドベ、元ネタはご存じの方だけクスリとしてください。
モデルは小林稔侍さんです。
※幕間なのでネリス訓練生の活躍はお休みです※
「お休み」で何も書かないと暴動が起きそう(ぇ)なので、領主軍コソコソ話。
入隊条件は『初等学校卒業もしくは一定年齢に達した、健康な男女(幹部育成のため22歳上限)』です。
初等学校を卒業直前に就職先が無くなったネリスは悩んだ末に領主軍に入ります。
……ということは、ネリスの年齢設定は12、3歳!
んでこの王国の飲酒年齢は12歳以上、らしいです。
あと、メリーナ小隊長の年齢について質問来てた。
――実は11話ラストに書かれてます。
『ちなみにあの小隊長が言うにはメリーナさん、実はヴァルトア様より年上らしい』
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