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188話 武辺者と、ぐだふわ評定 =再構築版=

188話を再構築した上で再投稿致しました。

 領主館軍議の間。


 週の始めの午後一番には文武官が顔を揃え、キュリクス領の政策を話し合う定例評定が開かれる。全員絶対参加というわけではなく、取り組んでる業務によって欠席しても良いとなっている。今日の評定はでナーベル、レオナ、レニエが緊急業務で欠席だった。


 この定例評定は領内で湧き上がる課題について率直な意見を交わし合い、情報を共有するための場だ。俎上にあげられる議題といっても「マイヅ村のナス豊作」のようなささやかなものから「ロバスティアの領地侵犯問題」といった重大で緊急を要するものまで多岐にわたる。ヴァルトアは領主としての重責を胸にし、静かな眼差しで会議を取り仕切っていた。


「……では治安維持活動についてはそんなところか、では次の議題だ」


 議事進行役のヴァルトア──領主なのになぜかいつも議事進行を担当してる──は、軍議の間に居並ぶ文武官を見廻した。この会議ではいつも皆が緊張感をもって参加してくれるが、一人だけうとうとしてる女が居る、アニリィだ。時々、隣に座るユリカやウタリが袖を引っ張ったり肘で突いてるが、彼女は意外と話を聞いてるのだ。ヴァルトアはいびきをかくまでは我慢してようと心に決めている。右前に座るトマファからキュリクスとルツェルとで取り組んでる技師交換についての議案が回された。


「──ハルセリア嬢の尽力で加工技師五名、錬金術師三名がキュリクスにやってくるそうだ──トマファ、進捗や状況を詳しく聞かせてくれ」


「御意。──両国で技術交換することによって互いの強みを活かし合い、さらなる技術発展を遂げようという話は前にもしましたが、今回はその第一歩としてルツェルとの技術交換会を開催する運びとなりました──」


 金属加工を得意とするキュリクスとルツェル、これまでもギルドレベルでの技師交流はあったものの権利問題や財源確保、法律の壁など、多くの課題が立ちはだかり、技術発展に繋がっているとは言い難かった。この状況を打開するため両国間で協議を重ね、互いの技術的な強みを活かすことで発展を加速させるべく今回の覚書が調印された。ルツェル大公もこの合意には大変満足しており、すでに王宮から選りすぐりの技師を派遣されるという。



「うむ。──では、皆の意見を聞こう」


「彼ら技師の受け入れ態勢はルツェル大使館のアンドラ参事と整えましたが、──やはり窓口となる人材登用が不可欠ですね。技術的な事を聞かれても私やトマファ殿では即断出来ない場合がありましたので」


 ウタリがふぅとため息をつきながら言った。今回の受け入れ担当窓口となったウタリは技師の滞在先や持込品についての問い合わせで異様に手間取ってしまったのだ。「レオナ殿ばかりに頼るのも大変だろうしな」と彼女の言葉をスルホンが引き継ぐ。


 技師交換や技術交流を行うことは簡単なことではない。どの技師がどのような技術を持っているか、それが共同研究でどんな成果につながるのかを正しく見極め、調整しなければ『ただの交流会』だ。今回ルツェルからやってくる技師がいろんな薬剤を持込みたいと言ってきたのだが、実は国境通過には許可申請が必要ということが入国直前に判り、その申請手続きに右往左往してしまったのだ。たまたまその話を聞きつけたレオナが「その薬剤は加工ギルドにあるから大丈夫ですよ」と言ってくれたために事なきを得たが、もし一回目の交流会でコケたら大変なことになりかねない重大なミスだったのだ。


 担当する文官には各技師の経歴や専門分野を把握し、双方の研究テーマを突き合わせて実りある形に仕立てる役割が求められる。さらに滞在先や資材の手配、成果報告の整理といった事務的支援も必要となるだろう。幸い金属加工ギルドと付き合いが深いレオナが技師や研究者の選定を担い、キュリクスからルツェルへの送り出し第一号まで整えてくれたが、彼女一人にすべてを任せるのには限界がある。人一人が出来る仕事量にはどうしても上限があるのだ。


 そこへ今の今まで昼食後のせいかうとうととした表情のアニリィがいきなり胸を張り、机をドンと叩いて立ち上がった。


「だからこそ、だからこそですよ! ──を増やすべきです!」


「……え?」


 軍議の間にしばしの沈黙が起こった。隣で資料を読んでたウタリは唖然とした表情を浮かべているし、トマファに至っては飲みかけの紅茶を吹き出していた。書記役のクラーレなんて筆を走らせつつ「な、何いってんの……?」と困惑顔だ。他にもブリスケットなんかは緊張と笑いをこらえるので必死なのか、とんでもない表情だった。


「なぁアニリィ。お前、まだ酒が残ってるのか?」


 トマファの向かいに座る武官次長のユリカは、夫ヴァルトアに代わって場を収めようと怪訝な顔で言うが、スルホンは「なんだそりゃ、軍略用語かギャル語かなんかか?」と理解をしていない。


「ちがう! ──だよ、頭がよくて戦える奴のことだ! やっぱり必要だよね──をさぁ! なぁクラーレっち!」


 自分が思っていた空気と違うことに焦りを滲ませたアニリィは自説を語り、必死にクラーレに話を振ったが、彼女は顔を真赤にして「ま、まぁ……」と言って目を伏せる。ヴァルトアもスルホンもピンときてないのか「???」とさらに首をかしげる。


「そのためにも、──を雇い入れましょう!」


「……お前、自分で今、何を口走ってるのか辞書で調べてこい」


 自信満々の表情のアニリィに、軍議の間の一面に並ぶ本棚を親指で指しながらウタリが言った。かなりの赤面で俯いているトマファ。クラーレは必死に笑いをかみ殺しているのかとんでもない顔になっている。 そこへ部屋の隅で静かに控えていたオリゴがアニリィにスッと寄って耳元で囁いた。


「あんた、さっきから“テクノクラート”のことよね?」


「も、もちろんっ! 先ほどからそう言ってるでしょ!?」


 ユリカは手にしてたティーカップをそっとソーサーに戻すとアニリィを見てこう言った。


「あんたさぁ──さっきからずーっと、こう言ってたわよ……」




「──"テクノブレイク"って」



 クラーレはついに笑いをこらえすぎて筆をボキッと折ってしまった、彼女の緊張の糸が切れた瞬間だった。


「似、似たようなもんでしょ?」


 自分の言い間違いに気づいて顔を真赤にし言い訳をするアニリィだったが、ウタリが軽く耳打ちをする。


「アニリィっち、テクノブレイクの意味はな──」


 それを聞いたアニリィ、とたんに顔を真っ赤にして「~~~っ!! 覚えとけぇ!!」と叫び、椅子を倒して軍議の間を飛び出していったのだった。


 残された皆はしばし沈黙、なんとも言えない空気となってしまった。議事進行のヴァルトアが大きくため息をつくと、「……で、次の議題だ」と強引に会議を続けることにしたのだった。


「てか、アニリィが()()ちまったけど良いのか?──“ブレイク”だけに」


 スルホンのしょうもないオヤジギャグに、トマファがついに笑いをこらえきれなくなったのか咳払いしすぎてむせ返ってしまう。普段の彼()()()()()姿に軍議の空気は完全に崩れ去ってしまった。──おかげで軍議はぐだぐだのまま次の議題へと進んでいったのだった。



 なお後日、テクノクラートは採用したが、テクノブレイクは起きなかった。


 読者諸君も言い間違えには気を付けよう。

・作者註


実を言うと推敲せず、雑に書いた状態でぽーんとアップしてました。

しかも6時間ぐらい気付かず放置。

ぐちゃぐちゃな文章を読ませてしまい申し訳ありませんでした。


(帰宅して「さーて、推敲するぞー!」と思ってたら投稿済になってて、身体中の穴という穴から変な汁が出てくるほど焦りました)

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