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118話 武辺者の若き家臣、実家の危機 =後日談5=

 オレはエンノーラ蒸留所に再就職することになった。


 待遇はなんと『製造課長』と役職までくれるという。そして給与は――意外と悪くない。そしてキュリクスからクリル村まで毎日通勤するなんて不可能なので、蒸留所横の小さな小屋を与えてくれるという。だけど現在は農繁期で酒造は停止中だが、事業再建のためにやることやることが一杯なのは変わらない。


 トマファ様からドロテアさんと私にエンノーラ蒸留所再建策が提示された。


「再蒸留に踏み出すには、まず運転資金が必要です。寝かせる酒は時間もコストもかかってしまう。ですが……ソースなら早い」


 そう言って彼が取り出したのは小瓶に入った黒と赤の調味料だった。『麦の月 香味ソース・赤茄子ソース』とラベルに書かれていた。てか麦の月ってティチノ師とサーシャさんが営む定食屋の非売品じゃない!


「野菜や果実を香辛料と一緒に炊いて作る“香味ソース”はポルフィリ領では肉料理や豆料理、焼き野菜に煮込み料理などに幅広く使われています。ルツェル公国でも濃厚なソースは好まれていて、特にこの“赤茄子ソース”――赤茄子を煮詰めて作る甘酸っぱい調味料は卵料理と相性が良いらしく、彼らの定番調味料になってます。これらのソースは瓶詰めすれば常温保存ができ、火酒と同じ販売経路に乗せて販路を広げることが可能です」


「それ、私が作るんですか?」とオレが言ったとき、トマファ様は小さく笑って答えた。


「えぇ、チャックと二人で作ってください。――試食してみます?」


 そう言われて差し出された香味ソース入りの瓶ふたを開けた。匂いを嗅いだ瞬間、思わず笑ってしまった。これ、酔虎亭の厨房の奥、あの甕に入ってるカラメル色のやつだ。煮込みでも炒めでもなんにでも入れる万能ソースだ。武官の“呑兵衛”アニリィ様やモグラット師も、この香味ソースをふんだんに使った料理をよく頼んでたっけ。


 赤茄子ソースはドロテアさんが開けていた。こちらは甘酸っぱい香りがし、試食すると確かに卵料理には合いそうだ。煮込み料理や肉料理、魚料理にもいけるかもしれない。


「定食屋『麦の月』のサーシャさんがルツェル公国出身なので赤茄子ソースのレシピも頂いております。僕は料理について詳しくはありませんが、作れそうですか?」


 サーシャさんの丁寧な字で香味ソースや赤茄子ソースの作り方が書かれていた。材料も近所の農家に頼み込めば格安で仕入れられるだろうし、香辛料もキュリクスで仕入れる事は可能だ。だけど問題はある。


「これ、ティチノ師の許可って出てますか? これきっと、麦の月の秘伝のソースレシピだと思うんですけど」


「はい。ティチノ師から『秘匿にするようなもんじゃねぇ』って仰っていただき、レシピのままで製造販売しても良いそうです。ただ、『麦の月』の商標だけは使わないでと言われております」


 なるほど。このソースは煮込んでひと月程度冷暗所で寝かせれば販売できるから回収が早いってことか。それならスミミザクラのソースやベリーソースも作ればいけるな。


「あ、売っていただきたいのは香味ソースと赤茄子ソースだけです。今のうちからターゲット層も定めずにあれこれとアイテム数を増やすと製造間接費が無駄に増えますから、今はこの二つを頑張っていただきたい」


 考えてる事は読まれてしまってたみたい。確かにあれこれと商品を増やせば製造の手間は増える。大釜がいくつもあり、製造スタッフを大量に抱えてるならそれでもいいかもしれないが、今はドロテアさんと二人。これで出来る範囲でやれってことか。


「出来たらキュリクスにも売りに来てくださいね、美味しかったら宣伝しますから!」


 マイリスさんにそう言われた。つまり香味ソースの出来次第でこの先が変わるかもしれないということだ。


「これは大事なことなのでしっかり覚えていてください。――僕は領主館の文官という立場ですから、一部の事業者に対して個別に肩入れしていると思われてはいけません。領主館として市場全体の安定には支援を惜しみませんが、個別事業の運営や経営に深く関わると公私混同の批判を受けるおそれがあります。ですから僕が直接関われるのはここまでです。あとは二人で話し合ってやっていきなさい」


 トマファ様の言葉は重かった。ここまでやってくれたんだから、まだまだ支援があると思ってた。だけど支援ばかり待っていたらオレたちは成長しない。それどころか民衆が良い顔するはずもない。だけどここまでアウトラインを引いてくれたんだから、あとはオレたちで切り拓いていくしかないんだ。


「ドロテアさん、一緒に頑張っていきましょう」


 オレがそう言うと、突然話を振られたドロテアさんは目をまん丸にして泡を喰ったような声を上げた。


「わ、わかりました! え、えみみみえみさん!」


 その様子があまりに可笑しくて、思わず吹き出してしまう。


「エミィでいいよ、そんなに噛まなくても」


 そう言ってからあとあとになってけっこう恥ずい事を言ってることに気付いてしまった。……まあ、いいか。


 *


 日帰りのつもりで遊びにきたので泊まれる準備なんかは一切していない。そして今から馬車を飛ばしても到着は夜鐘が鳴った後だろうから入場門は閉鎖されている。つまりもう帰れないのだ。ポントさんは『夜中の移動は危険です。客間もございますから泊って行ってください』と言ってくれたので、みんなでお言葉に甘える事にした。寝間着も与えられた代わりに、いままで着てた服と下着を回収していった。朝までに洗濯しておくとのこと。酔虎亭の厨房ぐらいの広さの部屋に天蓋付きベッド、そしてフリフリの寝間着。気分はまるでお姫様だ。客用の寝間着でこのフリフリさ、誰の趣味なんだろうか。――そういえばプリスカの寝間着ってすごいフリフリなんだよなぁ。


 そして翌朝、ドロテアさんとポントさんに見送られてひとまずキュリクスへと帰ることにした。実家の酔虎亭では、仕込みの最中だった両親にエンノーラ蒸留所での出来事を――トマファ様の提案も含めて順を追って説明し、自分がそこで再就職することになったとも伝えた。


「ソース作りか。面白れぇ仕事を見つけてくるもんだな、トマ公ってのは」


と、父ちゃんはそう言うと厨房の奥から二つ大きな鍋を差し出して来た。どれもレオダム師が若かりし頃に作り、父ちゃんにプレゼントした試作品の圧力鍋と裁断機だ。


「お前の再就職祝いだ、取っておけ」


「だけど父ちゃん。オレ、出来るかどうか判ら――」


「やりもしねぇで出来る出来ねぇが判るったぁ、お前も偉くなったもんだな!」


 そう言うと父ちゃんはガハハと豪快に笑うと、「お前の腕は悪くない、自信持ちな」と言ってオレの頭をこれでもかと乱暴に撫でつけた。母ちゃんはというと「今夜はパーっと宴会だね」って言うとホールをモップ掛けながら激しいステップを踏んでいた。きっとオレの再始動を喜んでるんだよね。


 *


 エンノーラ蒸留所の煙突からは今日も煙は上がっていない。


 だけどその代わり換気窓から香ばしい湯気が立ちのぼっていた。


「ねぇエミィさん、鍋に詰め込み過ぎじゃないですか?」


「いいのいいの、父ちゃんが言うにはギューギューに詰めて弱火で焚いたら香りが出るんだって」


「それにしてもエミィさん、色々とキュリクスから持ってきたんですね!」


「父ちゃんが『使ってねぇからもってけ!』って持たせてくれたんだ」


 そんなふうにお互いわいわい言い合いながら、オレとドロテアさんは鍋の前で作業していた。片方はハンドルを回しながら、もう片方は食材を刻みながら。


 父ちゃんが渡してくれた裁断機って、ハンドルを回すと野菜をみじん切りにしてくれる調理道具だった。父ちゃんが毎日下ごしらえしてるのを知ったレオダム師がわざわざ作ってくれたらしい。だけど父ちゃんは「これで刻むと細かくなりすぎる」って事でしばらくだけ使ったきり倉庫に放りこんであった。だけどソースづくりで『野菜を細かく刻む』って工程、ある程度包丁で切ってから裁断機を使うと効率が良いので最大限活用させてもらっている。生産の目途が立ったらレオダム師と金属加工ギルドに頼んで大型化してもいいかもしれない。


 しゅーしゅーと音を立てる大型の圧力鍋の中は完熟赤茄子と刻んだ果実がぐつぐつと煮えていた。りんご、干し葡萄、それにタマネギ、少しのニンニク。火酒とビネガーとキュリクスの塩。香辛料はシナモンとクローブと……ナツメグ、それとちょっとだけ唐辛子。通常の鍋でも作れるが、圧力鍋だと生産時間は短縮できる。


「ドロテアさん、ちょっと味見してくれません? 火酒足したから、また変わったと思うんで」


「了解。……うん、前よりコクが出た。ちょっと辛いけど、それがまた後引くね」


 その言葉にオレは少し頬を緩める。鍋で炊いたスープをシノワで濾して消毒した木樽に入れて冷暗所で寝かせる。朝から晩まで野菜や果物を刻み、煮込み、樽詰めだ。そして空いた時間にスチルポットの掃除をするのだ。


『いま出来る事をしよう』


を合言葉に、オレはドロテアさんと必死にソースづくりと掃除を続けた。醸造所には蒸留とはまた違った“香り”が満ちていたのだった。


 *


 ソース作りは始まったばかり。けれど、作ったものは売らなければ事業としては始まらない。


 ある晴れた朝、オレ達は瓶詰めした香味ソースと赤茄子ソースを馬車に乗せて出発した。行き先はポルフィリ領。なんと武官アニリィ様の紹介状を頼りに老舗の酒場へと売り込みに行くことになったのだ。そう言えばアニリィ様ってポルフィリ出身だったよね。


 馬車の中、オレは落ち着かない様子で荷台の瓶を何度も確認していた。割れてないか、中身が漏れてないか、大丈夫か。手綱を握るドロテアさんも緊張のせいか顔面蒼白だ。


「なぁ、ドロテアさん……オレ、営業って初めてなんだけど、大丈夫かな……?」


「僕もですけど、ほら……商品が良ければ、なんとか」


 ぎこちない会話が続くまま、街道を走り、ポルフィリへ。そして目的の店に到着する。


 出迎えてくれたのは渋い表情の初老の店主と女将だった。


「エンノーラ蒸留所ねぇ……サーグリッド・フォレアルの印象しかなかったが、ソースとな。珍しい試みだ」


 オレは緊張のあまり声が出ない。何か気の利いた事を言って店主らの心を掴みたいのに何も出てこない。ソースだけにそうっすよって言えばよかったかな、いや、スベッてるかな。そんなことを考えている時、ドロテアさんがぎこちなくソース瓶を二本差し出した。


「こちらが香味ソースと、こちらが赤茄子ソースです。もしお時間あれば、試食をお願いできれば……」


 店主は無言で香味ソースをスプーンに一滴垂らし、舐めた。


「……ふむ。なるほど、悪くないな。――で、いくらで売る気だ?」


 店主と女将は俺を見る。その瞬間、オレは完全に固まった。


「あ、あの……えっと……」


 やはり言葉が紡げないオレの横で、ドロテアが身体を乗り出して喋り出す。


「一本あたり、この価格を想定しております。火酒とセットでのご提供も可能で、そちらはこれぐらい勉強できると思ってます」


 店主はじっとドロテアを見た。しばし互いが見つめ合う中、店主の表情がふと緩む。


「……慣れてねぇわりにしっかりしてるじゃねぇか。よし、じゃあ試しに数本だけ取ってみるか」


「ありがとうございます!」


 話がまとまった瞬間、オレはへなへなと椅子に腰を下ろしそうになってしまった。


 *


 帰り道、馬車の中はどこかほっとした空気が流れていた。


「オレ、心臓止まるかと思った……。ドロテアさんすごいっスねぇ。あんな堂々と喋れるなんて」

「え、いや、僕も正直、足が震えてましたけど……エミィさんが固まってたから、がんばらないとって思いました」


 照れくさそうに笑い合うオレ達。少し沈黙が続いたあとドロテアさんがぽつりとこぼした。


「ですが二軒目三軒目と回るにつれ、エミィさんもたくさん売り込んでくれたじゃないですか」


 ドロテアさんはそっと目を伏せたあと、真っ直ぐオレを見た。


「しかも何なんですか、“今なら赤茄子ソースづくりに使ったビネガーをサンプルで!”って」


「いやぁ、ソースづくりしてて思ってたんだけどさぁ、材料のビネガーってかなり美味くない?」


「まぁ昔から我が家で作ってますからね」


「え、そうなの?」


「クリル村で消費する程度しか作ってないんです。――てか、貯蔵庫にもいくつか樽で仕込んでますけど、蒸留所の周りに甕が置いてあるでしょ? あれ、全部ビネガーですよ」


 オレは御者台からそろそろ見えてきた蒸留所の建物を眺めた。夕陽の赤に染まった空の下、蒸留所の裏手にはずらりと並んだ大振りな甕がきらめいている。あれ全部、ビネガーを寝かせてる甕? あんなに美味しい酢が、こんなにたくさんあったなんて。


「あのさぁ……酢、売ればよくね? キュリクスの銭湯で『健康黒酢』って謳って炭酸水で割ったものを一杯銅貨2枚で売れば資金調達、早く済むんじゃね?」


 ソースづくりは今も続けている。あちこちでルート営業してくれる酒販専門の行商人のおかげでエンノーラ蒸留所のソース部門は売り上げを伸ばしていった。とはいえ製造できるのも夏場だけだ、秋になれば酒造に向けて準備をしていかなければならないし材料の野菜が手に入らなくなる。


 しかし意外な話、酢は売れなかった。同級生が営む銭湯でオレが立って『健康黒酢』の販促を試みたところ、女性客からのウケは比較的良かったが、男性からのウケはいまいちだったのだ。


 近くに立ち寄ったので閉店後の酔虎亭で片づけをしてる父ちゃんに聞いてみることにした。


「男は銭湯でたくさん汗流したらエールを飲みたがるもんだ。酢なんか飲むような意識高い男はそうそうおらん。あと酢って主張が強い調味料だからぽんぽん売れる商品でもない。むしろソース部門が好調なら、そっちに注力しとけ」


「でもさ父ちゃん。ドロテアさんトコのお酢、本当に美味しいの知ってるでしょ?」


「――良い商品だから売れるってのは幻想だ。今はエンノーラ蒸留所の"足場づくり"に精を出せ」


 そう言うと父ちゃんは「はよ寝ろ」と言うとエール片手に自室へと引っ込んでいった。


「あのねエミィ、香味ソースや赤茄子ソースにお酢使うんだよね? 自家製造してるその原料を売りつくしたらソースづくりどうするの?」


 ――あ、ほんとだ。オレたちはなんという見当違いをしてたんだろう。仮に酢がヒットしてソース作りをやめたとしよう、それで酢を全部売り切っちまったら後に残るのは空っぽの樽だけだ。そりゃもう蛸が自分の足を食ってるようなもんだ。


「それなら蒸留水を造って売るってのはどう? スチルポットを稼働させて水を蒸留して売るのよ」


「水を、売るの? 誰が買うのそんなもん」


「前にレオダムさん、『錬金術は蒸留水づくりがめんどい』って言ってたのよ。まぁ錬金術ギルドや創薬ギルドに営業かけてみたら?」


 意外な話、こっちは売れた。加熱殺菌処理した瓶に蒸留水を詰め、さらに殺菌処理して出荷したところ、ギルド内で生産する蒸留水より精製度が高いということで大口の取引に繋がったのだ。――しかし、単価は火酒ほど高くはないし手間はかかる。赤字ではないが採算性は良くないので積極的には売りたくない。


 オレ達はソース以外にもどうするかと時間を見ては話し合い、言い合いになり、……ときどきカッとなって熱くなり、話し合い、喧嘩して、話して、熱くなって。




 秋風が冷たくなってきた頃、入籍した。


 *


「……というわけで母ちゃん、そして父ちゃん。籍入れました」


 酔虎亭の閉店後。まだ酔客らの熱気が残るホールでオレは少し照れた顔でそう言った。ドロテアさんは頭を下げ、父ちゃんと母さんの前で姿勢を正す。父ちゃんはしばらく無言で、グラスの中の火酒をくるりと手首のスナップで回していた。オレがちらりと顔を見やると目を閉じているようだったが、口元はわずかに緩んでいた。


「……文句はねぇ、オレよりマシな婿だ」


 それだけを言って、父ちゃんは火酒をひと口。


「それって、褒めてる? けなしてる?」


「どっちでもねぇ、事実だよ――あと、ドロテア殿」


「あ、はいッ!」


「娘を――頼む」


「も、もちろんです!」


 母ちゃんは涙を流しながら笑っていた。オレもそれを見てたらちょっとだけ涙が出た。理由はよく分からないけど、なんだかとても温かい気持ちで一杯だった。


 *


 領主館。

 書類の山を抱えて応接室に現れたトマファ様は、オレ達の報告を静かに聞いていた。


「……このたび、籍を入れました」


 ドロテアが真っ直ぐにそう言い、オレが横でぺこりと頭を下げた。トマファはすぐに目元をほころばせる。


「それは何よりです。ですが……領主館として祝賀金や支援は差し控えますね。公私混同を避けるために」


「そこ!? お祝いの言葉よりも先に!?」


 オレは思わず突っ込んでしまった、ドロテアさんも横で苦笑している。


「兄さん、そういうところが“らしい”ですよね……」


 トマファ様は小さく咳払いをし、まっすぐオレ達を見た。


「……おめでとうございます、お二方。あなたたちならきっと良い家庭と蒸留所を築けますよ」


 と、そのタイミングで扉の外から声が飛んだ。


「えーー!? 姉ちゃん、結婚すんの!?」


 飛び込んできたのはプリスカだった。マイリスさんがその後ろで苦笑しつつ、そっとお祝いの紅茶とカップケーキを盆に載せて運んでくる。あたたかくて、ちょっと賑やかな報告のひとときだった。


「ねぇ、プロポーズってどっちからしたの? 式は? 指輪は? 新婚旅行は?」


 でもプリスカがあまりにも賑やか過ぎたのか、マイリスさんは妹の首根っこをつまんでひょいと持ち上げるとそのまま応接室を出て行ったのだった。


「オレの妹、猫っすか?」


「本当に猫みたいな子ですよね」とドロテアさんが漏らしていた。


「一年以上彼女を見てると、時々猫なんじゃないかと思う時はありますよ」


 トマファ様はそういうと紅茶を一口すするのだった。


 *


 蒸留所では新体制に向けた改装が進んでいた。

 貯蔵庫の棚の入れ替え、瓶詰設備の改良、発送手続きの簡略化。事務所では二人並んで帳簿を広げてあれやこれやと毎日作戦会議だ。


「瓶詰ラインの改良、意外と掛ったね」

「ラベルの印刷代もバカにならないわ、もう」


 二人で顔を見合わせ、「ひぃ〜」と声が重なる。


「でも、蒸留所の仕込み日誌に“夫婦で初仕込み”って書けるの、ちょっと嬉しいかも」


 そう呟くと、ドロテアさんが照れたように頷いた。


「うん。だから何度でも言いますね……結婚してくれてありがとうございます」


「――いまさら真面目かよ」


 オレーー私たちの左薬指に銀環が光る。この光が永遠に輝いてほしいと願うばかりである。

ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。


現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください。




よろしくお願いします。

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