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113話 武辺者のボクっ娘隊長、駄々こねる♪

 キュリクスは夏真っ盛り。

 蝉がひと夏を謳歌するかの如く絶叫しているが、その声を聞くだけで体感温度が上がってくる。冬場はかなり冷え込むキュリクスだが、夏の昼間はうだるような暑さが街全体を包み込むのだ。


 そんなある日のキュリクス領主館・執務室。

 ヴァルトアの真正面で、メリーナが足をばたつかせながら床の上で騒いでいた。


「ヴァルちゃーん! バカンス! バカンスがいーの! 海! 水着! スイカ! きゃっきゃってしたいの!!」


 黒のスポーツブラに軍用の短パン姿、そして裸足。

 もはや水着なのか作業着なのか分からないその格好で、床に転がって駄々をこねるメリーナをメイド長オリゴが冷ややかに見下ろしていた。


「みっともないですわよ、メリーナ姉さん」


「みっともなくても、泥くさく!」


 もはや何を言っているのか分からない。



 オリゴは表情ひとつ変えずに肩をすくめ、隣でぼんやりそれを眺めていたスルホンに視線を送る。

 スルホンは一つ咳払いをして、にこやかな顔で言った。


「それじゃあ領主軍の女性隊全員、今週末はバカンスだ。女性武官のウタリ殿と相談して、海にするか山にするか決めなさい」


 ──つまり、彼は考えることを放棄し、部下であるウタリに丸投げしたのである。あまりの潔さに領主ヴァルトアも苦笑を隠せない。


「……あの、女性隊ってことは、メイド隊もですか?」

「当たり前だ。不公平はいかんからな!」


 メリーナを止められるのはオリゴしかいない。そのために、領主館でキリキリ働いてるメイド隊全員にも休暇を与え、彼女の“相手”をさせることにしたのだ──見事な丸投げである。


 *


 バカンス、行き先はどこにするか?


「やだ、海! スイカ! 水着でキャッキャうふふしたいのーっ!」


「バカンスと言えば山でしょ! テント張って、飯盒で料理して、キャンプして、星空見ながら恋バナ! 聖典にも書かれてます!」


「書ーいーてーなーいッ!! バカンスは海で過ごさなければならないってバカンス法に書いてありますぅー!」


 こうしてメリーナとウタリによる真夏の大激論が幕を開けた。


 海か、山か、それが問題だ。過酷な暑さの中、山登りに汗をかくほうが精神的に高潔なことなのか、それとも喧しいメリーナ隊長と共に苦難の海に立ち向かうほうが高潔なことなのか。そもそもどちらかしか選択肢が無いのか。


 だが、キュリクス領内に「山も海も楽しめる」都合のいい場所など無い。どちらか一方に絞らなければせっかくの休暇は移動だけで終わってしまうだろう。──だがそれでも、二人とも一歩も引く気はない。その様子をじっと眺めていたオリゴが、無表情のまま静かに言い放った。


「……それなら、『海隊』と『山隊』の二つに分けて、“自由参加”にすればいいんじゃないですか?」

「「それだ!!」」


 こうして、領主館幕僚所から各部隊へ以下の“布告”が出されたのだ。


 *


 【布告その一】

『夏! 海! 水着! バカンスは海で決まりッ!!』

 【布告その二】

『山でマイナスイオン(笑)を浴びに行こう! 癒しの森林キャンプ推奨!』

 【補足】

『★どちらを選ぶかは各自の裁量に委ねられるものとする★』


 *


 そして、バカンス当日。


「海だ! 水着だーっ! ……って、あれ?」


 集合場所の海辺の村リューンで浮き輪片手に手を振るメリーナ。──だが、そこに彼女を出迎える者は、誰一人としていなかった。


 海隊、参加者ゼロ。


「ちょ、ちょっとぉ!? 集合日付間違えたぁ!?」


 日付も時間も確認済み。間違いはない。

 誰も、来なかった。


 


 一方その頃。


「よーし、山隊! 張り切ってキャンプするぞーっ! ……って、誰もいねぇのかよッ!!」


 山隊、こちらも参加者ゼロ。


 ウタリは山の中で一人、ハンモックに揺られてもそもそと飯を食い、酒を飲み、星を見ながらの一服を楽しみ、朝になって静かに下山してきたという。


 

 *


 

 その頃──領主館三階奥、メイド隊控室。

 冷房が効いた静かな部屋でサマードレスに身を包み、デッキチェアに体を預けオリゴはゆったりと本をめくっていた。


「冷房あり。アイスティー飲み放題。虫もいない。……これこそ、最強のバカンスですわね」


 わざわざ暑い場所へ出かけ、水着や日焼け対策に苦労し、虫刺されにうんざりして、汗をかいて疲れて帰ってくる。そんな「苦労するバカンス」にどれほどの価値があるのか。



 * * *


 後日、幕僚所より「もしこのバカンスが強制参加だったら?」という質問が女子隊員たちに投げかけられた。


 その結果──「山」と答えた者が圧倒的であった。



「水着買うのもお金かかるし、女だけなのに着飾ってもねぇ……」

「ちょうどアレなのよ。あの、ね。タイミング的に」

「まずボディメイクする時間がほしい。色々無理」

「週末に突然バカンスだなんて。むしろ何考えてるの?」

「潮風で髪の毛がパッサパサになるのよね」



 ──というか、そもそも上司と過ごすバカンスなんて、何が楽しいというのか?


ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。


現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください。




よろしくお願いします。



・作者註

「海か、山か、それが問題だ」



中の人の嫁さんがアニメを見てよく言ってたのが、


「これだけ女の子いて、生理周期入ってない子しかいないってどれだけミラクルなんだよ!」


である。男性諸氏の幻想をなかなかにぶち殺しに来てくれる人だった。


「あなたもプール授業の時は、いつもプールサイドで見学してたから判るでしょ? 20人ぐらいの女子がプールサイドで4~5人が青い顔して見学してたの!」


――知らんがな。



ウマ娘プリティダービー視聴しててそれを言い出した時は、返答に参ったね。


スペシャルウィークやサイレンススズカって牡馬やねんってどうやって説明したらよかったんだろうか?

 まぁ、ゾンビランドサガの場合は全員故人だから理解は早いかもだったけど。


けいおん!の場合は4、ないし5人だ。なんとか回避は可能だろう。

魔法先生ネギま!の場合は、天文学的ミラクルだろうなぁ(笑)



・作者註その2


『──というか、そもそも上司と過ごすバカンスなんて、何が楽しいというのか?』



随分むかしの話。

会社の慰安旅行イベント発生。しかしその日は、祖父の法事と丸カブリであった。


おじま「あのー、法事です」

上司「相変わらずお前は協調性が無いな!」


マジで怒鳴られた。

そして上司のキックが僕のおケツにクリティカルヒットしてた。



そして上司の足の骨が折れた。

僕のせいだろうか……? なお裁判になったもよう。

(和解が成立した。慰謝料貰った。上司は左遷された。ついでに僕もタイへ飛ばされた)



もし僕の人生にて何らかの確変が起きて有名人になったとしたら、スベらない話として披露するネタの一つである。


ちなみにおケツを蹴られて相手の足の骨が折れたのは、計三回。守護霊つよつよなのかしら?


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― 新着の感想 ―
……3回も蹴られるというのは何とも恐ろしい地域ですね……。前世が馬だった人が多いのでしょうか。ついでに、馬は繁殖期が春頃に限られるので、夏ならプールで泳いでも大丈夫でしょう。たぶん。
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