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102話 武辺者、製塩への指示をする・2

 朝の陽射しがリューン村近くの製塩場の屋根を照らす頃、仮設の塩水処理所にはいつになく活気が漂っていた。


 私――プリスカは両手に記録帳と測定器を抱え、くるりと一回転すると、勢いよく宣言した。


「本日もやってまいりました、キュリクス塩精製チームの活動開始でーす! リーダーはもちろん、この私……ではなく、アルディさん! よろしく!」


 指さされたアルディは苦笑いしながらも頷く。白衣姿に身を包み、すでに器具の点検を始めていた。


「今日は“にがり”の除去処理を、本番用装置で試してみます。消石灰の投入は慎重に……って、プリスカさん、まだ手を出さないでください」


「出してませんよー。ちょっと塩水の香りをチェックしてただけですっ!」


「こら猫娘! 余計なしないで記録だけ付けてなさい!」


 そのやりとりを聞きながら、クラメラさんは作業台の周囲をぐるりと一周して、全体の動線を確認していた。簡易ポンプの圧力、バルブの状態、魔導加熱釜の火加減、そして濾過装置の予備品の有無――目視確認し、チェックリストに確認のサインをつけていく。ギルドの受付嬢なのでチェック業務は毎日のルーティンだ、彼女のチェックには抜け目がない。――あと、アルディさんと一緒な時間が多いせいか、ちょっときらきらしてた。


「装置の圧は正常。消石灰は事前に水和済み。沈殿槽も稼働OK。今日は騒動が起きないようにね……」


「兄さん。――それ、フラグ?」


 ぼそりとつぶやいたのはテルメさん。兄の背後で計量器と試薬瓶を揃えており、真面目そうな顔に似合わず皮肉が鋭い。その横では、髪を高くまとめたマルシアさんが黙々と硝子棒を熱消毒している。


「本日中に三ロット処理したい。最初のpH記録はわたしが取る。プリスカ君、タイマーを三十分で」


「らじゃーっ!」


 記録帳に殴り書きしながら、私は改めて皆を見回した。白衣のアルディさん、姉御肌のクラメラさん、職人肌のマルシアさん、そしてちょっと人見知り気味のテルメさん。誰もが真剣で、でもどこか楽しそうだった。


(これが“研究”ってやつかぁ……あたしは正直、塩なんて舐めりゃ判ると思ってたけど)


 ふと、試薬瓶のラベルを見ていた私の耳に、マルシアの声が飛ぶ。


「第一ロット、投入準備。加熱炉、二段階昇温。クラメラさん、確認お願い」


「了解。アルディ、消石灰の溶解率、事前と変わらず?」


「はい、温度28度、水量比率も同じです」


 処理タンクから立ちのぼる蒸気。その中にキュリクスの新しい産業の胎動が静かに始まりつつあった。


 *


 だがそんな順調な空気は開始からわずか二十分で崩れた。


「……アルディさん、沈殿してなくない?」


 濾過槽の上部で保護メガネをずり上げながらマルシアさんが言う。この処理場では保護メガネと白い衛生帽、そして布マスクが必須となっている。危険な薬品を使っているから。だけど私、眼鏡に慣れてなくて鼻頭がむずむず。


「う、うん。理論上は……この条件でにがりは沈殿するはずなんだけど……」


 私も覗き込んでみた、濾過槽の中は乳白色のまま。沈殿物が浮いたままで液はミルクのように白く濁っている。マルシアさんは小さな柄杓で液体を掬い、ビーカーに入れると試薬を垂らした。とたんにビーカー内の液体は赤色に染まっていく。――フェノールなんとかって薬らしい。


「pH上がりすぎてる。反応熱で想定より温度が高いんだわ」


 マルシアさんが冷静に言う。白濁のまま沈まない液体を見ながら少しだけ眉をひそめた。


「攪拌しすぎね。高pHで出た沈殿が細かすぎて沈まないのよ。……コロイド化してる。しかもこの温度じゃ、Mg(OH)₂は溶けかねないわ」


 反応槽に取り付けられた温度計を見ながらテルメさんが続ける。


「兄さん、タンクの大きさが違えば、条件も変わるって前に言ったでしょ?」


「……わかってる。データさえ取れれば、調整できるはずだ」


 わかってない顔だよ、それ――私がそう思っていたまさにその時。


「クラメラさん、濾過布が詰まってドレナージュできてないわ!」


 脚立から下りてきたマルシアさんが何かに気付いたようで、私と共にあちこちで記録を取っていたクラメラさんに声を掛ける。右側の濾過ユニットに設置されたドレイン部――ちょうど排液ラインにあたる金属筐体の内側に張ってあった不織毛製の濾過布が詰まりかけていたらしく、ドレイン管から排出されるはずの液体が途絶えていた。


「ギルドでも試運転やったけど、やっぱり濾過布は持たんかったかぁ。――よし、金属ネットに交換だ。プリちゃん、『ステアリン印』のメッシュユニット持ってきて」


「了解!」


挿絵(By みてみん)

ステアリン印

金属加工ギルドの紋である二本スパナが特徴的


 メッシュユニットとは、前にステアリン伍長が『麦と月』に懲罰勤務を受けてた時に開発してたシノワを模して造られたパーツだ。なおギルド特製のシノワには『ヘッドドレスのツインテール』のマークが刻まれていて、それが“ステアリン印”と呼ばれている。特許使用が正式に認められた証であり、この刻印が打たれると領主館に銅貨1枚の特許使用料が入る仕組みだ。なおその特許料はステアリン伍長にはすぐに渡されず、退職時に一括で支払われることになっているらしい。理由はもちろん、彼女が即座にガチョウレースに全部突っ込んでしまうのを防ぐためだ。――でもまあ、どうせ退職したら一日でオケラになるとは思うけどね。


 クラメラさんがドレイン管にメッシュユニットを器用に繋げると排出液が流れるようになった。というかクラメラさんってただの受付嬢じゃないよね、てか技師だよね。腰袋に工具をするりと仕舞うところなんて職人じゃん。


 みんながばたばたしてる中、私はふと気になって濾過タンクの脚立に上る。そして柄杓を手に取ってみた。


(すごい苦いって聞いてるけど、どれくらい苦んだろ?)


「――ちょっと待てぇええええええええええッ!!」


 テルメさんの怒号が響いた。


「あなた、ほんっっとうに死ぬんだよ、それ、下手こいたら!」


「ひぃっ!?」


「未中和の消石灰残ってたら粘膜焼けるわよ! 舌だけじゃ済まないからね!? 本当に命に係わるんだからね!」


「は、はいぃ……」


 びびった私は柄杓をそっと戻した。たぶん顔真っ青だったと思う。


「次やったら、どっかに吊るして“ねこの干物”にするわよ?」


 マルシアさんの声が全く笑ってなかった。やばい。ほんとやばい。


 だが、災難はこれだけじゃ終わらなかった。


(あれ、ここの反応、なんか弱くない?)


 私はさっきの失敗を挽回しようと、消石灰の入ったバケツを持ち上げた。


「ちょっと足せばいいんじゃ……はい、ざばーっ!」


「やめなさーーーい!!!」


 クラメラさんが飛んできて、バケツのふちに手をかけ、間一髪で制止してくれた。直後、タンクからモクモクと蒸気が立ちのぼる。


「温度上昇! 攪拌停止、緊急放熱っ! 冷却エンジン始動してください!」


 アルディさんの声が飛ぶ。テルメさんが魔導スイッチを入れると濾過槽の表面にうっすらと汗をかき始めた。私はというと、髪がしっとり湯気に濡れて、ぽかんと立ち尽くしていた。


「……あたし、生きてる? 死んでない? 塩には……なってない?」


「まだなってねぇよ、今すぐに真水で身体をきれいに洗って着替えてきな!」


 クラメラさんが怒ったような笑いを浮かべて言った。


 製塩プラントは、大混乱の幕開けを迎えていた。


 *


「――じゃあ、次はこうしましょう」


 混乱がようやく収まったあと、クラメラさんが作業台の上に台紙を広げ、処理フローをざっと図示して見せた。


「沈殿時間をもう少し取って。攪拌は中盤までで止める。濾過はメッシュのまま、温度は……」


「高すぎるとMg(OH)₂が溶けるから、せめて32度以下に保ちましょう。――30度を超えたら自動で冷却エンジンが回るようになれば、工業化による大量生産、安定生産が望めますね」


 テルメさんが補足するように言い、マルシアさんがそれに頷いた。


「中和pHは8.2を上限に。それ以上になると沈殿が細かくなりすぎるわ。第二ロットは静置時間を二倍、二十分とりましょう」


 アルディさんは少し沈んだ顔をしていたが、ゆっくりと頷いた。


「……やってみましょう」


 私たちは二度目の実験へと移行した。今度は慎重だった。消石灰は分割投入、pHは数分ごとにチェック、沈殿が見え始めるまでゆっくり攪拌し、その後はぴたりと止めて静置。クラメラさんのストップウォッチが鳴るまで、みんなが息を潜めて見守った。


 ――そして、排液は。


「……透明ね。濁ってない」


 クラメラさんの声が落ち着いていた。


 私もビーカーを傾けて覗き込んだ、底が透けて見えるほどの無色透明。ちょっと感動して手元の記録帳に思わず大きく「◎」と書き込む。


「これ、前のより断然きれい……」


「焼成乾燥に回しましょう」


 クラメラさんが言った。今日は湿度も高く、天日乾燥では時間が掛かると判断したらしい。


 魔導式の自動焼成窯がすぐ脇に設置されている。加熱コンロの上で斜めに傾いた釜がぐるぐる回る構造で、半自動で攪拌と加熱をしてくれる優れものだ。木べらでかき混ぜる必要もなく、内容物が絶えず動いているから焦げ付きの心配も少ない。


 これ、ずいぶん昔にレオダムさんがギックリ腰を起こした妻リネシアさんのために作った“からくり鍋”の改良版なんだよね。野菜を入れてスイッチ回すと、コンロの上で斜めに傾いた鍋がくるくる回って自動で炒めてくれるって構造。――私の実家・酔虎亭にも試作品があって、父ちゃんが今も使ってる。夏限定の『ズッキーニと青菜の炒めもの』は“からくり鍋”でないとあの味が出せないって父ちゃんが言ってた。なお、この“からくり鍋”が完成した頃にはリネシアさんのギックリ腰が治ってて『あの人って微妙にタイミングがズレてるのよねぇ』って母ちゃんにボヤいてた。


「これも自動化させるには良いんじゃない? 製塩ギルド、暇になるわね」


 回転する窯の中に放り込まれた塩は、窯の内側に付いた羽に当たって踊りまわる。蒸気をほんのり立ち昇らせながらじりじりと乾煎りしていく。


 私はつい前のめりで覗き込み――


「舐めない! 手を入れない!」


 テルメさんに後ろから首根っこを掴まれた。


「回転する道具の中に突っ込んだら、手なんてすぐに千切れ飛ぶわよ」


「よく厨房でつまみ食いするとき、やってるから」


「やってるんかい! てか、回転する道具に手を入れるって本当に危ないから辞めなさい」


「なんか今日は叱られてばかり!」


 そう叫びながら、私は笑った。


「むしろ、“予備知識がない人の典型的行動"をしてくれたから、安全マニュアルを作るには助かったわよ」


と、マルシアさんが笑ってた。


 焼成が終わった塩を、クラメラさんが木匙にとってシャーレに入れた。そして指に付けて口に入れる。静かに咀嚼して頷いた。


「……えぐみ、全くないわね。まろやかで優しい味になったわ。これなら食卓に出しても平気」


 アルディさんが、ほっとしたように息をついた。


「やっと……一歩前進、ですかね」


 私は記録帳の欄外に、小さく書き込む。


『たぶん、はじめのいっぽ』


 夕暮れの光が、窯の縁に反射して輝いていた。


「――じゃあ、次はこうしましょう」


 混乱がようやく収まったあと、クラメラさんが作業台の上に台紙を広げ、処理フローをざっと図示して見せた。


「沈殿時間をもう少し取って。攪拌は中盤までで止める。濾過はメッシュのまま、温度は……」


「高すぎるとMg(OH)₂が溶けるから、せめて32度以下に保ちましょう。――30度を超えたら自動で冷却エンジンが回るようになれば、工業化による大量生産、安定生産が望めますね」


 テルメさんが補足するように言い、マルシアさんがそれに頷いた。


「中和pHは8.2を上限に。それ以上になると沈殿が細かくなりすぎるわ。第二ロットは静置時間を二倍、二十分とりましょう」


 アルディさんは少し沈んだ顔をしていたが、ゆっくりと頷いた。


「……やってみましょう」


 私たちは二度目の実験へと移行した。今度は慎重だった。消石灰は分割投入、pHは数分ごとにチェック、沈殿が見え始めるまでゆっくり攪拌し、その後はぴたりと止めて静置。クラメラさんのストップウォッチが鳴るまで、みんなが息を潜めて見守った。


 ――そして、排液は。


「……透明ね。濁ってない」


 クラメラさんの声が落ち着いていた。


 私もビーカーを傾けて覗き込んだ、底が透けて見えるほどの無色透明。ちょっと感動して手元の記録帳に思わず大きく「◎」と書き込む。


「これ、前のより断然きれい……」


「焼成乾燥に回しましょう」


 クラメラさんが言った。今日は湿度も高く、天日乾燥では時間が掛かると判断したらしい。


 魔導式の自動焼成窯がすぐ脇に設置されている。加熱コンロの上で斜めに傾いた釜がぐるぐる回る構造で、半自動で攪拌と加熱をしてくれる優れものだ。木べらでかき混ぜる必要もなく、内容物が絶えず動いているから焦げ付きの心配も少ない。


 これ、ずいぶん昔にレオダムさんがギックリ腰を起こした妻リネシアさんのために作った“からくり鍋”の改良版なんだよね。野菜を入れてスイッチ回すと、コンロの上で斜めに傾いた鍋がくるくる回って自動で炒めてくれるって構造。――私の実家・酔虎亭にも試作品があって、父ちゃんが今も使ってる。夏限定の『ズッキーニと青菜の炒めもの』は“からくり鍋”でないとあの味が出せないって父ちゃんが言ってた。なお、この“からくり鍋”が完成した頃にはリネシアさんのギックリ腰が治ってて『あの人って微妙にタイミングがズレてるのよねぇ』って母ちゃんにボヤいてた。


「これも自動化させるには良いんじゃない? 製塩ギルド、暇になるわね」


 回転する窯の中に放り込まれた塩は、窯の内側に付いた羽に当たって踊りまわる。蒸気をほんのり立ち昇らせながらじりじりと乾煎りしていく。


 私はつい前のめりで覗き込み――


「舐めない! 手を入れない!」


 テルメさんに後ろから首根っこを掴まれた。


「回転する道具の中に突っ込んだら、手なんてすぐに千切れ飛ぶわよ」


「よく厨房でつまみ食いするとき、やってるから」


「やってるんかい! てか、回転する道具に手を入れるって本当に危ないから辞めなさい」


「なんか今日は叱られてばかり!」


 そう叫びながら、私は笑った。


「むしろ、“予備知識がない人の典型的行動"をしてくれたから、安全マニュアルを作るには助かったわよ」


と、マルシアさんが笑ってた。


 焼成が終わった塩を、クラメラさんが木匙にとってシャーレに入れた。そして指に付けて口に入れる。静かに咀嚼して頷いた。


「……えぐみ、全くないわね。まろやかで優しい味になったわ。これなら食卓に出しても平気」


 アルディさんが、ほっとしたように息をついた。


「やっと……一歩前進、ですかね」


 私は記録帳の欄外に、小さく書き込む。


『たぶん、はじめのいっぽ』


 夕暮れの光が、窯の縁に反射して輝いていた。


 *


 報告書の清書は私――クラメラの役目。ややこしい工程をきちんと分けて、問題点と成果、対応策とそれにかかる製造間接費――コストを一つひとつ整理していく。こういう作業は嫌いじゃない。むしろ安心する。まぁ、元々ギルドの受付嬢だし、『簿記は乙女の嗜み』っていうじゃない? ただ、傍らでプリスカが描いてる“焼成窯の図解”とやらがあちこちに猫の落書きつきで――これはもう報告書というより半分絵日記じゃないかと思う。


「この窯、元はレオダムさんの“野菜炒めくるくるマシン”だったんですよね〜」


 そう言って笑うプリスカに、私はため息をついた。


「正式名じゃないでしょ、それ……」


「でも、回転乾燥というアイデアとしては十分、特許申請に値するわね」


 と、補足してくれるのはテルメさん。さすが錬金術ギルドの生真面目な研究者、特許のにおいには敏感だ。そのとき濾過装置の金属部品を手にした彼女が小さく「あら」と声を上げた。


「これ……“ツインテールのスパナ刻印”。本物の“ステアリン印”ね」


 見れば小さな金属部品に、あのツインテールヘッドドレスを模した刻印が打たれている。これ、デザインしたの私なんだよね。ちなみにデザイン料は酔虎亭のエール3杯だった。旨かったです(笑)


「ステアリンさんの企画をロゼッタちゃんが持ち込んで出来たのよ。しかも引き合いが強くなってきたから下町の工房ででも生産して貰ってるんだけど、インチキ品が出回ると困るからトレードマークを付けるようになったのよ」


 私がそう言うと、プリスカが目を丸くする。


「伍長のトレードマークのツインテールが公式マークになるって、なんかすごくないですか?」


「ステアリンさんは“やめて恥ずかしい”って言ってたけどね」


 テルメさんがくすっと笑いながら言い、こちらを見る。


「プリスカちゃんだったら、猫耳メイドと肉球がトレードマーク?」


「ついてないって! てか、なんで私、猫扱いされてるんですか!?」


 と抗議するプリスカのお尻には、尻尾のようなエプロン紐がひらひら揺れていた。……まあ、あれは猫っぽいかもしれない。ついでにプリスカのマークも報告書の横に落書きしておいた。


挿絵(By みてみん)

※プリスカマーク

下部に古センヴェリア語をそれっぽく。

『塩、それは海から命へ』


 *


 私は完成した記録帳をアルディの手元へそっと返した。アルディは少し驚いたように私を見てからページをめくり、そしてぽつりと呟いた。


「……ようやく形になったと思います」


「じゃ、これからもいっぱい形にしましょー! ね、技術課長!」


 元気よく言うプリスカに、アルディさんは「え、僕そういう役職でしたっけ……?」と戸惑い顔を浮かべていた。


「ついに領主館お抱え技師だな、アルディ! アタシ、もう左うちわで生きてけそう!」


 私がからかうと、テルメさんがさらっと追い打ちをかける。


「お兄ちゃんと末永くお願いしますね」


「えっ!?」「ええっ!?」


 声が重なって跳ね上がったのは、もちろんアルディと――私。……ちょっと、なんでそこでマルシアさんまでにやにや笑ってるのよ。


「あんたら、むしろバレてないと思ってたの?」


 * * *


「――以上が、技術課長アルディ殿とクラメラさんの報告書です」


 領主館、執務室。報告書を読み上げるトマファの口調はいつも通り冷静だったが、その正面、執務机にどかりと座ったヴァルトアは腕を組んで「ふむ」と頷いた。


「つまり、塩の量産化に目途が付いたのか」


「はい。こだわり高級派は天日干し、コスト重視派には焼成式。嗜好で選べるよう生産しようと思います。あと製塩ギルドも技術伝承のために揚げ浜式は残しつつ、新製法で大量生産してくれるそうです」


「うむ、――やっぱり俺は天日干し塩をちょっと付けて食べる赤茄子(トマト)が好きだな」


 執務机に置かれた各種野菜に塩を付けるヴァルトア。もちろんクラーレが持ち込んだ大量の野菜だ。土壌育成と追肥、手作り農薬のおかげか、どの農家よりも立派に大量に育っているという。


「僕、実は揚げ浜式の少し苦みある塩で食べるキュウリが好きなんですよ」


「じゃ、今日、塩三種類買って試してみようかな」


 そんなトマファにマイリスは茄子の若漬けを摘まみながら茶々を入れる。


「……あんた、この前、塩買ったばかりでしょ?」


 カミラーさんの鋭いツッコミが飛ぶと、マイリスさんは肩を落として笑った。


「あぁそうだった、残念」


「それなら酔虎亭で“クラーレ農園のお野菜&精製塩食べ比べセット”が売られてますよ」


「へぇ! それならテンフィさんと是非に行ってみますわね」


 そう言うと、赤茄子をひとつまみ。


「なんかさぁ……」


 ヴァルトア様がぽつりと呟く。「――お前ら、商売うまくね?」


 *


 なお、酔虎亭で“クラーレ農園のお野菜&精製塩食べ比べセット”を頼むと、プリスカ印のコースターが当たるってイベントは……全くウケなかったという。立ち飲み屋でコースターというのもおかしな話だと、誰も気づかなかったのだろうか?


「なんか、私、売れ残りっぽくて嫌なんだけど」


 プリスカがしばらくむくれていたという。

ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。


現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください。




よろしくお願いします。


作者註

・画像に著作権はありますか

ありまぁ~す!

(まぁ使いたいヤツなんかいないと思いますが)


・何か作ってください!

中学時代の美術、10段階評価で4だった人をいじめないでください。

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