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101話 武辺者、製塩への指示をする・1

 ポーイヤック商会のホラスから、トマファ宛てに密書が届いたのは昼下がりのことだった。


 情報源として雇っている"草"──間諜──たちからロバスティア王国の報告を要約し、必要な部分だけ抽出してまとめるのがホラス兄弟の仕事だ。その文体は婉曲かつ冷静、どこか文官めいた丁寧な言葉遣いでありながら、書かれた内容は時に冷酷な現実を突きつける。



『……ロバスティア王国北部、クモートの街における民衆暴動の続報です。あちこちの街でも同様の暴動が発生、これに対し王宮は治安維持名目で近衛正規軍を派遣して鎮圧しました。原因は領主の無策が原因の模様。キュリクスとロバスティア王国との国境封鎖は正解だったと思われます』



 トマファはその一文を目にすると、ふう、と小さく息を吐いた。彼にとって暴動があちこちに起きるのは想定内の展開であった。ロバスティア王国内の地方領主の愚策はホラスからの情報で知っていたが、これが散発的に続くとなるとロバスティア国内の流通が不安定になる。国境封鎖は安全政策上こちら側の当然の権利ではあるが、これが長引けば──キュリクス側にも影響が出る。


 密書には続きがあった。



『……国境を越えた通商は、現在ルツェル公国を経由しております。しかし両国の不仲は相当に深刻で、長期的な目で見れば楽観視できません。そのため王国市内の物流は滞り、物価が上昇。特に食料と日用品、そして“塩と酒”の価格が動意あり』



 塩と酒。


 それはキュリクスが誇るロバスティア向け輸出資源の一つだった。


 ★ ★ ★


「物価が上がるって、どういう事だ?」


 領主執務室。報告を受け取ったトマファが内容をまとめ、ヴァルトアと相談している。ソファには、アルラウネのカミラーが腰掛けていた。梁から降りてきたらしい。夏の陽気に誘われて、今日も機嫌がよさそうである。


「えっと、ダイコンが高くなるんですか?」


 メイド隊副長のマイリスが主婦らしい一言を添えると、ヴァルトアは「うーん」と腕を組んだ。


「相対的に言えば、貨幣価値が下がってるんです」


 トマファは静かに言った。「国の信用度が下がってるとも言えますね」


「つまり、どういうことだ? ――すまんな、経済の事を言われてもよく判らんもんで」


「庶民が手にしてるお金を信用しなくなるんです。田舎に行けば行くほど貨幣経済を信用できなくなって、お金の代わりに物と物を交換し始めるようになります」


「物々交換って事ですかぁ? 塩と麦とを、みたいに」


 マイリスがきょとんとした顔で訊く。「えぇそうです」とトマファが応えた。


「すまん、どうしてそうなるか俺に判るよう説明してくれ」


 ヴァルトアが唸り声を上げたので、トマファが静かに説明する。



 貨幣、特に庶民が日常的に用いる銅貨や白銅貨は、国や共同体の信用によってその価値が保証されている。もしその信用が失われればそれは単なる金属片に過ぎなくなるのだ。一部の国では、紙幣が金貨や銀貨と交換可能である「兌換性」を制度として保証していた。だがこの制度が崩れると、紙幣の価値も一気に失われる。いわば『紙くず同然』とはこのことだ。


 それなら金銀貨を用いればいいだろうと思うだろうが、希少金属の貨幣には致命的弱点があるから一般的に用いられない。


 そうなれば生活必需品が貨幣の代わりとなって市場を乱すこととなる。特に中央から離れれば離れるほど、人里から離れるほど貨幣経済は成立しなくなるのだ。現にイオシスの故郷、ヴェッサの森のエルフ達はお金に対する執着心は薄い。彼らにはむしろ、麦や酒などを渡したほうが喜ぶのだ。


「ロバスティア王国は昔から、酒と塩はこっち──キュリクスから買ってました。だから物価が上がるって事は貨幣価値が相対的に下がります。すると生活必需品であり、腐ったり劣化したりしない“塩"を欲しがるのは時間の問題です。それならば、ポーイヤック商会に回す塩の取引量を増やしてやれば、ロバスティアの経済を握る事が出来るかもしれません」


「そうなると、キュリクスの分が足りなくならねぇか?」


 ヴァルトアの心配は当然だった。

 かつてキュリクスで塩の供給が一時的に不安定になったことがある。製塩ギルドで複数の慶事が重なった影響で生産量が減少し、結果として塩の価格が上昇したのだ。そのため漬物ギルドなど生活関連の同業組合からは強い抗議が寄せられ、さらに輸出用の塩の量も削減されたのだ。しかし流通は国内優先が当然だ、クモート領主に事情を丁寧に説明した上で輸出量漸減を通告したのだが、それが嫌がらせと受け止められ、後に起きた通商封鎖のきっかけの一つとなったと王国の使者の報告書に記されていた。


「そうだ、帰りに塩買わなきゃ」


 マイリスが笑いながら呟くと、カミラーがじと目で彼女を見た。「あなた、相変わらずマイペースよね」


 トマファはマイリスの素直な感想にわずかに苦笑しつつ、次の提案を口にする。


「将来的なことを考えて、製塩事業にテコ入れしてはいかがでしょうか。これまではキュリクスの北東にある海岸沿いの村リューンで人力の揚げ浜式で製塩してますが、レオダム師の魔導エンジンとポンプと送風機。そして古い文献で見つけた流下式製塩法を使えば効率的に濃縮海水、“(かん)水"を得ることが出来るかと」


 彼の膝の上に載せられていた古書をヴァルトアに手渡した。古字と共にイラストで流下式製塩についての説明が書かれていた。流下盤や枝条架により海水の蒸発を促進するやりかたが書かれていた。


「ふむ。――てか、海水をそのまま煮込むのはダメなのか? 小鍋片手に」


「――某動画配信サイトの“リ〇ちゃんの読書部屋"でついぞ最近、やってましたね。異世界に迷い込んだキャンパーがあれこれやる話。マテン貝を取る話ですね。……中の人が無駄に好きだった作品が思いっきりディスられてましたね」


「あぁ。その前に〇コちゃんはメイドって割には娯楽小説読んで動画編集してと、全然働いてねぇな――俺んトコもそうか」


「あまりメタい事言ってるとブラウザバックされますよ」


 トマファは一つ咳払いをするとこう続けた。


「海水2リットルを蒸発させれば塩はおよそ60g(動画参照)ですが、それだと大さじたった4杯なんです。海水の塩分濃度はおおむね3.5%ですから、海水そのまま煮込んでの生産はあまりにも効率が悪いんです。そのため塩田などを使って余計な水分を天日で揮発させ、海水を4倍ぐらいに濃縮して塩に精製するんです。10年ぐらい前に鉄腕〇ッシュでM岡くんが珠洲で作ってましたね。あとダッ〇ュ島で藻塩も……」


「トマファ――コンプライアンスに違反する内容は辞めなさい」


「あ、失礼。――ま、塩の生産が捗れば内陸地への販路の強みとなります」


「それなら、予算を決めた上でやってみてくれ」


「御意」


 トマファは文官補助のレニエ、錬金術ギルド長だったレオダムを呼ぶと、マイリスを記録係に添えて製塩プロジェクトが稼働した。古書にあった流下式製塩法についてまずは協議する。海水をポンプでくみ上げて流下盤により海水を薄く流し、蒸発を促進。その濃縮海水を再びポンプで枝条架、むしろを吊るした構造物にかけ、鹹水を得る。にがりの分離は課題だが、工夫次第では──。


「ねぇ、トマファ君、一つ質問いいかな? さっき、海水濃度がおおむね3.5%なのに、取れる塩の量が60gって、あと10gはどこ行ったの?」


 マイリスが何度も算盤を弾きながら訊いた。トマファは頭を抱えると一つ唸った。


「その3.5%に含まれる塩以外が、厄介なんですよ」


 製塩ギルドでは鹹水をひたすら煮込み、結晶化した塩を濾過して集めてにがりと分離している。しかし分離は完全ではなく、出来上がる塩にはどうしても独特の苦みが残るのだ。そのため一部の料理人や貴族たちは味にクセのない岩塩を好む傾向がある。


 特に肉類の調理には岩塩が適しており、キュリクス領内にも岩塩鉱が存在することから一定量の採掘は行われている。ただし岩塩は地下深くから専門の職人が掘り出す必要があり、加えて鉱口からキュリクスへの運搬にも手間と費用がかかってしまう。そのため高級食材としては重宝されるものの、庶民が日常的に使うにはコストが見合わないのが現実である。


「今回の製塩技術の刷新にあたり、ギルドからは『新しい濃縮法は否定しないが、にがりをより効率的に手早く除去できる手法があるなら考えてほしい』という要望が出ています。つまり、“苦みのない塩”を早く、手軽に取るのも目的の一つなのです」


 ――つまるところ、小鍋一つでマテン貝を取るための塩を作るのは困難だという事だ。


 * *


 日が沈んだ頃の西街・創薬ギルド内。


 樽一杯分の鹹水を見つめながら研究員のアルディと、その恋人クラメラが製塩づくりの試行錯誤を続けていた。クラメラは普段、金属加工ギルドの受付嬢として働いており、こうして一緒に作業が出来るのは、夜か安息日だけである。


「夜の実験って、なんだかちょっと秘密の研究みたいでワクワクしますね」


 おっとりとした声でアルディが言う。


「あなた、昼間もずっと仕事してたでしょ……身体、平気?」


 クラメラは魔導ランプを吊るしながら、軽やかに笑った。


「大丈夫。むしろ楽しいじゃないですか」


 そう言って鹹水を小鍋に掬い、魔導コンロに掛けた。


 *


 昼間。


 リューン村のはずれにある試験用塩田では、レニエとレオダムが簡易に組み上げた魔導ポンプと送風機がうなりを上げていた。ポンプで海水を高所に汲み上げ、斜面状の流下盤に流すことで表面積を広げながら自然蒸発を促進し、水分を飛ばす。こうして得られた濃縮海水──濃厚な鹹水──を再び魔導ポンプで吸い上げて、むしろを掛けた枝条架に噴霧し、さらに魔導エンジンを使った送風によって強制的に水分を飛ばし、最終的に海水の4倍以上濃い鹹水を得るという仕組みである。この試験用塩田では、製塩ギルドの揚げ浜式塩田よりも早く多くの鹹水を得る事が出来たのだが、やはり問題は“にがり”を早く、きちんと抜く方法だった。


 というのも、揚げ浜式塩田でかき集めた鹹水を濾過して塩を精製するのに最低5日はかかる。何日も沸かし、寝かせ、濾過して塩を集めるのだ。しかしこの時間を短縮しなければせっかくの流下式製塩法で集めた鹹水は無駄になってしまう。鹹水ばかり集めても仕方がないし、時間が経ち過ぎればたとえ高濃度の鹹水であっても、劣化し、腐敗臭が生じてしまうのだ。


 レニエ達は鹹水を樽に詰めたものを創薬ギルドに納品すると、「精製の基礎研究、お願いします」と言い残し帰って行った。なお、ここからレニエとレオダムも、より効率の良い鹹水集めの基礎研究が待っているのだが。


 *


「──なんか白いのが出てきたわ! 結晶も悪くない」


 クラメラが木べらでかき混ぜ、ざらざらとした白い塩の結晶をすくいあげる。


「……でも、味はどうでしょう?」


 アルディに言われて少量を指先でつまんで舐めた瞬間、クラメラが顔をしかめる。


「……にがっ」


「うわ、ほんとだ。話には聞いてましたが、これは罰ゲームに使えそうなレベルで苦いですね」


 アルディも苦笑しながら苦みの強さに顔をしかめる。「でも、これが“にがり”の正体です。海水中の塩化マグネシウムや硫酸カルシウムが残ってるんです」


 試作初日から、苦みという難題が立ちはだかった。


「さて、ここに何かを加えて塩とその他に分離しないといけないんです」


「しかも短時間で、でしょ?」


「えぇ、困りましたね」


 アルディはぼさぼさ頭をぼりぼり搔きながら薬棚を眺める。困りましたと口にしながらも、どこか表情は楽しそうである。


「ねぇアルディちゃん、なんか作戦はあるの?」


 木べらに付いた白いどろっとした結晶を何度も舐めて顔をしかめながらクラメラは訊いた。ちなみに彼女、誰かと一緒の時は『アルディ!』と呼び捨てにするのだが、二人きりの時は『アルディちゃん』と呼ぶのである。意外とかわいいところがある。


「総当たりですね。――まずは、石鹸づくりで使った苛性ソーダを入れてみましょう」


 創薬ギルドはここ最近、『衛生と健康』についての啓発活動を強化している。その一環として、手洗いの習慣を広める運動があり、実用的な解決策として“苛性ソーダとオリーブ油かすを使った手作り石鹸”を推奨している。苛性ソーダには強力な脂肪分解作用と殺菌効果があり、感染症予防に効果的だと宣伝しているのだ。とはいえまだ一般には浸透しているとは言えず、現在は主に食堂や医療関係者向けに限定的な宣伝が行われている段階である。あとは金属加工ギルドが石鹸と金属粉を混ぜたものを摺動部に使う油剤として少々売れる程度だ。


 アルディは鹹水の中に苛性ソーダを入れてビーカーに置いた。「それぐらいアタシがやるわよ」とクラメラが言うが、


「苛性ソーダは非常に危険な薬品です。目に入れば失明しますし、皮膚に付けば火傷します。――君に何かあったら、ご両親様に顔向けできません」


と優しく言う。それを訊いた途端クラメラは顔を真っ赤にし、「うっせぇ馬鹿」と小さく漏らした。


 しばらくするとビーカーに白い沈殿物が析出されてくる。これは主にマグネシウム由来の水酸化物で、強アルカリと反応して沈殿したものだ。それを濾過で除いたのち、上澄み液を蒸発皿に移し替えて魔導コンロで加熱する。加熱が進むにつれ、白い結晶が浮き出てくる。


「塩が大半でしょうけど……」とアルディが呟く。


「硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムも多少混じってるはずです。特に硫酸マグネシウムは水に溶けやすくて、蒸発の過程でも抜けにくい」


「な、なにその硫酸ナントカって」


「それって少量なら下剤や胃薬として薬になりますけど、これだけ大量じゃ(えぐ)味ですね」


 二人は顔を見合わせ、小さく苦笑した。




 ――どれだけ時間が経ったのか、壁掛け時計がゴーンゴーンと九回も鳴った。


「もうこんな時間です。嫁入り前の女性がこんな時間までほっつき歩いてるなんて近所の外聞も悪いでしょ。帰りなさい」


「やだ、もっとやる、できるまでやる!」


「そんなこと言ってると、お日様が東の空からやってきますよ――実験は終わりにしましょう」


 そう言うと、アルディは研究室を片づけ始めた。「無理は行けません。ぼんやり実験して事故を起こすぐらいなら、元気なうちに切り上げるのも一つの勇気ですよ」


「良いじゃん、すこしぐらい一緒にいたって」


 小さく呟いたクラメラの言葉は、アルディの耳のはどうやら届かなかったようだ。


 *


 ――鹹水に薬品を混ぜ、加熱を繰り返すといった実験がついに十日も過ぎた。安息日は丸一日実験室に籠ってあれこれ試してみたが、なかなか望み通りの薬品には出会えない。


「うーん、食塩混ぜたり、重曹混ぜたりとしてみましたが、うまくいきませんね。――特に重曹は析出反応が不充分ですし」


 お茶を飲みながらアルディはぼんやりと薬品棚を眺めていた。


「ねぇアルディちゃん、一日ぐらい休み取ろうよ。ここずっと夜遅くまで研究してるんだから」


 アルディの手作りプリンをスプーンで掬いながら、クラメラはふと弱音を漏らした。最初の頃は「できるまでやる!」と意気込んでいた彼女だったが、何日も成果が出ないまま、薬品を変え、配分を変え、蒸発と濾過を繰り返す日々はさすがに堪えてきたらしい。


 プリンの甘さも、今夜は心に染みなかった。アルディの真面目な横顔を見つめながら、ふと、彼の手元にある薬品棚から視線を逸らす。


「……私、なんか最近、薬の名前見ただけで頭痛くなってくるよ」


 冗談交じりに笑ってみせたが、その声にはどこか翳りがあった。

 しかし実験を繰り返すアルディの横顔を見つめていると、自分まで弱音を吐いたらいけない──そんな気持ちが胸にわいた。だからこそクラメラは気分転換も兼ねて、できるだけ明るく声を張った。


「それより明日さ、安息日だからクラーレさんの実験農場に行ってみない? 赤茄子やキュウリがたくさん成ったって。使いたい分だけ持っていってって、クラーレさんが言ってたの」


「あぁ、クラーレさん、手広く野菜を育てたら大変な事になったんだってね」


 魔導エンジンを組み込んだ鋤込車や、牛犂で丹念に耕された畑は、借りた土地の端から端まで見事に整地され、見違えるほどの農地に様変わりしていた。麦は青々と育ち、牛犂で綺麗に畝を立て、種屋で仕入れた改良種の野菜はうなるほど元気に育ち、鈴なりの実がぶら下がっている。最初のうちはクラーレ一人で晩酌のツマミとして消費していたが、収穫が追いつかずあっという間に手に余るようになったという。


 あちこちのギルドや酔虎亭にやってきては「よかったらみんなで食べて」と野菜を配り歩いたものの、それでも捌ききれず、今では『使いたい分だけ持ってって! 売るほどあるから!』と書いた木札が農場の門に下げられている始末だという。


 ちなみに『売るほどある』は宮崎県の方言らしい。――中の人の地元・北陸でも使うから、方言と言うには、ちと範囲が広すぎると思うのだが。



「土壌を中和させる消石灰を撒いたら大変な事になったって……消石灰?」


「消石灰って、クラーレさんが春先に畑に撒いてた白い粉よね……」


「うん、Ca(OH)₂。農業用の中和剤や、なめし革の漂白剤、運動場の白線としても使われるね」


「中和……ってことは、もしかして」


 クラメラとアルディは顔を見合わせた。


「試してみましょう。少量の鹹水に消石灰を加えてみて……」


 ビーカーに取った鹹水に、ごく少量の消石灰を加える。撹拌し、数分後。


「……白く濁った? 底に沈殿物も出てますね」


「Mg(OH)₂ですね……たぶん。沈殿の色と反応からして、マグネシウム由来のものだと思います。これに炭酸ナトリウムを加えれば、カルシウム由来も析出されると思います」


 沈殿した上澄み液を蒸発皿で加熱し、再度塩を精製。


 クラメラが再びひとつまみを舐める。


「──苦く、ない……!」


 夜の研究室に、ささやかな歓声が上がったのだった。

ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。


現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れてください。




よろしくお願いします。



・作者註①

『物価が上がり過ぎると貨幣経済が崩壊する理由』



歴史上、ハイパーインフレは色んな所で起きた事象だ。

有名どころで言えば第一次世界大戦後のドイツ。第二次世界大戦後のハンガリーも世界史でやっただろう。近年で言えばベネズエラもそうだ。


だが、読者諸氏が一番記憶に残ってるハイパーインフレはジンバブエではなかろうか。


 ――今から約20年前。政治の無策と不信が重なった結果、国家の信用は崩壊して何十桁ものゼロが並ぶ紙幣が次々と発行。ついでにデノミネーション(桁の切り捨て)も実施された。だが刷れば刷るほど物価は上昇し、朝と昼とで値段が倍に跳ね上がるほどの混乱が生じたという。


 最終的に人々は、より信用度の高い通貨──たとえば米ドル──や、確実性のある現物交換に頼るようになったのである。なお、100兆ジンバブエドルはお土産用として今も現地で販売されているらしい。ヤフオクでも売ってる。


 では、そのジンバブエで金や銀などがどうして貨幣として使われなかったか? そもそも金銀の価値って何だろうか。美しさや耐久性を兼ね備えているだけでなくその金属に希少価値があるからだ。金銀の希少性は庶民にも理解できるだろうが、あまりに高額なため日常の取引には不向きだ。しかも硫黄や錫をどれだけ混ぜたかなんてぱっと見で鑑別出来る人なんかいない。――鑑別スキル持ちか、武器屋トルネコならワンチャンあるだろうが。まさか、商人の全てが鑑別スキル持ちな訳、ないよね? ね?


 それでもゴールドを使いたいのなら、その市場価値よりも随分と割り引いてでないと使えない。


 日本ですら、『おた〇らや』とかで換金しなきゃゴールドは円にならない。金の指輪をセブンイレブンの店員さんに渡して「これでおにぎりちょーだい」と言って、売ってくれるだろうか? 売ってくれるお店があったら教えて欲しい。ぜひ試してみたいから。青森ぐらいなら行くよ。

(南は福井県と岐阜県まで)


 そのため金銀――特にアフリカでは金を有難がる傾向が強い――を通貨として利用する場合、まずはドルかジンバブエドルに換金してはじめて使えるようになる。だが換金してすぐに相場は変わるだろうし、何度も換金してると手数料が意外と重く掛かってくる。それに資産価値が高いものを常々腰にぶら下げていたら命がいくつあっても足りない。歯に詰めておくか指輪として持っておくか、だ。まぁ治安の悪い国で金の指輪なんかしていたら、指を落としてでも、殺してでも盗む輩は出てくる。



 ジンバブエドルに信用が無い。国家と通貨の信用は暴落し続けている。だけど生活するならお金は要る。結局米ドルを使うか物々交換だってたと聞く。


 しかし中世ナーロッパな世界で基軸通貨は存在しない(ていうか設定が無い)。そうなれば物々交換に頼るだろう。



 金貨を使うにも上述の通り、決済するには手間暇がかかる。両替商がそれに見合った銅貨や白銅貨をかき集めてくる必要がある。日本のように金融機関へ行って預金通帳から1000万を引き出すのとはわけが違う。――ま、最近じゃ50万円以上引き出そうとすると、銀行員がこれでもかと絡んでくる。

(振り込め詐欺などあるからね、仕方ないよね)


 中の人は経済学は専門じゃない、SPI対策と大学の必須科目、入社試験のためにちょろっと齧った程度。だけど現金に信頼がないと物々交換になると思う。ほら、夏のこの時期の田舎ってお野菜が通貨になるでしょ? よくおナスやキュウリを頂くし。その代わり休みの日に草刈り機を動かしてあげるとか、作った糠漬けをおすそ分けするとか。

(それは現金に信頼が無いのではなく、現金を渡すと生々しすぎて嫌がられるだけ)


 100話超えたから、ちょっと真面目に語ってみた。




・作者註②

リ〇ちゃん(ピィー)の読書部屋』


 メイドの〇コちゃんがラノベやアニメ、コミックをひたすらこき下ろす、たまに褒めるyoutube動画。ちなみに小説本編で出したのは二回目。リ〇ちゃんには無許可。めちゃくちゃ毒を吐くが、たぶん中の人は良い人なんだなと動画の節々で感じ取れる。


『おじま屋さぁー、少し勉強したら?』と毒を吐かれない様に気を使ってる。たぶん一生取り上げられることはないだろうし、こんなしょーもない小説のために時間を要してはいけない(笑)



・作者註③


『小鍋片手で海水を煮込むのはだめなのか?』

『異世界に迷い込んだキャンパーがあれこれやる話。マテン貝を取る話』


メイドの〇コちゃんにこき下ろされてた、長野文三郎先生の作品。

『異世界のんびりキャンプ~聖獣たちの住まう島で自由気ままにスローライフを謳歌する~』


中の人の中学2年時。

(今も仲が良い)野郎三人で浜辺でキャンプしたときの話。

海水を煮込んで塩を作ろうとしたことがあるのだ。

1リットルの海水をすべて揮発させるにもひたすら時間を要したし、しかも出来上がったものはひたすらに苦い白い粉。食材として利用は出来なかった。釣った魚に振りかけて塩焼きに……なんて出来るシロモノではない。


舌がびりびり焼けるような、喉がグエッとなるような苦み、辛みだった。


つまり失敗経験者なのだ!

人生は失敗談ばかりのおじま屋だ!



今も同窓会でその時の話が出る。まぁ、同窓会で出てくる話で一番多いのは昔の火葬場跡で肝試ししたら幽霊が出た話かな?



なお、長野先生で好きな作品は『アイランド・ツクール 転生したらスローライフ系のゲームでした。のんびり島を育てます』です。

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