8話 募る想い
入学から数ヶ月経つ頃には、彼の周りにはいつも人が多く集まり、人気の高さがうかがえる。自分とは牛乳だけの繋がりだったんだと改めて実感する。
相変わらず給食の時間になると女の子たちが、
「牛乳あげる」
「私のも飲んで」
「ずるい!私のも」
と彼に牛乳を渡しに行く。みんな彼の特別になりたいのだ。
けれど、彼はいつも
「そんなに飲めないから。みんなごめんな。」
と言って、誰のも受け取らない。そんなやり取りがしばらく続いた。
秋になる頃には、彼の身長はぐんと伸びていた。
いわゆる成長期というやつだ。
彼は女の子たちに
「もう身長伸ばす必要なくなったから」
と伝えると、給食の時間に牛乳を渡しに行く女の子はいなくなった。
しかし、彼の特別になりたいという気持ちを持っている子は、増えている。それもそのはず。
山野くんは日を増すごとにかっこよくなっているのだから。
さり気なく優しいし、あの人懐っこい笑顔を向けられたら、好きになってしまうだろう。
休み時間に男の子とよくゲームや漫画の話で盛り上がっているが、その笑い声を聞くだけで、なんだか元気が出てくる。
彼が身長を伸ばす必要がなくなった今、私との『秘密の約束』が再び訪れる日はないだろうが、それでもいつか、あの屈託のない笑顔を私に向けてほしいと願ってやまない。