6話 恋敵の出現
入学式から数週間が経った頃、同じクラスの本城千夏に声をかけられた。
「渡貫さんって、小学生の頃から山野くんに給食の牛乳飲んでもらってるよね。中学生なんだし、もうそういうのやめたら?」
彼女は小学生の頃から、山野くんが私の牛乳を飲んでいたことに気が付いていた。
おそらく彼をずっとみてたから。
「明日からは、私が山野くんに牛乳あげるから。渡貫さんは自分で飲むってちゃんと山野くんに言ってよね!」
そう言うと、キッと睨んで去っていく。
彼に想いを寄せる人は多くいる。当然だ。明るく思いやりのある性格は、同性異性問わず惹かれるものだ。
自分と同じように、彼の笑顔に心奪われる彼女の気持ちが痛いほどわかる。かつて自分も、彼が他の誰かと微笑み合うことを想像するだけで哀しくて泣きたくなったのだから。
その日のうちに私は山野くんに声をかけた。そして、「山野くん、私はもう大丈夫だから。牛乳は自分で飲める。明日から自分で飲むから…。今までありがとう。」と伝えた。
翌日、給食の時間になると、本庄さんと目が合った。私が牛乳を飲むか確認したいのだろう。私は彼女に微笑み真っ先に牛乳を飲んだ。
この日、彼が私と牛乳瓶を交換することはなかった。6年間続いた彼との秘密の約束を自分から終らせたことに寂しさはあったが、これで良かったんだと自分に言い聞かせた。
相変わらず、ご飯と牛乳との組み合わせはいまいち好きになれないため、まずは牛乳を全て飲んでから他の給食を食べるようにした。牛乳を飲んでいると、いろんな事を思い出す。初めて彼が牛乳を飲んでくれた日のこと。
偏食が多く、引っ込み思案な私は、給食の時間が苦痛で、給食を減らしたいとも残したいとも言えず、他のものはなんとか頑張って食べても、どうしても牛乳が飲めず、未開封の牛乳瓶とにらめっこ。
6歳の私にとって、彼は突如現れた白馬に乗った王子様だった。
彼との秘密の約束が嬉しくて、給食の時間が少しずつ嬉しいものにかわって、苦手なおかずも食べれるようになったこと。
夏の暑い日には、牛乳2本も飲めてラッキーと嬉しそうに飲んでくれた彼の笑顔。
席が離れても、クラスが離れても、中学生になっても、ずっと秘密の約束が続いていたこと。
懐かしさと、彼の優しさと、初めて芽生えた淡い恋心と、さまざまな感情に涙が溢れそうになったが、ぐっと堪えた。