4話 学年が変わっても⋯
彼との秘密の約束は学年が変わっても続いた。
幸いなことに4年生までは同じクラスだったので、
席が離れても、彼は慣れた手つきで牛乳瓶を交換しにきてくれる。
特に言葉を交わさなくても、一瞬目が会いお互いに微笑み合う。
そんな毎日が続いた。
ところが、5年生になったとき、私は山野くんと別のクラスになってしまった。
さすがにクラスが違えばもう⋯。
山野くんは身長を伸ばすために牛乳を飲んでくれていたのだから、別に私の牛乳である必要はない。同じクラスの別の誰かにきっと牛乳をもらうのだろう。
その人ともふたりだけの秘密の約束をするのだろう。
そして、お互い微笑み合うのだろう。
この時初めて自分の気持ちに気が付いた。
牛乳を飲んでもらえない事よりも、彼が他の誰かと微笑み合うことを想像するほうが、哀しくて泣きたくなる。
給食の時間になり10分くらい経った頃だろうか。
彼が教室に遊びに来た。
仲良しの友達に「早く給食食べて一緒に遊ぼうぜ。」と言いながら教室に入ってくる。そして友達の席に行く途中、私の席に空の牛乳瓶が置かれた。そしてごく自然に、私の未開封の牛乳を持っていく。
驚いて彼をみると、今までと同様に、ニコッと笑って通りすぎる。
そして友達に「教室で待ってるから!早く食べて来いよ。」と言って、自分の教室に戻って行った。
突然の出来事で一瞬何が起きたかわからなかったが、一息ついて、今頃私の牛乳を飲んでいるのかと思うと、先ほどまでの哀しさが嘘のように晴れて、嬉しくて、それと同時に笑顔を思いだし顔が熱くなった。
秘密の約束は、卒業するまで続いた。
牛乳は以前ほど苦手ではなくなったけど、彼との繋がりを失いたくないため、「もう自分で飲めるよ」とは言いたくなかった。
約束の「これからも」が、いつまで続くのか考えるのが怖かった。その時がいつまでも来ませんようにと願っていた。