11話 宏斗と父親
「なぁ父ちゃん、給食の牛乳って他の人の分まで俺が飲んだらまずいかな?」
宏斗は、このまま毎日美湖の牛乳を飲むことで、美湖に迷惑がかかることがあるかもしれないと心配し、父親に相談した。
父親は息子の突然の発言に少々驚いたが、宏斗の真剣な様子から、詳しく話を聞いた。
「クラスにさ、めちゃくちゃ牛乳嫌いな子がいて、給食の時間になると泣きそうになってるんだよ。大人しい子でさ。真面目な子だから先生が残さず食べましょうって言うのを守らなきゃって思ってて。毎日つらそうなんだ。なんとかしてあげたくて、おれ、自分の空き瓶と交換したんだけど、そしたらさ、もっと泣きそうになって、ありがとうって。おれ、その子に泣いてほしくなくて、牛乳くらい俺が毎日飲んでやるのにって…
でもさ、本当は自分で飲まなきゃだめじゃん?俺が飲むことでその子が怒られるのは嫌だから、どうしたらいいのかわからなくて⋯」
父親は優しく微笑み、大きく温かい手で宏斗の頭を撫でながら
「そうか。その子は宏斗にとってとても大切な子なんだな」
というと、宏斗は涙ぐんだ顔でコクリと頷く。
父親は目を細めながら話を続ける。
「母さんはさ、人参とピーマンだったなあ⋯。なつかしいなぁ」
宏斗は驚き目を見開く。その様子をみた父親は更に話を続けた。
「父さんと母さんが同級生だって話はしたよな。家も近所で親同士も仲良くて、いわゆる幼馴染ってやつだ。
母さんはいつも元気で明るくて、父さんはどちらかというとちょっと臆病でな。いつも母さんに手を引いてもらってた記憶があるんだが、小学生になって給食の時間になると母さんの顔から笑顔が消えて、人参を見つめては溜息ついて。父さんも、母さんにはいつも笑顔でいてほしかったから、母さんの人参を勝手に食べたんだ。」
宏斗は父親が自分と同じことをしていたことに驚いたが、今では何でも食べる母親が、人参とピーマンが苦手だったことにも驚いた。