10話 宏斗の想い
同じ頃、宏斗も美湖と会話のない今の関係に、なんとも言えない気持ちになっていた。そして、出会ったばかりの頃を思い出していた。
小学校へ入学して間もない頃だった。
給食の時間、ふと隣をみると、泣きそうな顔をして給食を食べている女の子が目に留まる。
嫌いなものでもあるのかな。
あっ、にんじん嫌いなんだ。
玉ねぎは大丈夫そう。
ほうれん草も平気そうだ。
グリンピース…は苦手かぁ。
彼女の表情がくるくる変わるのが面白くて、しばらく見ていた。
1つずつ、お皿を空にする度に、ホッとする彼女。
見ていた自分もホッとする。
あとは牛乳だけになった時、彼女の動きがとまる。
じっと瓶を見つめる。
間もなく給食の時間が終わろうとしている。
先生は
「残さず全部食べましょう」
と言っていた。
彼女の目には、今にも涙が溢れそうだ。
咄嗟に僕は、自分の空瓶と彼女に見つめられていた未開封の牛乳瓶を入れ換えた。
あの時の美湖の驚いた顔は、今でもはっきりと覚えている。
先生にバレたら怒られるから、『秘密だよ』ってした時の、彼女の戸惑いの奥にある安堵の表情を見たとき、この子を守ってあげたいと幼心に思ったものだった。
翌日も、彼女は給食の時間になると表情が暗くなる。
あぁ…何か苦手なものがあるんだろうな…
やはり最後に牛乳が残り、にらめっこしている。ずっと見つめて、チラッと時計を見て、涙ぐみながらため息をつく。
よほど苦手なのだろう…
そう思った時にはもう手が動き、自分の空瓶と入れ替えていた。