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影狼の女王

モフモフする。

言葉にするだけで涎が出る程の美しい響き。

柔らかな毛並みの兎。ふわふわな犬。もこもこな羊。

それぞれみんな魅力があって、素晴らしい。

俺こと如月幹也は世界屈指のモフリストとして世界を股に掛ける男だった。


そう『だった』のだ。

俺は天涯孤独の身故のフットワークの軽さで、単身アフリカ大陸に渡った。

サバンナの現地人に無理言って車を出してもらい、ライオンをモフりにいった。

行った結果。頭をかみ砕かれて死んだらしい。

本望だった。


どうやら俺には延長戦が用意されていた。

俺を白い部屋に連れてきた神様はなんか特殊な能力をくれるという。

異世界でなんか勇者と魔王がうんたらかんたら言っていたが、俺はそんなことは気にしない。

新しい世界。新しいモフモフとの出会い。俺はそれに胸をときめかせる。

元居た世界のモフモフはもうある程度制覇したのだ。


俺は心に決める。せっかく手にしたこのチャンス、必ずモフってみせる。

テイマーかそうかとか言っていたが、俺は神様に一つ要求した。


「動物側も気持ちよくなって欲しい。俺の独りよがりではダメなんです。動物も満足するような力を下さい」


口をポカンと開けている神。


「・・・わかった。では頼んだぞ」


何を頼まれたのかわからんが、とりあえず俺がモフモフして世界中の動物を幸せにしてみせます。


「はい!!」


俺は全力で神に返答する。


そうして俺は異世界に降り立ったのだ。




降り立ったのは森の中。空を見上げると黒い雲が空を覆おうとしている。


「まずいな。雨降りそうじゃん」


俺は空を見上げる。異世界に来て早々に雨に打たれるのはしんどいなあ。

周りを見渡して雨宿りできそうなところを探していると、目に入ったのは洞窟だった。


「あ、あった」


近くに洞窟を見つけた。なんか透明の膜みたいなのが張っていたが、触ってみると手が通り抜けたので問題なし。むしろ雨とか弾いてくれそうで、俺は喜びながら中に入る。


この洞窟、なんか奥はとても狭いようで、30歩ほどで壁にぶつかる。外が森なのでそんなに明るくはないが、かろうじて視界は確保できる。


「とりあえず雨がしのげればいいかなあ」


そう思って満足していたが、ふと洞窟内を見渡すと不思議な物が目に入った。


剣が地面に刺さっていたのだ。


「なんだこれ……」


俺はその剣を抜いてみようとする。思い出すのは、神様が言っていた「勇者がうんたらかんたら」の話。


「もしやこれが勇者の剣!」


テンションが上がり、ぐっと力を入れてその剣を引き抜いた。


「あれ?抜けるじゃん」


俺はその剣を眺める。すると、急に洞窟内の視界が悪くなる。


「ん?」


洞窟内に黒い靄が蔓延してきている。俺はその黒い霧の出所を探し、目を凝らすと、そこには漆黒の大きな狼がいた。


全然気づかなかった。意味がわからない。急に目の前に現れたのだ。


「ぐるうぁぁああああああ」


威嚇なのか、俺に吠えかかる漆黒の狼。だが甘い。


「俺に威嚇など聞かない。世界中のありとあらゆる動物に威嚇されてきたんだ。今更びびってどうする」


そう自分に言い聞かせながら、俺は剣を捨て狼に近づく。よく見ると、その黒い毛はふっさふさで触り心地が良さそうだ。


狼って、ちょっと固めの毛質が多くて、ツンツンしている肌触りの子がおおい印象だが、目の前の狼は明らかに柔らかそう。俺は躊躇なく狼に近づいた。


後ろに下がる狼。


「あ~この狼人見知りするタイプだ。こういうのは距離を縮めて頭を撫でるに限る」


俺はすっと狼に手を伸ばし、その頭を撫でた。


ブンブンブンブン。


おお、すごい。尻尾がすごい勢いで揺れている。



俺はさらに狼に近づきつつ、今度は顎の下を撫でる。尻尾は相変わらずブンブン振っていて満足げだ。


「ぐるあああああああああああ」


うわぁ、びっくりした。さっきまで喜んでいたのに急に吠えた。目はなんか怒っている。


「ツンデレか。これツンデレなのか?」


俺はめげずに頭に手を伸ばす。バックステップで後ろに距離を取る狼。


「お、なんだ。嫌か?」


俺は自分の手を見る。なんかちょっと輝いているんだけど。

そこで、ついさっきのことを思い出す。


神様がくれたであろう能力『神の手』。

かつて世界を席巻したマツゴロウさん。『マツゴロウとゆかいな仲間たち』というテレビ番組までやっていた、恐らく『神の手』に最も近いとされた憧れの人。俺のは神様製だ。これでマツゴロウさんに並べる。


「きっとそう。さっきのはあまりの気持ちよさに、びっくりしただけだ」


俺はまた狼に近づいてゆく。狼はもう背中が壁なので逃げることができない。

俺はもう一度頭に手をやる。一応、いつ噛みつかれても大丈夫なように手を下げる準備は心の中でしていたが、必要なかった。


俺は頭を撫で、そして今度は耳の後ろを手でかいてやる。


「くぅうううううん」


と気持ちよさそうに鳴く狼は、どこか目が潤んでいる。少し頭を振って俺の手を振りほどこうとしているが、俺も負けない。今度は違う方の手で顎の下を撫でてやる。

顎の下と耳の後ろを同時に撫でつつ顔をホールドする。


すると、じゃあああああと滝が流れるような音がした。


「お、嬉ションじゃん」


その瞬間、狼は俺に突進した。俺は後ろに一回転して地面に寝転ぶ体勢になる。


「いてててて。ちょっといきなりすぎたか?」


そうして前を見ると、俺はその光景に驚く。本日二度目の驚きだ。


俺の目の前には、やや釣り目で腰まで伸びる黒髪の美人が裸体でいた。顔は奇麗で普通の人が見たら恋に落ちそうな整い様だ。顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。胸はかなり大きく、先端がピンと天を指している。腰はきゅっと引き締まり、そこにある腹筋に目線が集まる。お尻も立派なようで、前からでも股の間からちらりと見えるほどで非常に魅力的といえる。


「何をしよるか貴様。妾を誰と心得る」


狼がいた場所にいた人間が急に喋り出した。


俺はつい反射で言ってしまう。


「チェンジで」


「は?何を言うておる」


「チェンジで。プリーズトランスフォームガォーン」


「妾は影狼の女王であるぞ。そんな……」


「チェンジで」


俺と美人さんは見つめ合う。


「くぅ。なぜ妾がこんな目に……」


そう言いながら狼に変わる。


おー、まさか本当に狼に変身できるなんて、と思いながら狼に再接近する。


今度は狼はおとなしく俺の接近を許した。少しずつ後ずさっているものの、噛みついてくる気配はない。どこかこちらを睨み付けるような顔ではあるが、瞳が濡れている。


まあ、なんか可愛く見えてきたので俺は容赦なくモフモフすることにする。


俺はまずは頭から撫でる。すると、狼は腹を地面に付けた。


「おー。おー撫でやすい」


俺はそう言いながら、今度はお腹の部分を撫でる。


「くううううううううん」


と、気持ちいいのか少し甘えた鳴き声に聞こえる。

俺はわっしわっしとお腹を撫でた。


そして10分後、優しく全身をモフモフした結果、狼はもう完全にメロメロになったと言っても過言ではなかった。頭を俺に預け、もうされるがままになっている。少し息が荒いのが気になるが、狼なら大丈夫だろう。


俺の目線はさっきから揺れている尻尾に釘付けだ。もう少し心を許してからの方がいいかなあと思うが、ええい挑戦だと俺は尻尾に手を伸ばす。


「くぅおおおわぁぁん」


尻尾はさすがに嫌なのか、顔を俺の方へ向けて尻尾を俺の手から逃がす狼。


「くううううぉおぉぉぉん」


再度俺に抗議し続ける狼。


「はいはい」


俺はそう言って顎をさらに撫でる。顎を撫でられて少し蕩けたような顔をする狼。そのまま眉間を撫でほぐしながら目に蓋をする。そして尻尾の根元を手で掴み、指でわっかを作って尻尾の先に向けて優しく通す。


狼はビクリとして、


「うおおおおおおおおおおん」


と大きな声で鳴く。かなり気持ちいいのか、鳴きながら震えている。

俺は「そうかそうか」と続けて尻尾を撫でた。


「うおおおん」


俺は楽しくなってきて、愛を込めて狼をモフる。10分くらいすると、狼はこと切れたように動かなくなってしまった。目を見ると白目で涎が垂れていた。


「気持ちよくて寝ちゃったか」


俺は狼の頭を撫でると、そこでふと視界の端に文字を見つける。


『ログ:影狼の女王 ミツをテイムしました』


と表示されている。


おー、どうやらモフモフして気持ちよく寝付かせるくらい手懐けるとテイムできるシステムらしい。というか、この画面なんだ。ゲームみたいだな。


まあ、いいや。この子、ミツって名前なんだ。

俺は狼を眺める。女の子か、チ〇チ〇ついてないもんなあ。


俺はこれで今後ミツをいつでもモフモフできるという特権を手に入れたという事だな。満足満足。


俺はこの洞窟の中でミツの頭を撫で続けた。



お願い消さないで運営様。なんでもしますから。

あ、消されなかったら2話はミツちゃん目線で書きます。

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