プロローグ
初めての連載です。どうかお手柔らかに…。
私、ローズ、18歳、一生下働きの人生が確定している。
母を10歳のときに亡くし、父は会ったこともなく名前すら知らない。
母譲りの栗色の髪と、緑色の目。
金髪碧眼が貴族の色とされるこの国で、ザ・平民の見た目。
睫毛が長くてお人形みたいと言われることもあるけれど、いつもメイドのお仕着せを着ていて髪の色も何も関係ない世界で生きている。
母は王家の侍女をしていたが、私を身籠りそのまま追放された。
『侍女は王族の女』であり、王族以外と交わることは許されないこの国で、母の行為は禁忌であり、王家の敷地に入ることすら許されない身となったと聞いている。
そんな母は幼い頃から私に厳しく王家のしきたりや侍女のしきたりを教えてくれた。
私を生んでから体が弱ってしまい、まともに働ける体ではなかったけれど、王家で身につけた教養を町の子どもたちに教えたり、薬草から薬を作ったり、どうにか女手1つで育ててくれた。
いつか自分がいなくなったとき、下働きとして一生衣食住に困らない生活を送れるように。
下働きは侍女よりも格下だけど自由がある。
侍女は王族の女で制約がたくさんあるけれど、下働きはやめようと思えばいつでもやめて他の家に移ることもできる。
仕事はきついけれど、母と同じ思いをしてほしくないと、侍女ではなく下働きとして私をこのスチュアート公爵家に預けた。
そして私を預けて数ヵ月もしないうちに、病気をこじらせて亡くなってしまった。
スチュアート公は王家の領地のすぐ隣に広大な農園地帯と大きな街道沿いの宿場町を持つこの国随一の貴族だ。
スチュアート公爵家は『魅惑の血』を持つ一族で、平民は目が合っただけで仕事も手につかないくらい魅了されてしまう。
そのため、公爵自身の侍女は置かず、男性の侍従が身の回りの世話をしている。
女性はほとんどが下働きで公爵家が出掛けている昼間だけ、お城の仕事をして公爵家がご在宅の際は別棟でお料理をしたりお針子をしたり…。
とにかく、下働きの環境が恵まれている。
母が私を預けたのも納得だった。
そんな恵まれた職場を辞する理由もなく、
私はこのスチュアート公爵家で一生下働きとして生きていくのだと思っていた。
あの日、『スチュアート公爵』ご本人に見初められるまでは。