フラーの家と職探し③
そうは言っても、エビータをはじめその他の娼婦たちから、「娼婦にはなるな」と強く説得されれば、自身のこれからの成長を考えればここを出ていかねばならない。フラーは胸にもやもやするものがありはしたが、諦めて家と仕事を探すことを決意した。
エビータと家探しに行く日の当日、フラーは食堂でゆっくり昼食を取ってからエビータの私室へと向かった。エビータはその前夜に一時滞在(※短時間滞在)のお客の相手をしていたため、昼時まで睡眠を取っていたのだ。
エビータは寝起きが良く、フラーが彼女の部屋を訪れると、既に着替えやら化粧やらを済ませていた。フラーは彼女の髪だけ結ってあげることにした。エビータはそれが当然なのか、すでに鏡台の前に座っていたので、フラーはそのまま彼女の後ろに回り込んだ。
エビータの髪にブラシを入れていく。フラーの髪とは違い、毎日髪を洗ってヘアクリームなどで手入れしているエビータの髪は、非常に艶がありなめらかだ。フラーはエビータの髪に櫛を通しながら、ふと思った。
(ボクもここを出たら、もう男の子の格好なんかしなくてもいいんだから、ドレスやスカートを着たりできるかな?それから髪を伸ばして・・・。あ、ドレスの前に髪を伸ばす方が先かな。こんな髪じゃあ、ドレスもスカートも似合わないもんなぁ。)
「エビータ、髪留めはどうする?」
「ピンだけでいいよ。」
「髪型は?」
「シンプルにまとめてくれれば、他はあんたに任せるよ。」
「オッケー。」
(エビータぐらいの髪の長さになるにはどれぐらいかかるのかな?あ、でも髪を伸ばすならエビータたちみたいに毎日お風呂に入った方がいいのかな?あれ?そうするとお風呂付きの家を借りなくちゃいけないな。うーん?お風呂ってみんな(※娼館外の一般の人たち)どうしてるのかな?)
「エビータ。」
「うん?」
「ボク、ここを出たら髪を伸ばして、女の子の格好をするんだ。」
「ああ。そりゃいいねぇ。」
「でね、ボク、考えたんだけど。」
フラーは一通り櫛を通したエビータの髪に、オイルを軽く馴染ませていく。
「なんだい?」
「エビータたちの部屋ってお風呂ないじゃないか。客室にはあるけど。」
そこまで告げるて、エビータはようやく察した。
「お風呂ねぇ・・・。普通のアパートは付いていないよ。」
「えっ!?」
「ちょっとお金を出せばお風呂付きのアパートもあるにはあるけど・・・。あんたが今後、自分の力だけでやっていくなら、かなり稼がないと厳しいよ。」
「そうなの?じゃ、普通の人ってお風呂どうしてるの?」
「大衆浴場に行ってるねぇ。」
「大衆浴場・・・。」
「ま、でも、最初のうちはあたしが援助してやるって言っただろ?風呂付きの家を借りてもいいよ。」
「ほんと!?」
「ああ。」
「ありがとう!エビータ!」
フラーはエビータの背中に飛び付いた。
「フラー、嬉しいのは分かるけど、せっかくセットした髪型がくずれる!」
「あ、ごめん、すぐ直すよ。」
フラーはすぐさまエビータの背中から飛び退くと、バツが悪そうに自分のせいで乱れたエビータの髪を結い直した。
「・・・エビータ、ボク、家って借りたことないから、いろいろ教えてね。」
フラーがそう言えば、だがしかしエビータはフラーの予想外のことを述べた。
「あたしも知らないよ。奴隷娼婦が知るわけないじゃないか。奴隷になる前は実家暮らしの少女だったし。」
「えぇっ!?」
驚くフラー。
「じゃ、今日、どうするの?」
フラーは心配になっておずおずとエビータに尋ねた。
「助っ人を呼んであるから心配いらないよ。」
「助っ人?」
【作者より】
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2024. 5. 5 Sun. 20:39 再投稿