【第二章・第四十三話】雲外に蒼天あり
「実は先日、うちの団員がある事情で辞めてしまってね。最近は人員も少なくなっていたし、皇国ウィンクルム医療騎士団に入ってくれる仲間を募集しようとしていたところなんだ」
「団員を募集、ということですか」
つい、言葉が口をついて出てしまった。せっかくプルデンス様が独り言という体で話してくださっていたのに、無意識で相槌を打っていた。慌てて口を抑えるが、気付いたところでもう遅い。
そんな僕を見て、プルデンス様はまるで面白いものでも見たかのように朗らかに笑う。
「まあ、最初は騎士見習いから始めてもらうことになるけど。様々な薬品を扱う団だから、審査はかなり厳しいんだ。正直、一人前の団員として認められる前に騎士見習いを辞めてしまう人も多い」
そこまで言い切ってから、一つ、息を吐く。
「……君のような意欲のある子に来てもらえれば、こちらとしては大歓迎なのにね」
できるだけ、深刻そうにならないように。かといって、軽々しくもならないように。
「まあ、でも……君が厳しい騎士団の試練に耐えられるとは思えないかな」
ただ淡々と事実を述べる声が、音が、空気を切り裂いて、僕のもとへと届く。
なにも言わずにプルデンス様の様子を伺うと、彼は僕の視線から逃れるようにそっと目を逸らした。
なるほど。あくまで、独り言の範疇に収めようというわけか。
___でも、そうはさせない。
「……分かりました」
彼は彼なりに、僕の未来を導こうとしてくれているのだろう。だが、それを決して強要することもなく、断りやすい理由も並べてくれている。よって、僕が彼の密かな提案に乗る必要などない。
わざと煽るような言葉を選んだのも、なにか理由があるのだろう。そんな安易な罠に僕が引っかかるわけもないと見越しての発言だったはずだ。
ならば、あまりにも回りくどいその面倒なやり方をわざわざ実行する意味は?そうすることで彼が得るメリットは?
きっと、彼が求めている答えは……いや、僕が言いたい言葉は、これだ。
「今度、騎士団が人員を募集するのなら、僕もそれに応募します。……皇国ウィンクルム医療騎士団の騎士に、僕はなります」
暗に、プルデンス様はこう言っているのだ。
自らの人生の決定権は常に自分自身が握っていなければならないものなのだ、と。
___上等だ。
目の前にぶら下げられた餌に食いついて何が悪い。誰かに敷かれたレールの上を歩いて何が悪い。使えるものはなんでも使え。利用されたとしてもいい。捨て駒だったとしてもいい。
最後、乗り越えた夢の先に立っているのが僕であれば、それでいい。自分の欲しいものには、手に入れたいものには、とことん貪欲にならなければならないときがある。
審査が厳しい? 騎士見習いを辞めてしまう人が多い? 僕が厳しい騎士団の試練に耐えられるとは思えない? そんなもの、僕の知ったことではない。
確かに、今はまだ未熟かもしれない。だが、次会うときはどうだろうか。そのときの僕が、未だに中途半端なままの人間であると彼は言い切れる保証はあるのだろうか。
「次にプルデンス様とお会いするとき、僕が騎士団の仲間として相応しいと認めさせてみせます。……必ず僕を、選ばせてみせます」




