【第二章・第四十話】美味しいマールムパイ
「どうして、コロクロムにあの花屋を教えてくれたの?」
眩しい夕陽に照らされながら道を歩いていくコロクロムを見ながら、隣の少女にそう尋ねた。孤児院の子供でないのなら、敬語は不要だろう。すると、彼女はきょとんとしたあどけない表情を浮かべ、不思議そうに答える。
「白菫色、だったからです」
「……ああ、なるほど」
端からすれば、意味の分からない言葉だっただろう。けれど、わたしには少女の言おうとしたことが理解できる。コロクロムの瞳の色は白菫色だ。おそらく、あの瞳を見て連想したのだろう。
「なにはともあれ、あの子にとってはいい機会ね。どうもありがとう。さっきの子はコロクロムで、わたしはシスター・アンゲルスよ。皇城近くにある教会で、孤児院を運営しているの。あなたは?」
「改めまして、わたしはティアと申します。アンゲルス様は、一夜草を見に行かなくても宜しかったのですか?」
「ええ、この後少し用事があるのよ。思っていたのだけど、そんなに多くのマールムを抱えてどうするの?」
「お師匠様と一緒にマールムパイを作るんです」
「……あのマールムを、パイに?」
「はい。甘く煮詰めると美味しくなるみたいで」
「……正気なの?」
「……? はい、そうですね」
マールムは酸味が強く、スイーツには向いていない。だからこそ、芋と混ぜてサラダにすることによって、マールムの持つ微かな酸っぱさがアクセントとなるのだ。ちなみに、もともと異国から伝わった料理法で、この国発祥のレシピではない。
それなのに、マールムを甘く煮詰める? そんな食べ方、聞いたこともない。ただの酸っぱいパイが出来上がるだけではないか。
だが、それを説明しているティアという子もあまり分かっていないようだ。その証拠に、本当に美味しいものが出来上がるのでしょうか、と不思議そうに首を傾げている。彼女が言うには、それを言い出したのはお師匠様という人らしい。
「そのマールムパイは、どこから伝わったものなの?」
「えっと……確か、アルゲオアエテル……ニ、テス? みたいな感じの国です。あれ、ニタスだったような……」
困ったように笑う少女を見て、わたしは笑い返すことができなかった。
___『アルゲオアエテルニタス』? どうして、あなたはその国の名を……。
そう考えて、わたしはある可能性に行き着いた。
ああ、そうか。仮説としては、大いに有り得る話だろう。だが、もしそれが事実と言うのならば、いったいどうやって『テミス』の目を欺いたのだ。公平と正義は秩序の源、その根源に逆らえる者など___。
「……ティアさん、と言ったわよね。なにか助けが必要になったら、うちの教会に来てちょうだい」
「はい、ありがとうございます。あの、どこか顔色が悪いようですが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、心配には及ばないわ。では、そろそろわたしは戻るわね。あなたに、『自由の神・リベルタス』のご加護があらんことを」
___謎は解けた。
『カリブンクルス』、『アエキウィタス』、『ラエティティア』……。
「___最期の生き残り、ね。……また再会できることを楽しみにしているわ、ガーネット」




