【第二章・第三十四話】思いがけぬ友人
「別に、いいんじゃねえの? 誰だって、気に入らない奴くらい居るだろ」
教会の庭のいつもの木陰にて。
___サングイスのこと、嫌いなのか?
木の後ろから急に姿を現した彼___サングイスの兄は、これまた突然に僕へそう尋ねてきた。そうして正直に思いを告げた僕へ返ってきたのは、あっけらかんとした言葉。
ぶっきらぼうに放たれたその声を僕は信じることができず、思わず彼の顔をまじまじと見つめてしまう。
「なんだよ、その顔。……まあ、うちだって家族仲が良いわけじゃねえし、お前の気持ちも分からなくはないっつーか……」
わざとらしくそっぽを向いた彼は、ばつが悪そうに顔を顰めている。どこか後ろめたいことを隠しているかのようなその仕草は、僕の心に疑問を抱かせた。
家族なんて、どこも仲の良いものが当たり前だと思っていた。いくら家族と言っても喧嘩くらいはするだろうが、口先で不満を垂らしつつも、血の繋がっている家族に対する態度はどこか相手への思いやりで満ちているものなのだと。
そう思ってしまうのは、僕が家族を知らないからなのかもしれない。世間一般的に『家族の温もり』と称されるものを、僕は知らないから。
とにかく、イクェス家はなにかしらの深い溝がそれぞれを隔てているのだろう。そう思えるような仕草を、彼がしていたから。お気楽な貴族様だと思っていたが、身分の高い者は高いなりに苦労があるのだろうか。
まあ、もしそうであったとしても、僕にはそんなこと分かりようもないけれど。
「サングイスはお節介だからな。必要以上に人へ干渉しすぎる癖がある。だからこそ人脈も広いし、交友関係も良いみたいだが……お前は、そういうの嫌いなんだろ」
「……はい」
「ははっ、俺もそういう奴は苦手だわ。お前とは気が合いそうだな。お前、名前なんだっけ?」
「孤児院の人達には、コロクルムと呼ばれています」
「コロクルム……よし、覚えたぞ。これからよろしくな、コロクロム!」
酷く緩やかで生温い空気を運んできた風は、僕の頬と首筋をそっとくすぐる。そして、同時に彼の髪先もふわりと攫っていった。こちらへ丸めた拳を向けてきた彼へ、おそるおそる拳を合わせる。そんな僕の様子を見て、彼は豪快に笑った。
「そ、そんなに笑わなくても……」
「ははっ、悪い悪い!」
口頭では謝罪を述べながらも、彼の笑うのを止めない。
「お兄様、もうすぐお母様との約束の時間よ___って、二人ともどうしたの?」
しばらくして顔を出したサングイスが首を傾げるまで、この温かな空間には、ずっと彼の笑い声が鳴り響いていた。




