【第二章・第三十二話】あちら側の人間
物心ついたときから、この教会にいた。もちろん両親の顔など覚えていないし、自分を捨てた人間のことなど、たとえ同じ血を引いている者であっても関わりたくはない。同い年の孤児にも、どこか冷めている、と遠巻きにされてばかりだ。
どうせこのまま僕は、ずっと惰性で生きていくのだろう。もとより、悲観的な性格の持ち主だ。僕は、簡単に夢を諦められる。最初からなにも期待しなければ、失望することもない。
叶えられない夢を掲げて、もし失敗したら……努力した自分が、馬鹿みたいじゃないか。
「では、僕はもう戻りますので___」
「___違うわ」
冷ややかな目で彼らを見ながらその場を立ち去ろうとしたとき、背後から僕を呼び止める言葉。まだなにか用なのだろうか。その声を無視して足を進める。
「___もし叶わなかったとしても、その大切な夢を叶えたいと思うことは、みっともなくなんかないわよ」
凛々しくも強い意思が籠もった声に、ピタリと足が止まった。
「さすが、恵まれている方の言葉は含蓄がありますね」
狼狽えそうになる気持ちを必死に押さえつけながら、冴えない答えを返す。思わず引き攣る口元へ手を当てながら、僕は皮肉気味に笑ってみせた。
だが、それでも目の前の強い光は揺るがない。……ああ、そうか。
___彼女は、《《あちら側》》の人間だ。
世の中には、二種類の人間がいる。あちら側とこちら側の二種類だ。
あちら側___夢や目標がありそれに邁進している人間を見るたびに、よくそんな純粋に夢を追えるものだと羨ましく思っていた。だが……なんなのだろう。彼女の言葉を聞いた途端、今までは感じることのなかった劣等感のようなものを覚えた。
もうすぐ孤児院を出て就職先を見つけるようになるというタイミング、周りはその話をしたり、教会で働くことを考え始める時期で、なんだか置いて行かれている気分になっていたのも事実だ。
僕は、結局何になりたいのだろうか。将来、なにをしたいのだろうか。
「待つわ、いつまでも。たとえ余計なお世話だったとしても、貴方が本当に叶えたい夢を叶えられるようになるまで、待っているから」




