【第二章・第二十七話】開かないコルク栓
あの夢のように、コロクルム様自身にやらせることだけは絶対に許せない。
どこを切ったら危険なのか、きちんと調べてきた。刃先だって、綺麗に消毒してきた。大切な喉、大切なコロクルム様だ。なに一つ、怠るわけにはいかなかった。
気がつけば右の手のひらに、爪が強く食い込んでいる。花の誘惑に耐えつつ最後の忠告をすべく、どうにか首から視線を剥がす。
「家族も、わたくし以外はこんな体質ではありません。そこまで量は必要ないはずですが……確証は、ないのです」
もしものときは、喉元を傷つけさせて欲しい。血を飲ませて欲しい。酷く恐ろしいことを言っているはずなのに、なぜだろう。わたくしの姿を映したまま、目の前の白菫は揺らがない。
どこまでも優しくいてくれる温度に、奥歯を噛み締める。
「ただ……コロクルム様の安全は、わたくしが必ず保証します」
酩酊するような香りを突っぱねて、唸るように誓う。どれだけ欲深くなろうと、この美しい色だけは絶対に失うわけにはいかなかった。
「____分かっていますよ。僕は、貴女を信じているので」
そんな決死の想いを知ってか知らずか、当然だというように彼は頷く。お母様の、ミラージュの言う通りだ。コロクルム様は、わたくしのことを信じてくれていた。あとは、わたくしが自分を信じきれるかどうかだった。
「では……飲みますね」
震える手で、小瓶のコルク栓を強く摘む。そして、そのまま一気に引き抜こうと力を込めた。……だが、一向にその栓が抜ける気配がない。
「……え」
「サングイス、少しその小瓶を貸していただけませんか?」
「は、はい……」
その状況を察したコロクルム様へ、落とさないよう慎重にそれを手渡す。もしや、わたくしが思っていたよりも固く、ミラージュが栓を閉めていたのだろうか。蓋が開かないなんて、本当に予想外だったのだが……。
「開きましたよ、サングイス」
わたくしが視線を外している間に、コロクルム様が解決してくださったようだ。わたくしの力が足りなかったのだろうか。そう思いながら、小瓶を受け取って唇に当てた。わたくしの嗅覚が鈍っていない限り、この液体は無臭だ。
正直、得体のしれない液体を飲むのには勇気がいる。だが、これで治るというのなら話は別だ。彼の喉を傷付けることと秤にかければ、悠長なことも言ってられない。
「っ……!」
勢いよく、瓶を傾ける。ゆったりと流れていく情景の中、こんなにも色鮮やかな赤の液体だっただろうかと、ただぼんやりそう考えていた。




