【第二章・第二十五話】わたくしの決断
『覚えておくといい。貴殿がどんなことをしようと、どんなことを望もうと、彼は絶対にイクェス卿を否定しない。……話せるようになるまで待っていてくれと、貴殿が言ったのだろう?』
「……ミラージュとも、約束したものね。必ず、彼に話すから……話さなきゃ、いけないから、と」
まるで、花が綻ぶ様子を見守るように。もしくは、人々が神様を敬うように。
笑っているから嬉しい。楽しそうだから安心する。悲しそうにすれば傍に寄り添うし、背負いすぎないように彼の状態を見極めて……いつだって、わたくしはコロクルム様のことを大切にしたかった。
青く燃える闘志、淡々と前を見据えるしなやかな強さ。率直な優しさと、意外にも分かりやすい表情。柔らかな表情の安心感と、なんの翳りもない微笑。そこに嘘はない。だからこそ安心できた。コロクロム様が穢れてしまって困るのは、きっと初めからわたくしの方だった。
わたくしにとってコロクルム様は、その内側に触れることを躊躇ってしまうような、美しく潔癖な存在だった。わたくしが彼をそんなふうに思っていても、それでもわたくし達は、恋人同士だった。
見るに堪えないかもしれない。二度と元には戻らないのに、その羽根をもぐことになるのかもしれない。それでも、この世界で唯一わたくしの隣に立つ恋人として、大きな我儘が赦されるとするのなら。
こんなわたくしにだって汚されないでいることを、どうか証明してほしい。
「……随分と待たせることになってしまって、申し訳ありませんでした」
「ふふっ、構いませんよ。僕はもっと長い間、サングイスのことを待たせてしまいましたからね」
花が、あるいは雪が舞うように。なんでもないような顔で彼は笑う。淡い光。その綺麗な白菫を目に焼き付けて、一つ咳払いを落とす。
「今から言うわたくしの言葉が、コロクルム様は信じられないと思います。ですが……とりあえず、聞いてください」
ここまで来て、心臓が速くなる。あれだけ説得されておきながらも、やはりまだ拭えないものはあった。過信が命取りになることを知っている。結局、わたくしにとって自分を信じ切るということは酷く難しかった。それでも、コロクルム様のことなら、わたくしは信じることができる。
わたくしがそう思うように、きっと彼は受け入れたいと、そう願ってくれている。もし見当違いなら、少しでも違和感を覚えた時点で引くつもりだ。だから、数分後にわたくし達がどうなっているのか、この期に及んでわたくしには分からなかった。
ただ、それでも迷いはない。一度打ち明けようと決めたのだ。この気持ちに逆らうことはできない。逆らう必要も、きっとなかった。




