【第二章・第二十二話】温かい家族
「あと、先程二人で言い争っていた件なのだけれど」
お母様へお礼を言い、去り際にさらりと投げ込まれた発言に、わたくしはピタリと動きを止める。
「___貴女のあの気持ちを全部、彼に話してみなさい」
刹那、声が届く。
重い身体で、それでもゆっくりと振り返る。余計な力の入っていない眉間に、軽く結ばれた唇。大きくため息をついた後、お母様は組んでいた腕を解く。
「……ごめんなさい。貴女の言う通り、そんなに簡単な話ではないことは分かってるの。確かに……その気持ちは、なんとなく想像できる。けれど、彼は貴女のこと、化け物だなんて思わないでしょ」
無表情にしては温度のある、更地のような表情でお母様はこちらを見続けていた。
否定は、できなかった。そう、きっとコロクルム様はわたくしのことを化け物だとは思わない。あの方はどうなっても、その身が汚れようともわたくしの恋人でいてくれる。
「貴女たちの関係は貴女たちが決めるものよ。サングイスが相談したいって思うのなら、きっと彼は貴女のこと、いつまでも、ずっと待っててくれる。たとえ、貴女がどんなことを思っていても関係ないわ。絶対に、全部受け止めてくれるはず。……サングイスのことが大切なら、絶対」
いつもよりワントーン低い声。やけに強く言い張るお母様に、お兄様も真剣だったのだとぼんやり思い出す。口が悪いのはいつものことだ。それでもきっと、お兄様はわたくしを助けようとしてくれていた。……ただ。
「それは……分かっている、つもりです。コロクルム様のことは信頼しています」
「……なら、どうして彼になにも言わないの?」
煮え切らないわたくしの返事に、お母様は訝しげに眉をひそめた。
正面の、淡い灰色の双眼。逃げるためではなく、考えるために視線を逸らす。
「……分からないのは、わたくしが……わたくし自身が、本当にコロクルム様のことを考えられているのか、ということです」
拙いながら、言葉を選んでそう告げる。これはきっと、彼がどうこうという問題ではない。元を辿ればわたくし一人の問題だった。




