【第二章・第二十一話】心を守る魔導具店
ただでさえ競争の激しいフォルトゥナで、長い間店を開き続けるのは難しい。だが、最近できた『暁月堂』という名の店は順調に顧客を増やしているようで、提供されている商品も珍しく、とても美味なのだと噂になっているのだ。
以前、疑問に思って調べてみると実は、城下町にて安定の人気を誇る月華堂の姉妹店なのだとか。紅茶とはまた違う緑色の茶葉を使ったティラミスや、赤色の豆を煮詰めたものに乾燥させた果物を入れたドライフルーツ羊羹など、この国の遥か遠くに位置する異国の食文化が取り入れられたものが多く販売されている。
当然、そのような人気の店をこの国の淑女達が放っておくわけもなく。開店前から並んでも買えない人のためにお茶会の中で情報が出回ることが多いのだ。
だが、わたくしの言葉にお母様は小さく首を振る。どうやら予想は外れたらしい。
「『心を守る魔導具店』と呼ばれている店の存在を知っているかしら?」
「いえ、聞いたこともありませんが……どこにあるのですか?」
「ミセリア地区よ」
「……え?」
魔導具店や本屋、装飾品店は皇都の北部に密集しているのだが……治安の悪いミセリア地区の近くにあることもあって、お茶会の場でその話題が出ることはほとんどない。
にも関わらず、ミセリア地区自体に位置している魔導具店をリンテウス様が紹介された? 信じられない。本当は、なにかの間違いなのではないか。
その方の身分が高ければ高いほど、本人の振る舞いや言動などが注目される中、あのご令嬢が治安の悪い区画に近付いただけでも噂が立つというのに、わざわざそんな店をお母様に紹介する意味は? ……そんなの、皆無に等しいだろう。
「近頃、貴女は公の場に姿を見せていないでしょう? なにか重い病気でも罹ったのではないかと心配してくださっていたみたいなの。だから、リンテウス様のご病気が快方に向かわれたきっかけであるそのお店を紹介してくださって……」
確かに、リンテウス様とは少し面識がある。だが、そこまで心配されるほど仲は良かっただろうか。……いや、あの方のことだ。きっと、心からの善意でそうなさってくれたのだろう。
初めてお会いしたときのことを、今でもよく覚えている。あれほど慈悲深いお方を、わたくしは他に知らない。……けれど、それにしても。
「心を守る、だなんて……ただの魔道具店でしょう? それがどうして病状の改善に繋がるのですか?」
「リンテウス様は……その店には客の欲しいものが必ず揃っている、とおっしゃっていたわ。どうしても失くしたくなかった大切なものや、もう失ってしまったと思っていたかけがえのないものが、その店では見つかる、と」
別にわたくしは、なにかを失くしたわけではない。けれど本当に、その店にわたくしの望むものがあるとするのなら……。
「お母様、そのお店はなんという名前なのですか?」
「____ミラージュ・ドゥ・シュヴァルツ、よ。貴女の欲しいものが、その店で手に入ることを願っているわ」
これは、最後の頼みの綱だ。もう、この店に賭けるしかない。
生き延びるためには、この選択しかないのだ。
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