【第二章・第十二話】いつかの出来事
「コロクルム様はきっと、頼んだら頷いてくださるのだと思います。ですが、それは……わたくしがまだ、納得できないのです」
自身の気持ちを要約して伝えてみるも、これでは駄目だということをすぐに悟る。上手く言葉を紡ぐことのできない自分の未熟さに、思わず唇を噛み締めた。こんなの、彼からすれば支離滅裂だろう。そもそも、いつか話すと約束している。現状を、今の気持ちを説明するには、全てを伝えなければ。
「_____焦らなくても、大丈夫です」
凛、と。
思考を割くように、季節外れの鈴のような音色が響く。
顔を上げる。コロクルム様は果物を手にしたまま、わたくしを見て優しく笑っていた。焦らなくていい、と彼はもう一度こちらの目を見て訴えかける。考えすぎて熱を持った頭に、その瞳は心地がいい。
「もちろん、心配なことに変わりはないのですが……しっかりと、心が決まってから打ち明けてください。サングイスも、中途半端なことは嫌いでしょう?」
穏やかな歌でも口ずさむようなその声に、知らず知らずのうちに詰めていた息を吐く。左腕の傷は不満げに痛みを訴えてくるが、それでも肩は少し軽くなっていた。
「……はい。コロクルム様の言う通りですね」
今度こそ実態を伴った言葉で大人しく謝罪する。
雄弁な言葉など言えないわたくしのことを、彼はゆっくりと待ってくれていた。今、己の胸にあるものが、伝えるべき真っ当な彼への信頼なのか、それとも隠すべき本能的な欲求なのか。今のわたくしにとって、その分別は難しかった。
ただ、理想を並べても仕方がない。タイムリミットだってある。これは、わたくしがわたくし自身に向き合わなければならないことだった。
「……サングイスは、僕が夢を叶えるまでずっと待っていてくれました。出会ったときから、ずっと」
換気のために開けられていた窓から、冬にしては優しい気温の風が吹き抜ける。
彼はじっとわたくしを見ていた。こちらがいくら目を逸らそうが、背を向けようが、その瞳は微動だにせず、いつだってそこにある。酷く優しく囲われているような、あるいは厳しく縋られているような。ともかく、逃げることは許されない。
______ああ、けれど。
「大丈夫です。僕も、サングイスのことを待っていますから」
白い陽射し。
相変わらず穏やかに笑う彼は、やはりどうしてもわたくしの目に美しく映ってしまうのだ。




