【第二章・第十一話】驕りと甘え
胸が詰まる感覚。上ってくる罪悪感を封じ込めるように、最後の一口を飲み込んでしまう。彼は、知る由もないだろう。こうしてせっかく持ってきてくれた食べ物だって、わたくしの血肉になることはない。どれだけわたくしが休息を取ろうと、本調子に戻ることはない。
きちんと栄養にするためには、もう一度元気な姿を彼に見せるためには、わたくしから話さなければいけない。そして、その喉を赦してもらわなければいけない。
_____それに、きっと、コロクルム様なら。
「……ごめんなさい」
口をついて出た謝罪に、ハッと意識を戻す。きっと、なにを謝られているのか分からないのだろう。慌てて顔を上げれば、固まったままこちらを見ている彼が目に入った。
伝わらない言葉に意味はない。きちんと、せめて今の気持ちだけでも言葉で説明しなければ。中身も栄養も足りない頭。それでも彼の誠実さに報いるよう、ゆっくりと滲むように声を出す。
「……コロクルム様が、頼りないというようなわけでは断じてないのです」
後ろについていた左手に知らずのうちに力がこもり、傷からぞわりと痛みが走る。悟られないよう、息を吐く。頭の中では、彼がこちらを見ていた。己の喉を見せつけ、何も否定しないと、その輝きをそのままに言ってのけた彼が。
離れない、失望しない、否定しない。そう、コロクルム様はなにも否定しなかった。別にそれは、今に始まったことではない。たとえ現状を知ったとしても、きっとコロクルム様は全てを受け入れてくれるだろう。……けれど。
____そう、考えてしまっているわたくし自身が駄目なのね。
彼が頼りないわけじゃない。彼を頼りたくないわけでもない。ただ、制御できない自分が一番嫌いだった。
喉の渇きのせいか、回らない頭のせいか。それとも、もともと奥底に蔓延っていたのか。なんにせよ、コロクルム様ならきっとなんでもしてくれるだろうと、わたくしはそう思ってしまっている。それは、わたくしにとって、とても恐ろしいことだった。
血を流すことは痛い。そんなこと、ここ数日で嫌と言うほど分かっている。知っているはずなのに、彼が受け入れてくれるからと、わたくしはそれらの事実を全て理解した上で、己の欲を優先させようとしている。
自分のことすらままならないのに、どうしても自分が彼との信頼に胡座をかいているように思えて仕方がなかった。その証拠に、あろうことか夢の中でさえ、わたくしは自分にとって都合よく彼を使ってしまっている。
こんなこと、赦されるはずがない。たとえ彼が赦そうとも、他でもないわたくし自身が赦せない。本能を言い訳にして、大切な彼の喉を差し出させてしまうことが怖い。結局、長い間一人になって考えても、その結論は変わらなかった。




