【第二章・第九話】優しい看病
「どうして、わたくしが……」
なにせ、古い先祖の話だ。長い間、隔世遺伝も起きていなかった。
一度血を飲めば治まるのか、それとも永続的に摂取する必要があるのか。それならば頻度はどれくらいが適切なのか、どのくらいの量が必要なのか。
そうやら、お父様もそこまでは断定することができないらしい。
ただ、首に傷がつくこと以外、相手である彼にはなにも影響がないことは何度も説明された。飲まなければこちらの体力が削れて、いずれ死に至るのだということも。
「思わず安心してしまったけれど……状況は悪化していく一方、ということよね」
カーテンに遮られた優しい日差しに、再びうつらうつらと睡魔が忍び寄る。どうせならもう少し眠ろうと重い瞼を閉じようとした、その時。
コンコンと、控えめなノックが二回ほど部屋に響いた。ハッと閉じかけていた目を開け、気配を殺す。いや、どうしてこんなことをしているのだろう。よく考えなくとも、家族の中の誰かだという可能性が高いだろう。
程なくして小さく扉が開く音が聴こえる。どうやら、諦めきれずに中に入ってきたらしい。音を立てないようにするためか、その人はやけに丁寧に床を踏んで歩いていた。
「サングイス」
そして聞こえた小さな声に、二、三度瞬きを落とす。誘われるようにそっと上半身を起こした。
「……コロクルム様、ですか?」
急に起き上がったせいで目の前が霞む。定まらない視界のまま声を出せば、仕切りのカーテンが開いた。途端、遮られていた日差しが柔らかくわたくしへ降りかかる。
「休んでいたところ、申し訳ありません。体調はどうですか?」
軽く頭を振って顔を上げれば、ようやく見慣れた髪色が目に入った。軽く眉を寄せて小声で笑うコロクルム様に、わたくしも同じように笑ってみせる。
「特に問題はありません。……ところで、どうしてこんな場所へ?」
「ドクトリナ様からお聞きしたのです。体調を崩している、と」
少し寄ってベッドの端を空ければ、コロクルム様は少し躊躇った後、静かに隣へ腰掛けてくれた。同時に、彼が持っていたであろう大きなトレーが、ベッドスペースに置かれる。
コロクルム様は、その中からパスティーモスープが入った皿を取り出した。その澄み切った瞳をわたくしへ向け、そのままこちらに差し出してくる。
「知り合いの料理人に頼んで、いくつか作ってもらいました。もし食欲があるのなら、好きなだけ食べてくださいね。ここで食べていいと、ご家族にも許可はいただいていますので」
コロクルム様は、まるで当たり前のことかのように微笑みを浮かべている。眩しさに若干目を細めた後、その白い手からスプーンを受け取った。




