【第二章・第七話】イクェス家の血筋
お父様は言葉を選ぶようにちらりとティーカップに視線を逃し、小さく息を吐く。
「ヴァンパイアや吸血鬼と呼ばれる存在のことは、二人とも知っているだろう。あそこまでとはいかないが……俺の祖先は似たような性質を持っていた」
どうやらお父様の祖先は、その昔、二つのある特性を持っていたらしい。
一つ目は、異常に日の光に弱いこと。遺伝なのか、祖先は全員皮膚が弱かったようで、数分間日の光に当たっただけで火傷のような症状に苛まれていたのだとか。必然的に夜に活動することになり、家の中でも日光を浴びないように暮らしていたのだという。
珍しいとは思うが、あり得そうな話ではある。日焼けしやすい人はいるし、探せば日光が弱点だという人も出てくるのかもしれない。
……ただ、問題は二つ目の特性だった。
「こちらは少数だったらしいが……生きるのに、特定の誰かの血が必要な者がいた」
悟られないよう、息を詰める。相変わらず視線の合わないお父様に代わって、お母様はじっとわたくしを見つめている。
お父様によれば、祖先の中には食べたり飲んだりしているにもかかわらず、急に飢餓状態に陥る者がいたらしい。そして、それは決まって、なんらかの方法で家族以外の誰かの血が体内に入り込んだときだったという。
栄養はとっているのに飢餓状態という異常に、医者も匙を投げた。結局解決法が分からず、最初の頃は栄養失調で命を落とす者も少なくなかったらしい。だが、そんな不可解な現象にも対策はあった。
この症状に陥った何人目かが、ついに存命する方法を見つけたのだ。
_____それはつまり、己の衝動に従ったということ。
「引き金となった人物の喉元の血を摂取すれば、元通りに身体が機能するようになったらしい」
理屈はわからないが、どうやらその人の血、そのものが原動力になるわけではなく、血を摂取することで食べ物や飲み物が正常に吸収されるようになる体質だったらしい。
つまり、必要な血はほんの一口、二口の話。物語にありがちな展開のように、ひと一人分の血を飲む必要はなかった。
だから、血を飲んだからといって相手を殺すことには直結しないし、血を飲んだことによって、相手の体質が変わることもない。これまで人から目をつけられず、祖先がわたくしまで命を繋いでいることがなによりの証拠だった。
とにかく、この二つの特徴から、後々彼らは吸血鬼やヴァンパイアと呼ばれるようになったのだという。そして、その血を受け継いでいるのが、わたくし達なのだと。
まるで、自分のものではないように遠くの方で鼓動が聞こえる。口の中の渇きは、より一層酷いものになっていた。ひとしきり説明を終えて、お父様は静かに目を閉じる。不自然な沈黙の中、事情を知らないお兄様だけが不安そうに瞳を揺らしている。
『それが……それが、もし本当のことだとして、なんで今更そんなこと……』
意外にも話を受け入れる体制で、それでもお兄様は困惑に身構えるように再度口を開いた。わたくしも、同感だった。この話が事実だとしても本当に今更、もう遅い話なのだから。




