【第二章・第六話】血塗れた悪魔
それまでも、違和感は覚えていたのだ。
いつも通りに……いや、いつも以上に休息をとっているはずなのに、体力は落ちていく一方だった。おかしく思うのが普通だった。そして正直、自分がなにを欲しているのかについても、早い段階で気が付いてはいた。きっかけにも心当たりがあった。
それでも結局、わたくしは見ない振りをした。
なぜなら、認められるはずがないから。もし本当にわたくしの中にそんな欲求があるのだとしたら、どうかしている。そんなものあるはずがない、何かの間違いだと、ずっとそう思っていた。信じていたかった。
絶望感に呆けたまま、わたくしは気付けばお母様に最近の身体の変化について話していた。自分ではどこへ受診するべきか分からなかったし、もし大事になれば隠し通せないだろうと思ったからだ。
ただ、お母様は医師を呼ぶわけでもなく、なぜか深刻な顔をしてお父様を呼んだ。今思えば、わたくしの異様な食欲について、お母様はなにか気付いていたのかもしれなかった。
それからなぜか、お父様だけでなくお兄様まで呼び出され、あっという間に居間がぎこちない雰囲気に包まれてしまった。ここで四人が顔を合わせることさえ数年ぶりだというのに、家族会議なんてどれくらいぶりだっただろう。
正面には珍しく神妙な顔つきのお母様、そして相変わらず表情の変わらないお父様が座り、何やら考え込むように視線を下げていた。なんとなく、子供の頃に叱られた時の記憶が蘇ってくる。
「……それで、なんなんだよ。サングイスの話なら、俺は関係ないんだけど」
不自然な沈黙の中、最初に口を開いたのは、意外にも隣に座っていたお兄様だった。ただならぬ雰囲気を察したのか、大人しくリビングに集まってはいたものの、やはりお兄様は不満そうに横目でわたくしを見ていた。
「____うちの先祖は、ヴァンパイアだ」
それまで黙っていたお父様が、一言だけそう言った。息を呑んでお兄様と正面を見れば、目を閉じたまま俯くお父様がいた。
「「……え?」」
間抜けな声に、ティーカップから立ち上っていた湯気が揺れた。
次の言葉を待ってみるも、お父様は難しそうに眉を寄せるばかりでなにも言わない。当然、お兄様も困惑したように顔をしかめ、警戒するようにお父様を睨む。
『な……なんの話だよ、冗談だろ……?』
『これがね、本当の話みたいなのよ』
しかし、続いてため息混じりにお母様までもが口を開いた。お父様に比べてお母様はよく冗談を言う方ではあったが、明らかにいつもと空気が違う。
_____だとしても、吸血鬼だなんて……。
おそらく、お兄様も同じようなことを思ったのだろう。次の質問を見つけられないまま、なにも知らないわたくし達は自然と顔を見合わせた。




