【第二章・第二話】彼女が望むもの
「少しは落ち着いたか?」
「……ええ。その、ごめんなさい」
あの後、ピタリと話すことを止めてしまった彼女へ珈琲を淹れてやり、静まり返った店内の中、数分間を過ごした。思いの外、素直に謝罪の言葉を述べた彼女は、少し不貞腐れたような表情を浮かばている。
「では、もう一度問おうか。貴殿の望むものはなんだ?」
「……」
「はぁ……なんだ、そんなにも口にするのが恐ろしいのか? 早く話さないと店から締め出すぞ。私も暇ではないんだ」
「分かった、分かったわよ! 話せばいいんでしょ!?」
ここまできてもまだ渋る様子の彼女に痺れを切らした私は、壁に掛けられた時計へちらりと目を遣る。わざわざ深夜に店を訪ねてきた客人のためにこうして話しているというのに、いったい何様のつもりなのだろうか。
彼女の気持ちも理解できないことはないが、あまりにも自分勝手なのではないか。時間はともかく、きちんと話すべきことを話す覚悟を持ってから来てほしい。
「これが最後の機会だからな。いったい、なにが欲しい?」
「……血。コロクルム・ドクトゥスの喉元の血が欲しい」
「ふむ……皇国ウィンクルム医療騎士団所属。団長であるドクトリナ・プルデンスを敬い、若くして副団長の座に就いた異才、多くの研究に貢献してきた有能な知者、あのコロクルム・ドクトゥスのことか?」
「マスターって、本当になんでも知っているのね……というより、分かっているのなら、わたくしへ聞く必要なんてなかったじゃない!」
確かに、彼女の言う通りだ。だが、私の推測も、所詮はただの憶測。客人の意図を汲み取るのも私の役目だが、間違いのないように聞いておかなくてはならないだろう。……それにしても。
「サングイス・イクェス、貴殿の依頼は承った。数分だけ待っていろ」
「あら、そんなにすぐできるのね。……え、ちょっと待って、マスターはわたくしの願いを叶えられるの!? というより、今、わたくしの姓を言ったわよね!? 教えていないのだけど!?」
あんなにも癇癪を起こしておいて、まだ騒げるのか。子供は元気だというが、さすがに体力がありすぎではないだろうか? イクェス卿のことはこの際どうでもいいが、そんなことよりもティアの方が心配だ。一応、防音魔法は掛けているが、あの子の睡眠が妨害されるようなことがあってはならない。
「さて、材料はなににしようか」
今はとにかく、客人のために魔導具を作らなければ。




