【第一章・第五十二話】紅柘榴と桔梗
「○○○○○○○殿。一つ、頼み事を請け負ってはくれないか?」
「頼みの内容によるな。そう簡単に安請け合いは出来ない」
「それもそうだな。実は、殿下に関することなのだが……」
「ああ」
「其方を大切にしたいという殿下のお気持ちをきちんと受け止めてやってほしいのだ」
「待て。貴殿の言う殿下は、☆☆☆☆様という認識で間違いないな?」
「うむ、間違いない」
「……どうして、私が?」
「其方が言ったのだろう? この国の支柱としてではなく、☆☆☆☆様ご自身が誰かを大切にするのは決して間違ったことではない、と」
「ああ」
「だから、その対象がたとえ○○○○○○○殿であったとしても、否定せずに受け止めてやってほしい」
「……私は、たかだか数年あの御方に仕事で関わっただけの人間だ。大切にされる謂れはない」
「本当にそうなのか? 共に過ごした年月だけが、人の結びつきや想いを強くするわけではないだろう」
「◇◇◇◇◇◇◇卿。貴殿が非常に聡明で高潔な心の持ち主であることを私は知っている。だが、殿下の御心はあの方にしか分かり得ないものだ。それを都合の良いように解釈し、代弁することは、あまり賢明な判断とは言えない」
「其方がいくら詭弁を弄そうとも、我ははぐらかされないぞ」
「……殿下に、なにか余計なことでも吹き込まれたのか?」
「どうだろうな。事情は拝聴した、とだけ言っておこうか。☆☆☆☆様がなにを仰られたのか、我から明かすことはない。だが、我は……○○○○○○○殿にも☆☆☆☆様にも、幸せになってほしいだけなのだ」
「……随分と傲慢な言い草だな。神にでもなったつもりか?」
「だが、其方も☆☆☆☆様に対してそう思っていたのだろう? 誰かの幸せを願うことは、決して傲慢でも悪でもない。其方はそのことを分かっているはずだ」
「私は、自身をかなり幸せな人間だと認識しているのだがな」
「だが、この世には、まだ其方の知らない幸せや喜びがある」
「……◇◇◇◇◇◇◇卿は、それを知っていると?」
「いかにも。先日、其方に助言をもらったおかげでな」
「……」
「○○○○○○○殿」
「なんだ」
「☆☆☆☆様を愛することが……あるいは、愛されることが、そんなにも恐ろしいか?」
「……」
「だがな、この世に愛されてはならない命というものは一つとして存在しないし、愛してはならない命なんてものも一つだってない」
「……愛は裏切られるもの、信頼は踏み躙られるもの。それが、この世の理だ」
「いいや、それは違うぞ、○○○○○○○殿。どうか、恐れないでくれ。確かに、愛は時に痛みや苦しみを伴うものだ。だが、誰かを愛し、愛されることで得られる幸福も確かにあるんだ。……其方が互いの立場を言い訳にせず、素直に☆☆☆☆・✕✕✕✕✕✕✕からの賜った寵愛を受け取り、あの御方を愛することができたとき、まだ見ぬ幸福を知るだろう」
「……まるで、予言だな」
「いいや、これは我の願いだ。ただの人間である我には、願うくらいしかできないからな」
「……くだらない」
「ははっ、さあ、覚悟するがいい。なにせ、我はこの国随一の役者だからな。大切な其方らの物語を悲劇のまま終わらせるわけにはいかないのだ」
「本当に、大した騎士団長様だな。……好きにしろ」
『皇国フリューゲル遊撃騎士団長』の執務室に置かれていた録音機より。
✕✕✕✕✕✕✕皇国と******帝国による両国統合の一週間前に交わされた、皇国フリューゲル遊撃騎士団長〇〇〇〇〇〇〇・△△△△△△と皇国ルミエール魔銃騎士団長▢▢▢▢・◇◇◇◇◇◇◇の最期の会話。




