【第一章・第四十話】リースス・レーニス
「ミラージュ・ドゥ・シュヴァルツ、『心を守る魔道具店』の店主____本当に、何者なんだろうね。とても複雑な魔法を扱えるということは知っていたけど、まさかそれほどとは。ルージュも、その難しさはよく分かるだろう?」
「ああ。物に癒しの力を持たせるのはひどく難しい。一度だけの使い切りの魔道具なら存在するが、ただ持っているだけで効果を発揮するなど……治癒魔法の中でも難易度は最上位だ」
人に直接施すのではなく、物を介する。物に、半永久的な癒しの力を持たせる。それは、相当な技量とセンスがなければできない芸当なのだそうだ。
その話を聞いた第二皇子は、訳が分からないとでもいう風に軽くため息をついた。
「……とんでもない人物だな」
「だよね、僕もそう思うよ。ちなみにこのネックレス、修繕魔法も掛かってるみたい。治癒と修繕を同時に扱いながら製作しているとなると……緻密な魔力操作と尋常じゃないほどの集中力が必要になるね」
これは、『わたしとお茶会で談笑しながら魔導具製作を行っていた』ということを伝えるべきなのだろうか。いや、余計に話がややこしくなりそうな気がする。黙っておこう。
そういえば、この前、お師匠様が体調を崩されていたとき、分身体に作らせていたような……あの人形、お師匠様と酷似しているためか、あまりにも本人と見分けがつかなくて少し怖い。
「修繕魔法は本来物を直すものだよね? なんで、この魔導具……ネックレスに込める必要があるの?」
「『心を守る魔道具店』だからじゃないか? それすら、人に作用するように扱えるのだろう。もはや、心を治す魔道具店、だな」
そもそも、誰もこの話題には触れていなかったが、なぜロードライトガーネットという希少な宝石をお師匠様が持っていたのだろうか。六大魔族で三番目に強い黎鷹族と関わりを持っていたのだから、別に不思議ではないとも思うが……。
「心を守る、とはどういう意味なんだろうね。そういった魔法の掛けられた魔道具は確かに存在するけど、それは、『気持ちが安らぐ』や『気分が落ち着く』など、そういった類のものだ」
「そういえば最近、隣国のファトゥアルカヌム王国で、『リースス・レーニス』って呼ばれてる癒やしの自鳴琴が流行ってるらしいよ。誰が作ったのかも判明してないんだけど、癒やしを必要とする者のところへは必ず現れる」
ファトゥアルカヌム王国。アストノズヴォルド皇国の隣国に位置する、いわゆる神を信仰する国である。今は教会が国を治めているらしいのだが、どうやら最近は『光と生を司る女神・リリア』を崇める派閥と『闇と死を司る女神・ユリア』を崇める派閥がお互いに揉めているようだ。
かつてアストノズヴォルド皇国が別の隣国から攻められた際に、ファトゥアルカヌム王国へ皇族が避難したという話もあり、良好な関係を築いていたようなのだが……今は我が国が誇る、皇国ヴォラトゥス偵察騎士団長のフィノファール様でも潜入するのがかなり難航するほど、やや鎖国気味で、入国も厳しく制限されているらしい。
「自鳴琴……? 聞いたことのない言葉だな」
「オルゴールのことですよ、殿下。だが、その強力な癒しの力を持つものですら『心を守る』とは言われないのだろう?だというのに、あの店は『心を守る魔道具店』とまで呼ばれ、求めていたものが必ず見つかると噂されている。……大層な話だな」




