【第一章・第三十九話】薔薇柘榴石の首飾り
「話が逸れているぞ、ドクトリナ殿。フィノファール殿の問いに答えたらどうだ?」
「ああ、すまなかったね。ティア、という名前だったかな? そのお守りとやらを、少し見せてくれないかい?」
「え、えーっと……」
ルージュ様によって、話題がもとに戻されてしまった。認識阻害は、当然お師匠様が掛けたものなので、お守りなんてものはあるわけがない。さあ、どうしたものか。
_____そういえば。
「こ、これです。……どうぞ」
わたしが、わたしとしての名前を捨てたとき。お師匠様に拾われて、一緒に住むようになったとき。
お師匠様から、一つ贈られたものがある。
そのときから肌身離さず持っているのだが、もしかしたら……。
「これは……ネックレス?」
「はい。お師匠様から渡された際は、治癒魔法が込められているものだと言われたのですが……どうやら、その他にも違う効果があったみたいですね」
「フィノファール、ちょっと来てくれるかい?」
「は〜い、なになにー?」
わたし達とは少し離れた位置にいたフィノファール様は、ドクトリナ様にそう声を掛けられて、こちらへ駆け寄ってきた。そして、なにか意思疎通でもするかのようにドクトリナ様と視線を合わせ、わたしのネックレスをじっと見つめた。
「まるで、鑑定士のようですね」
フィノファール様を見つめながら小さく呟くと、その声を丁寧に拾ったドクトリナ様が、「フィノファールのご両親は宝石店を営んでいるんだ」と教えてくれた。
質が良く価値の高い宝石を安く取引するための交渉術や悪質な客を見抜くための観察眼は、フィノファール様が幼い頃から培ってきた長所なのだそうだ。確かに、スパイなどの潜入調査をする上では、そのような技術は重要になってくる。
それら全てを持ち合わせているフィノファール様は本当に、皇国ヴォラトゥス偵察騎士団を纏め上げるに相応しい人物なのだろう。
「…ウソ、本物……? っていうか、この石って……!」
「フィノファール、なにか分かったのかい?」
しばらく真剣な表情を浮かべていたフィノファール様だったが、それはだんだんと驚きを含んだ険しげな表情に変わってきている。その様子になにかあると察したドクトリナ様は、素早く声を掛けた。
「ねえ、ドクトリナ。これ……ロードライトガーネット、だよ」
「「ロードライトガーネット!?」」
途端、ドクトリナ様とルージュ様が大声で叫ぶように驚いた声を上げた。対して、第二皇子は疑問の表情を浮かべている。わたしも、そのロードライトガーネットがどんなものなのかは知らない。
「なあ、そのロードライトガーネットっていうのは、そんなにすごい宝石なのか?」
「すごいもなにも、遥か昔の時代から六大魔族の頂点である紅龍族から溢れ落ちた涙だって言われてる伝説級の宝石だよ!!! それに……」
「誰の記憶にも存在しない者___皇国フリューゲル遊撃騎士団の団長が深紅の騎士服にその宝石を身に着けていた、とも言われているんです」




