【第一章・第二十四話】第二皇子とその護衛
「アイオライト、様……?」
「ああ、その通りだ。……だが、話を逸らすな。今、誰と話していた?」
舌の先に氷を乗せたような冷たい言い方をする彼は、容赦のない鋭利な視線をわたしへ向けている。
この国___アストノズヴォルド皇国には、四人の皇子がいる。
第一皇子、サフィア・アストノズヴォルド様。
今、わたしの目の前にいる第二皇子、アイオライト・アストノズヴォルド様。
ラズリライト様の双子の兄である第三皇子、ラピスライト・アストノズヴォルド様。
その弟である第四皇子、ラズリライト・アストノズヴォルド様。
理由は定かではないが、サフィア様が民の前に姿を現さなくなった代わりに、街の視察など、通常であれば第一皇子が立つような表舞台も、全て第二皇子が出向かれるようになった。
「申し訳ございません。少々、独り言を呟いていたのです」
お師匠様は、おそらく自身にも認識阻害魔法を掛けていたのだろう。それも、わたしへ掛けた『姿を曖昧にする』ものではなく、『その存在自体を消す』といったようなものを。
なにはともあれ、お師匠様がそうしたのには、なにか理由があるはずだ。存在を悟られたくないからと魔法を掛けたのに、わたしがそれを明かすわけにもいかない。
そう思って、強い口調でわたしを問い詰める第二皇子への言葉を上手く誤魔化す。
「そうか。まあ、今日のところは見逃してやる。次からは、怪しまれるような行動は慎むように。オレも、暇なわけじゃないからな。……行くぞ」
「お待ち下さい、殿下」
どこか不満げな様子でわたしへ背を向けようとする第二皇子を、何者かが引き止めた。その声の主へ二人とも同時に振り向けば、そこには黒鳶の色を身に付けた一人の女性がいた。
「はあ……どうしたんだ、フィノファール」
考えてみれば、この国の第二皇子ともあろう御方が、一人で外を出歩けるわけがない。しかも、その護衛へ向けて呼ばれた名前には少し聞き覚えがある。
彼女は恐らく、フィノファール・フェリキタスだ。
第二皇子直属の騎士団である、皇国ヴォラトゥス偵察騎士団の団長を務める人物。団の象徴である黒鳶の衣装を身に纏っており、少しくすんだ落ち着きのある青紫色のアイオライトを胸元につけている。
それは、彼女が騎士団のトップに立つ資格がある人間であることを示した証。平民の出であるにも関わらず、幼い頃から騎士の道へ進むことを志し、本人の血の滲む努力によって、その夢を叶えてみせた、飛翔という言葉を掲げるに相応しい者である。
彼女は第二皇子の傍へ駆け寄り、その耳元へそっと口を寄せた。
「この者、どうやら……」
それから先の言葉は、わたしの耳には届かなかった。




