表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私が本当に体験した話

作者: ブンブン

 今からちょうど6年前のことだ。2017年。この年に起きた重大な事件を覚えているものはいるだろうか。

 北朝鮮がどうしたとか、アメリカの大統領がどうしたとか遠い場所の話じゃあない。

 事件と言っても、人が死んだとかそういう話ではない。

 「共謀罪」。初めてその法律が成立された年だ。いや正確に言えば「テロ等組織犯罪準備罪」だ。

 なぜ、今更になってこの法律が成立されたのか。理由は簡単だ。2020年に日本で東京オリンピックが開催される"予定"だったからである。御存知の通り2020年は新型感染症の影響でオリンピックは開催されなかった。

 共謀罪...。テロを起こす計画を立てるだけで罪に問われる法律だ。もちろん国会でも反論は多かった。国民の人権が尊重されていないと考えるものが多かったからだ。

 それは最もである。グループ内でのプライベートな会話が(たとえそれが犯罪行為と繋がっているにせよ)罪に問われるとなると反対の意見を唱えるものがいるのも納得がつくだろう。しかし、犯罪行為は未然に防がなくてはならない。ならばどうするのか。この法律は今でも議論の的になっている。

 しかし、テロの計画がバレることでテロの目的が果たされる、という事例はあるだろうか。

 私が体験したのはこんな話である。


 私はIT関係の仕事についていた。子供の頃から何かを作ったりするのが好きで、プログラミングに興味を持ったのだった。妻も恋人もいない、友人も指で数えるくらいしかいない。毎日適当に働いて月収だけはきちんと取る。それでいて充実した生活を送ることができていた。

 その日も会社で働いていた。

「よう」

 話しかけてきたのは私の知人の富岡砥部だ。

「何だい、俺は今仕事中だぞ」

「まあいいじゃないか」

 富岡とは高校生の時から関わりがある。私は彼を友人だと思ったことはないが、相手はいつでもうっとおしく話しかけてくる。

「来週さ。ここ行こうぜ。」

 富岡は手のひらサイズのパンフレットを私に放り投げた。

 そこには枯越山と書かれてあった。

 「...。聞いたことない山だな」

 「そうか?まあ俺も最近知ったんだけどさ」

 パンフレットを詳しく見ると、私の好みそうな山だった。

 私の趣味はキャンプだ。子供の頃、私の叔父に連れて行ってもらってから、すっかり虜になってしまった。キャンプ自体はただただ疲れる。普段の生活に慣れきってしまって自然で生活することがしづらくなってしまったいるからだ。だが、自然の生活になれると途端に気持ちよくなる。温泉で言うところのととのいみたいなものだ。普段の生活、つまりサウナにずっと入っていると、つらくてもいつしか暑さに染まってしまう。自然という水風呂に入ることで体に()ができる。そしてゆっくりと睡眠を取ることで最高の一日を過ごすことができるのだ。富岡ともキャンプ関係で知り合った。

 この枯越山というのはパンフレットを見る限りキャンプにちょうどよさそうな山だった。

 すぐに行こうぜ!というのを抑え

 「ま、今週は暇だしついていってやるよ」

 そういった。我ながら子供である。

 「よっしゃ。あとさ、俺の友達もあと何人か来るんだけど大丈夫?」

 これは予想外であった。

 キャンプには二人で行くのすら少し嫌なのだ。

 キャンプというのは私にとって、日常の喧騒から逃れるためのルーティーンである。2人以上で来ると、喧騒というのは続いてしまう。キャンプの意味が全くなくなる。だがしかし、久しぶりにキャンプに行きたい気持ちではあった。

 「いいよ。いつにする?」

 「今週の日曜日な」

 結局、キャンプには私を含めて6人来ることになった。正直途中で逃げるつもりだった。

 というのも富岡の友人というのがどいつも一癖あるやつらだったからだ。ヘビースモーカー、入れ墨をしてるやつ、スマホ見てずっとニヤニヤしてるやつ。その中でも甥那繁蘭という男が印象的だった。

 まあ名前からして印象に残るのだが、その男がずっと電車を歩き回って、奇声を発しているのだ。

 幸い人がいない車両だったので問題は起こらなかったのだがそういう問題ではない。

 「おい富岡。あの人は大丈夫なのか?」

 俺は自分の頭を指さしていった

 「全然大丈夫。あいつはあれでいつも通りだから」

 どんないつも通りだよ、と突っ込みそうになったが不意に甥那がこっちを向いたので言葉を飲み込んだ。


 外から見える景色は田んぼ田んぼ田んぼ。他に何もありゃしない。山なんて全く見えない。

 しかし、私はこういう景色が好きだ。何度も言うように私は旅やキャンプを日常の喧騒から心を取り戻すためのルーティーンとして使っている。なので、こういった何もない風景というのは逆に嬉しい

 そんなことを思っていると。

ジョロロロロロ

 水の音がした。

 奇怪である。なぜなら電車はいままさに()()()()()()()()を走っているからである。

 海も川も湖も水と聞いて連想できるようなものが周りにない。中の人間が発した音でないことは確実だった。なぜなら、音が常に()()()()()()()()からである。

 「おい...!富岡?」

 「なんだよ。うるさいぞ増崎」

 富岡は寝ていたらしく目が半開きだった。

 「なんかさっきから変な音がしないか?」

 「音?」

 聞こえていないのか、耳を済ませるようなポーズをして、

 「聞こえねえよ。幻聴じゃないのか?」

 「は?」

 それはおかしい。なぜなら今もその音は鳴り響いているからである。常に、()()()()

 「お前眠いんだろ。つくのにあと1,2時間位かかるから寝とけよ」

 「そう...だな」

 どうも納得がいかなかったが、富岡の言う通り少し寝ることにした。


 その時見た夢の話だ。何故かくっきりと覚えている。

 ジョロロロロロという水の音が常に鳴り響いている。目を開けてみるとそこは山だ。私は山に座っている。ずっとそのままでいるのはどうも落ち着かないから私は向こう側の山に視線を移した。

 最初はその山に虫がついているのかと思った。しかしその虫は無数の人間だった。

 よく見てみるとみんな顔がない。しかもジョロロロという音はその人間たちが発していることに気づいた。

 しかし音はずっと()()()()するのだ。ならば自分が見ているものは何だ。

 よく考えると私は何も見ていないことに気づいた。私はただ()()()()()()()

 自分の顔が大きく映し出された頃にやっと目が覚めた。もうあと2駅で到着するらしい。甥那も席で大人しくしていた。

 「やっとおきたな。お前寝言うるさかったぞ」

 「悪いな。生まれつきなんだ」

 「寝言が生まれつきとかあんのかよ」

 気づけばジョロロロという水の音はしなくなった。


 枯越山に到着した。

 入口の地図をメンバーで確認した。

 メンバーの一人可由が地図をよく見て、

 「想像と違うね。パンフレットでみたよりも木が少ないし、昔のパンフレットだったのかな?」

 といった。 

 全くその通りだった。私がパンフレットから見た私好みの雰囲気というのはほぼ消えてしまっていた。

 「おいどういうことだ富岡」

 「どういうことだろうね」 

 富岡は少し焦りながら言った。  

 まあ、私としてはキャンプができればいいのだ。別に雰囲気はそこまで木にしていない。

 「おい待てよ富岡。俺はゴルフがしたくてここに来たんだけど」

 そういったのは最年長のメンバーの千秋さんだった。スマホを見ながらニヤニヤしてたやつだ。

 ん?

 まてよ。あのパンフレットにゴルフがあるなんてかいてあったか?

 「千秋さん。ここってゴルフがあるんですか?私がもらったパンフレットにはかいてありませんでしたよ」

 「違う違う。こいつがゴルフができるよって言って誘ってきたんだ。」

 富岡は、

 「ありますあります。まあ今日は登山をしてキャンプしてバーベキューでも食いましょう」

 そう言った。妙に白々しかった。

 富岡の提案通り、私達は3時間ほど登山をした。ここまで歩くなら最初から言ってほしかった。

 夜はバーベキューを食った。私は不安で肉が喉を通らなかった。来てからというもの不可解なことがたくさん起きている。

 あまり深く考えようとすると、頭が痛くなる。脳の出来があんまり良くないことをこの日ばかりは恨んだ。

 その夜、寝袋から見た星の景色がやけにきれいだったことを覚えている。


 またも夢を見た。この夢は記憶が曖昧だ。

 私は 山に転がっている。10人20人いや、100人もの人とまるで押し競饅頭でもしているのかのように一緒に転がっていた。

 いきなりジョロロロロという音が聞こえた。音がした方を見ると男がいた。

 私だ。私がこちら側に手を伸ばしている。

 ジョロロ

 ジョロロ

 だめだ。

 おわる

 そう思った瞬間目が冷めた。

 夜だった。

 

 ガサッ

 近くでそんな音がした気がした。

 周りを見ると、富岡がいなかった。

 富岡が散歩でもしているのだろうか。私は様子を見に寝袋から出て音のした方に歩き続けた。

 「明日だ」

 低い男の声がした。

 とっさに息を潜めて、会話を聞こうと思った。

 今思えばあのときに逃げておけばよかったかもしれない。

 「私達の母を取り戻す。」

 見てみると声を発しているのは、富岡だった。

 声が出そうになったが我慢した。落ち着いて状況を確認した。

 「この場所を拠点として世界に革命を起こす」

 え。言葉すら出てこなかった。

 よく見ると、富岡の周りに10,いや20人ほど人がいた。

 私はしばらく彼らの動向を見守ることにした。

 「私達は国家に母を奪われた。この地を見よ!ここはかつて山だった。木がたくさん生い茂っていた。私の家もあった。しかし、全て奪われた。黙ってみている訳にはいかない。人質を使って国家に思い知らせてやる」

 人質。ひとじち。私だ。

 直ぐに警察に通報しなくては。

 気づいたら私は走って逃げ出していた。幸い気づかれてはいなかったようだが、いつ()()()()()彼らが来るか不安でしょうがなかった。

 山を降りて直ぐに警察に連絡した。

 私は気づいた。ジョロロロという音の正体。さっきから見ていた夢の意味を。

 警察が来た頃私は、なんと言おうか迷った。

 なぜならその頃はまだ共謀罪は...適用されていなかったからだ。

_________________________________________________

 「さっきからこいつ意味わからないっすよ。共謀罪とかなんだとか」

 「そもそも山っていうのは何だ?昔の言葉なのか」

 つい昨日逮捕された男、増崎照の取り調べは難航していた。

 なにもないところに一人で座り込んで奇声を上げていたところを、近所の住民に通報されたらしい

 「ていうか2017年とかもう二世紀も昔じゃないですか。狂ってるんじゃないですか?」

 「そういう事を軽はずみに言うのは簡単に刑に当たるから気をつけろ。でも聞いたことがあるぞ。共謀罪...。おい武田。2017年の法律について一応調べておけ。2017年に起きた事件もだ」

 「うわーめんどくさ」

 「つべこべ言わずにやるんだ」

 「わかりましたよ。()()()()

 富岡砥部は通常業務をこなすために自室に戻っていった。

 (富岡先輩も年取ったなあ...)

 昔だったらこういう事件ほど自分から前に出て調査していたのに。

 武田は富岡に言われたことの他に増崎の発した奇声について気になった。

 座り込みながらずっと、

 俺の後ろには母がいるんだ、俺の前には母がいるんだ、

 見てくれよ、誰か見てくれよ

 と叫んでいたらしい。

今回は好きに書いてみました。伏線回収とかめんどっちい!

でも一応考えれば答えは出るようにしてあります。考えてみてください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ