義姉は隠し事が多い
翌日から、座り心地のよい椅子をマジックバックに詰め込んで、私が展開した幻影魔法の裏でゆったりと座って王子のダンジョン攻略を観戦することにした。防音魔法もかけたからおしゃべりも自由だ。
王子たちがのらりくらりダンジョンをめぐっている間、ミシェルを独占できるので、一緒に過ごせる時間がこれまでよりも長くなったし、彼女を膝の上に座らせることで乗馬の時のようにぬくもりを感じる距離でまったり出来て大満足だ。
眠りこけてしまったミシェルを時を忘れてただ眺めているのも楽しい。
しかし、空の宝箱に憤慨する聖女に気付いて、代わりの宝箱を設置しようと離れていってしまうのがイヤなので、今回は起こしてやることにする。
「ミシェル。聖女がラスボスと戦っているよ」
「え? もう?」
「君が寝ていたから早く感じたかもしれないけれど、結構経ってるよ。座り心地は快適かな?」
ミシェルは真っ赤になってしまった。
かわいい。
幻影魔法は公爵家のお家芸だ。魔力コスパの良い精神魔法のように幻覚を見せるのではなく、幻影を設置するタイプで、膨大な魔力が必要になる。
ミシェルはこういうのはあまり得意じゃないから、物陰に隠れていたんだろうが、魔力を贅沢に使った幻影魔法の裏で、ふかふかチェアにくつろいで高みから見物する方が公爵家っぽい。
そんなことを言ってみたら……
「公爵家っぽいと言うより、愛妾を膝に抱えて高笑いする魔王みたいよ?」
ミシェルの呆れ顔も、かわいい。
魔王に愛されてるからそこに座らされていることを理解してるのかな?
「愛妾じゃなくて、愛妻にしようよ、そこは」
高笑いじゃないけど、爆笑したら、ミシェルが何故か固まってた。
かわいい。
キスしていいか?
「あ、大ボスを倒したわ。今回トドメを指したのは王子ね」
チッ。間が悪いやつだ。
予め準備した王子のグッズを宝箱に転送している。
「私のグッズもある?」
「ええ、あるわ。サファイア風の耳飾りよ。あなたの髪色ね」
「それだけ?」
生徒会室で見せびらかしていた王子グッズは何種類かあったように思う。
「ええ。これだけ。あなたはまだ何も報酬が出ることをしていないから、最初の一つが無くなっていないもの」
関わりたくないから、生徒会室以外、行動を共にしていないのでね。
「王子グッズは何があるの?」
「王子は、ピアス、チョーカー、アンクレット、で、今回はリングだから、次はティアラね」
ノリノリだ。
性格が少し明るくなったような気がする。
これも最近の活動の影響だろうか?
「ミシェルは、欲しくないの? 王子グッズ」
「愚問ね」
欲しいに決まっているじゃない? の「愚問ね」なのか、欲しかったら他人にあげないわよ! の「愚問ね」なのかが分からずモヤっとする。
先日、寝ぼけて「大好きよ、ベネディクト」って言ってたから、欲しいわけないじゃない? の「愚問ね」だと思うことにしよう。
うん。そうしよう。
ティアラは、やっぱりエメラルド風かしら? などと言いながら次のグッズについて思案している。
「そういう宝石類の費用は誰が出してるの?」
「魔素結晶部の科研費よ。あっ」
まそけっしょうぶ?
また変なのが出てきた。
しまった。って顔をしてる。
口を滑らせちゃった~~っと青ざめているあたり、ホントに言っちゃダメなやつなんだろう。
沢山秘密を持たれると、ミシェルと王子の婚約が無くなっても、彼女に求婚する前にどこかに行ってしまいそうで、不安になる。
ダジマットの王子あたりから横やりが入ってかっさらわれるのではないか……
「あのね、ベネディクト、魔粗結晶部は、秘密組織で、構成員はわたくしと幽玄だけなの。お願いだから、聞かなかったことにして」
「幽玄だけか?」
「幽玄だけよ」
「活動拠点を確認したい」
ダジマットの王子が足を運んでいたスノードニア修道院が脳裏をよぎった。
念のため確認しておかねばならないだろう。
「活動拠点は、カーディフ王宮の王子妃宮なの。だから、男性を連れていくことはできないわ」
王子妃宮か。
王子はミシェルに関心がないし、そこに籠る分には安心だ。
ことミシェルに関しては、私の勘は当てにならない。
彼女が初対面の男に微笑みかけていた事が深層心理で大きな傷になっているのかもしれない。と言っても、実の兄だったんだが……
嫉妬というのは、正常な判断をゆがめるものだな。
気をつけないと。
「王子妃宮なら仕方ないな。それじゃ、そろそろ、家に帰りますか、お姫様」
一瞬だけギュッと抱きしめた後、ミシェルをお姫様抱っこで、ダンジョンの入口へ戻り、学園の旧校舎という名の魔王城を施錠して帰宅した。