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悪役令嬢の試練は順調です

 ごきげんよう。

 ミシェルです。


 ネコとご両親は、あれから1ヶ月ほど公爵邸に滞在して、魔族領観光を楽しまれた後、ケットシーの里にお帰りになりました。


 ネコは、ベネディクトから離れたがらなくてギャン泣きでしたわ。

 わたくしもベネディクトから離れがたい気持ちに深く共感してしまって、ネコを見送りながら泣いてしまいましたわ。


 わたくしも試練が終われば、修道院行きです。

 わたくしが公爵邸を離れるとき、ネコにしたように優しく頭を撫でて額にキスをくれるでしょうか?


 今のうちにベネディクトを堪能できるだけ、堪能しつくしておかねばなりませんわね。



 そういえば、ネコを学園から公爵邸へ連れ帰った日、ベネディクトとわたくしたちが去った後に、聖女が噴水に落ちたそうですの。


 引き上げたのは王子だったそうで、「伝承研究会」のメンバーが王子カラーの聖女のお召替えを渡してくれたそうですわ。


 聖女はせっかちですわね?

 あと数日待ってくだされば、悪役令嬢であるわたくしが責任もって突き落としましたものを。



 「伝承研究会」というのは、学園のクラブの一つです。 


 この「部活動」という概念も聖女を迎えるにあたって学園に取り入れました。

 学生だけで集まって、趣味を高め合う活動だそうです。


 わたくしは「伝承研究会」の会長ですの。

 聖女伝承を再現するための活動拠点として、他のメンバーと連携がしやすくなり、とても助かっています。


 各国からの留学生もそれぞれの国の聖女伝説を共有して下さって、イベント盛りだくさんになって誇らしく思いますわ。


 この活動を通して仲間もたくさんできましたのよ。

 共に困難を潜り抜けた仲間との一体感って、素晴らしいものですわ!


 ただ、最近は、わたくしが裏方で動いている時にベネディクトに捕まって公爵邸に回収されることが増えてきました。毎回大人しく生徒会室にポイされてくれれば良いのですが、全戦全勝はムリのようですわ。


 毎日忙しく、くたくたになるまで奔走しているわたくしのことを知ってか知らずか、ベネディクトが帰りの馬車の中で肩を貸してくれるようになりました。


 スノードニアから戻った後は、元の希薄な関係に戻ってしまうと思っていただけに、嬉しい誤算でしたわ。


 大抵は寝たフリでベネディクトを堪能しているのですが、たまに本気で眠ってしまって、起きたらベッドの上ってこともありますの。

 ベネディクトが運んでくれるらしいのですが、ヨダレなどが出ていなかったか、ちょっと心配になりますわ。



 それから、伝承研究会のメンバーのおかげで、わたくしが幽玄と2年前から進めていた魔粗結晶の研究を再開できましたの。

 

 幽玄は、ダジマットのアレックスお兄様の妃で、当代悪役令嬢の補佐として2年前にカーディフ国に派遣されて、王立学園に通っています。


 本当は3才年上なのですが、童顔ですし、どうせローブで全身隠していますので、問題ありませんわね。


 彼女はおじい様からの隔世遺伝の特殊体質で、魔素を魔素結晶として放出できますの。


 おじい様の魔粗結晶はふんわりゴールドな結晶で集めて固めると魔素レーションとして食べることもできたらしいのですが、幽玄の魔素結晶はもっとカッチリしていてダイヤモンドっぽい硬質な結晶になり、食べられません。


 また結合が固いゆえに放出するときに魔素結晶の振動エネルギー準位に合致する外的刺激を加えて結合を緩める必要があります。この振動エネルギー準位に合致するのが、アレックスお兄様の魔力らしいのです。


 3才まで魔術が発動できない幽玄のご両親が神聖国でスーパーフライング水盆チートを使って、アレックスお兄様を発見し、お兄様の協力で幽玄は魔術を発動できるようになったそうですわ。

 それで、ダジマットでお兄様と一緒に育って、実は既にご結婚なさっていますの。


 いつも幽玄からアレックスお兄様のお話を伺っていたので、スノードニアで初めてお会いした時も、他人のような気がしませんでしたわ。


 ん?

 お兄様は、他人ではありませんでした。

 血のつながりが、ありましたわ。

 ほほほ。


 兎も角も、わたくしの魔力もアレックスお兄様の魔力に近いので、幽玄が魔素結晶を放出する手助けをすることができます。


 昨年までは、学園の帰りにカーディフ宮殿の王子妃宮にある研究室に寄って、幽玄が放出する結晶にわたくしの得意な精神魔法を付加する実験を行っておりましたが、最近忙しくて、進められないでおりましたの。


 わたくしも幽玄も転移が使えますから、学園から直接転移して、終わったら転移で戻ってベネディクトを生徒会室へ迎えに行くのですが……


 あぁ……


 流石に今日は、魔力を使いすぎて、立ち眩みを起こしてへたり込んでしまいましたわ。

 どうしましょう?


 あら、親切な方が、椅子を用意してくれました。

 どうもありがとう。


 ん? 人が増えてきましたわ。

 そんなに騒ぐほどのことではなくてよ。

 

 え? ベネディクト??

 やだ、やめて、子供みたいに抱っこするなんて、恥ずかしいわ。



「魔力が枯渇したのかな? 血色は良いようだね?」


 ベネディクトがわたくしを抱っこしていない方の手でわたくしの耳をふにふにしています。


「血色が良いのではなくて、恥ずかしくて赤面しているのですわ。おろしてください」


「抱っこされて恥ずかしいなら、立ち眩みを起こすほど魔力を使わないのが一番だよ。ねぇ?」


 ベネディクトがわらわらと集まった周囲の生徒に同意を求めています。

 皆さんもうんうん頷いて同意しないで?


「ベネディクト、本当に恥ずかしいのよ。抱っこの仕方がネコと同じじゃない?」


「ミシェルは、中身がネコと一緒じゃないですか? 構っていないとあちこち動き回るし、抱っこされてても腕の中で動くし」


 抱きづらいから大人しくして欲しいですよねぇ?っと、再び周囲の生徒に同意を求めています。

 まぁ、皆さん、何故ベネディクトに尊敬の眼差しを向けているんですの?


「わたくしは、所構わずヘソ天で眠ったりしないわ」


「っはは。割と所構わず寝てますけどね。ネコと違うというなら、ちゃんと首の後ろに手をまわして捕まってくださいよ」


 馬上で寝てしまったこと、お忘れですか?っと、わたくしの耳元で小さく囁きます。


 きゃ~。

 確かにそんなことがありました。


 わたくしは恥ずかしすぎてベネディクトの首元に顔をうずめてプルプル震えておりましたら、ベネディクトったら「よしよし」などと言いながら、背中をポンポン叩いてきます。


 完全に子供扱いですわ。

 泣きそうです。


 今日はもう連れて帰ってもいいですね?っと、周囲の生徒に確認しています。

 やだ、皆さん、何故ベネディクトに深々と頭を下げてらっしゃるの?


 確かに、平身低頭したくなる麗しさですけれども。


 ベネディクトはわたくしを抱っこしたまま流れるように馬車に乗り込み、わたくしを膝の上に乗せてしまいました。


 何故そんなに手慣れているのですか?

 ほかの女性にもこんなことをしているのですか?


 やだ、いま、それどころじゃありませんわ。


「ベネディクト、運んでくれてありがとう。でももう大丈夫よ。重いでしょう? 降りるわ」


 わたくしが慌てて降りようとすると、がしっと腕を絞めて、あきれ顔を向けます。


「どうせ馬車の中で寝てしまうのですから、部屋まで運ぶことを考えたらこのままの方が楽です」


 そうでした。そうなのでした。


「あ、あの、いつも運んでくれてありがとう」


 それを聞いたベネディクトが、柔らかい笑みを浮かべました!


 きゃ~。

 かっこいい!

 ベネディクトスマイル!!


 どうしましょう。

 なんてかっこいいの!


 もう世界の語彙は、かっこいいの一つだけで十分なのではないでしょうか?

 

 わたくし、今度こそ本当に倒れそうです。

 くらくらします。


「どういたしまして。ミシェルは魔力枯渇を起こしているから、私の魔力を少し分けてあげるよ。もうちょっと上を向いて」


 きゃ~~~

 ベネディクトの顔が、顔が近づいてきます。

 そして彼の唇がわたくしの鼻先を上に抜けて……

 上に?

 いや~ん。わたくし何を期待したんでしょう?

 おでこでした。

 おでこです。

 

 はぅん。おでこに触れた唇から彼の魔力がわたくしに注がれます。

 最初はゾクゾクとして、思わず彼の襟元を握り締めてしまいました。

 彼はわたくしの手を襟から剥して、代わりに彼の手を握らせます。

 ええ。しわになったらいけませんものね。

 ごめんなさい。


 ネコにも謝らなければ。

 ごめんなさい。

 わたくし抜け駆けして、ベネディクトの魔力をもらっちゃいましたわ……


 徐々にポカポカとして、夢見心地になってきました。


「あ~。おネムだね? そのまま寝ちゃっていいよ」


 ぐすっ。ベネディクトったら、いつからそんなに子供扱いするようになったのかしら……

 

 くやしいけれど、だいすきよ。ベネディクト……


「おやすみ。ミシェル。私も大好きだよ」


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