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義姉を「最愛」と公言し始めてもいいか?

 ついに、聖女が馬脚を現した。

 しかも、ダジマットの姫の極刑を予告するとは、自殺行為だな。

 私が直接手を下さずとも、誰かが処理してくれるだろう。


「ねぇ、ベネディクト。わたくしも聖女を王家の保護下に移すのは良いことだと思いますのよ。でも、もう少し時間をかけて民に受け入れられるような実績を積んでからでもいいと思うの」


 ミシェルが何やら甘いことを言おうとしている。

 やはり聖女初の王妃の路線で進めたいのか……


 そういうお人好しなところもかわいいんだが、線引きは必要だ。

 こちらに牙を剥くなら、釘を指さねばなるまい。


「ダメだよ。ミシェル。恩をあだで返すような存在に情けをかけてはいけない」


「わたくしも、恐らくカーディフ国王陛下も、聖女の異世界の記憶を聞いてみたいの。対話が可能ならね? その第一歩として、魔法国側の聖女伝承を知ってもらうのは、どうかしら?」


 そのくらいならまぁ、義父上が戻られるまでの時間つぶしになるだろう。

 執事に指示を出して、子供向けの聖女物語を聖女に渡した。



 子供向けの物語をかいつまんで説明すると……


 原初、神は人族のために定期的に聖女を遣わした。


 聖女は聖魔法と称して人族に魅了魔法を掛け、戦うことを知らない魔族を虐殺させた。

 特に神聖領は、何度も絶滅の危機に瀕した。


 その頃、聖女に対抗できるのは、ダジマットの王族だけだったので、聖女に攻め入られた魔族の領主たちは、ダジマットの姫に参戦を求め、また、一族の絶滅を逃れるため、子供たちをダジマットの王子に預けるようになった。



 人族の初代皇帝セントリアは、殺戮を好み人族を利用する聖女を嫌い、これを誅伐した。


 このことでセントリアは魔族に認められ、輝きの森に領土を得て、セントリア帝国を起こした。

 以降、人族と魔族の間に戦いは起きなくなったし、帝国に聖女が生まれることがなくなった。


 聖女は、帝国に生まれることはなくなったが、魔族の領土に生まれるようになった。


 ダジマット王は、被害を小さく収めるため、魔族領を分割し、それぞれの領主を魔法国の王とした。

 魔族をけしかけても命の奪い合いをしたがらないことを知っている聖女は、その聖魔法で魔族の王子たちを篭絡することで、指揮系統を混乱させ魔法国を滅ぼすようになった。


 最初に聖女に狙われたのはブライト王国だった。

 壊滅の危機に立たされれた時、ダジマットの姫が派遣され聖女を無力化した。

 無力化された聖女は、聖女に根強い恨みを持つ神聖国へ送られ、初代「混沌」の管理下に置かれた。

 初代「混沌」は、聖女の出現を検知できる「水盆」と交換に、聖女を神へ引き渡した。


 以降、魔族領域に聖女が出現すると、神聖国は聖女の出現をホスト国の王に伝えるようになった。

 いつしか魔族たちは、神聖国王を皇王聖下とあがめるようになった。


 そして自国に聖女の出現を伝えられた王たちは、ダジマット王より姫を賜って聖女を無力化するようになった。


 それから今に至るまで、ダジマットの姫は、派遣された国を必ずよく守護し、魔族に平穏を齎している。



「わかるかな? 魔法国において、聖女は天敵なんだよ。ダジマットの姫であるミシェルの庇護下から離れれば、君、魔族たちに何をされるか分からないよ?」


 聖女は、先ほどの威勢の良い表情が抜け、青ざめていることから、少しは状況が理解できたんだろう。


「つまりこの世界では『ざまぁ』が成功し続けているってこと?」


「君の言う『ざまぁ』がどんなものか知らないけど、大人しく王子の婚約者に収まって、王家の庇護下に置いてもらったほうがいいんじゃないかな?」


 これで、聖女が王子を好いている、好いていないに関わらず、ミシェルの後釜の婚約者になる気になったかな?


 ついでに、もう一点、念押ししておくか?


「それからね、元々学園には『生徒会』なんてものはなかったんだよ。あれは、ミシェルが君のためにつくった保護シェルターだからね。ダジマットの姫の指揮の下、王子、宰相の嫡男、騎士団長の次男、魔術師団のエース、そして公爵家の嫡男を護衛につけてまで『魔族の天敵』を保護しているんだよ。君が『私のミシェル』に牙を剥いたから、私はもうあの部屋には行かないけれど、君はあそこに籠っていた方がいいだろうね」


 これでやたらと生徒会のメンバーと市井に出たがって、ミシェルを困らせることがなくなるとよいのだが……


 さて、あとは、我が最愛がダジマットに連れ帰られないように、さっさと結婚するだけだ。

 我ながらいい感じに話を進められた気がするよ。


 ジャン=リュックは、聖女を押し付けられて絶望するかもしれないけど、ミシェルを大切にしていなかったからね、私が彼に遠慮する必要はないだろう?


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