米食麦の恋愛計画
「いっけなーい。遅刻遅刻」
私、米食麦16歳高校一年生。遅刻しないため絶賛爆走中。
しかしこれは全て私の計画通り。というのも私は敢えて遅刻ギリギリで家から出たのである。何故そんなことをしたのか、それはイケメン彼氏を手に入れるために他ならない。しかしそれだけでは全国80億人の有象無象の凡愚にはおよそ理解することすらかなわないであろう。
噛み砕いてわかりやすく説明するのも天才の務めである。難解な理論を晦渋な文章で説明してもそれは真の天才ではないのだから。皆様は食パンダッシュをご存じだろうか?
食パンを咥えた遅刻寸前の少女がイケメンとぶつかるという、最早手垢に塗れたあれである。もちろんこれはフィクションの世界だから起こり得ることで、現実では遅刻寸前にわざわざ食パンを咥えて走るうら若き少女など偶然存在することはあり得ない。もうわかっただろうか。私はその事象を人為的に起こしているのである。よくよく反芻してみると、あの一場面においておかしいのは女側だけであり、男性は至って平凡で事足りるのだ。つまり少女(今回で言う私)が能動的に食パンを咥えて遅刻しかけることで出会いは生まれるのである。この結論に冴えわたった脳(二徹目)で行き着いた私は計画を実行しているわけである。
あとは走るだけ。それでイケメンと恋ができる。
と、取ってもいないタヌキで革製品を大量生産していた私であったが、異変に気付いた。周囲に並走する食パン少女がいるのだ。それも一人や二人といったちゃちな人数ではない。およそ両手いや足の指を使っても数えきれない大群が食パンを咥えて走っている。しかしこれでへこたれる私ではなかった。その理論を立ち上げただけで凡人にしては頑張った方であるが私の方が一枚も二枚も上手であった。天才とは100%の才能だ。雑魚は精々努力という悪あがきをするがよい。
私はカバンから秘密兵器を取り出した。そう、フランスパンである。この圧倒的なリーチで他よりも早くイケメンとぶつかれるという寸法である。
私の思惑は完璧であった。誰よりもリーチのある私は他の追随を許さずイケメンとぶつかることが出来た。
「キャッ」
完璧だ。私は勝利の余韻を味わいゆっくりと目を開ける。
そこには倒れた男性の姿があった。口からは血が出ている。
誤算だった。フランスパンの衝撃に人間は耐えきることが出来なかったのだ。
ここで私の計画は幕を閉じたのだった。