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死刑と私刑

 人殺しは大罪である。

 実刑うんぬんというのは当然のこと、良心の呵責として人の心が許さない。


「そろそろ決心はついたかしらぁ?」

「すぐには無理よ……ていうか一生つきそうにないかも……」


 ラヴァーソウルの言う通り、確かに恋愛は譲り合うものではないかもしれない。

 しかし言い分を理解できたからといって、実行できるかは別である。

 生まれてこの方、二十五年の歳月が人殺しを全力で拒絶している。


「一生そのままじゃ困っちゃぁう。100%の経歴に傷が付いちゃうじゃない」

「だけど……どうやってやれっていうのよ」

「うーん、えーと、ほらぁ! ナイフでぷすっと刺せば一発かもぉ!」

「それが難しいんだよ! 第一に上手く殺せたとしてもよ? 直後に江恋と付き合えば、警察に怪しまれるのは私じゃない!」

「その辺りは大丈夫よぉ。証拠は跡形もなく焼き払ってあげるわぁ。恨む魂だって残さないのだからぁ、安心して殺せばいいわよぉ」


 眉唾だと言い捨てたいが、神のラヴァーソウルならそれができるはず。

 未だこの世界では未知の方法で人間を抹消できることは間違いない。だがそれ以前の話――


「だったら、はじめからラヴァーソウルが殺してくれればいいじゃないの」

「やりがいって大事でしょぉ? だから駄目ぇ。愛美も愛美で頑張ってぇ」


 同意のグーを突き出すラヴァーソウルだが、拳を突き合わせるのはお断りだ。どうでもいい命は焼き払う癖に、こういうところはかえって拘る。

 とにもかくにも、これで殺すこと自体は犯罪ではなくなった。しかし大事な部分は当初から変わらず、問題は私の決意の方だ。

 殺人というのは犯罪だからしてはいけないのではない。殺してはいけないからこそ犯罪とされるのだ。

 裁かれようが裁かれまいが、殺人はしてはいけないこと。人の法以前に人の魂が殺人を禁忌としている。


 唯一許される殺人があるとすれば、それは死刑制度だ。

 死刑とは国による殺人行為で、同時に合法である。これも死刑自体が合法という以前の話、受刑者が殺すに値するから許されている。

 つまり殺人イコール全てが許されないのではなく、殺すには正当性が必要だということ。そして正当性さえあれば、私の魂も江恋の妻を殺すに許す。

 法の外の犯行で神の許しも得ているのなら、あとは殺すに足るだけの、私の魂が認めるべき妻の悪事がありさえすればいいのだが……


「ちょっと待て……あの時たしか江恋は……」


 それは江恋と昼食を共にした時のこと。

 その時は江恋が既婚者という事実に面食らってしまっていたが、江恋の言葉の中に、妻を殺害するに足る重要な話をしていたような……


”私の妻の趣味なんだ。毎日弁当を作るんだがね、今日は寝坊してしまったんだよ”


 旦那の大事な昼食を、寝坊したが為に作れなかった。

 妻として許されざる失敗で、愛すべき旦那を軽んじる罪深き行い。


「ねぇ、ラヴァーソウル。愛する者への努力を怠る奴ってどう思う?」

「死んで当然でしょうねぇぇぇ」


 これで決まった。江恋の妻は寝坊した罪で死刑だ。

 旦那を蔑ろにしたのだから、死んで私と代わるべきだ。

 罪人を裁くのなら罪ではなく、私の心は穢れはしない。

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