バーベキュー
その後の二、三十分の間、男たちはつまらないことをしきりに話した。好きな食べ物だとか趣味だとか、乗じて己のことも話しはじめる始末。
エリートでもない愚民の生活なんて欠片も興味が湧かないが、彼らも彼らで好きで話をしている訳ではないだろう。
あくまでラヴァーソウルに投与した、薬の効果が出るまでの時間稼ぎにすぎない。
「そろそろじゃね」
「そろそろだな」
顔を見合わせて頷く男たちは、揃ってラヴァーソウルに目を向けるが――
「何かしらぁん?」
「おかしいな……」
「もう効いてきてもいいはずだけど……」
様子の変わらぬラヴァーソウルを目にした二人は、薬の効き目を疑いはじめた。
私の目にも変化はないように見えるが、神だから通用しないのか? 確かにそれもあるかもしれない。
しかしなによりラヴァーソウルは――元から既にイッている。
恋愛依存体質、愛情中毒者の女神は薬物程度で現れる乱れ方をしていなかった。
「もう限界よぉぉぉ。帰らせてもらうわぁ」
「ちょっと待てって!」
「逃がすかよ!」
立ち上がる男たちは腕を広げ、出口までの行く手を阻む。
「おいおい、薬を使ったんだぜ。タダで帰れる訳ねぇだろうが!」
「金を払うか体を売るか、どちらか決めてもらわねぇとなぁ!」
「……嘘吐き」
怒り混じりの大声に比べて、とても小さな呟きだった。
「嘘は駄目って言ったのに……飲めば逃がしてくれると言ったのに……神には真実を打ち明けるべきで、嘘を吐くなんておこがましい」
「神? 神って言ったのか?」
「やっぱこいつ、既にイッちゃってるんじゃね?」
いや、このラヴァーソウルの言動に限ってはまともであり、何もおかしいところはない。
けれど一般人からしてみれば、最も異常な発言だったに違いない。
「もう構わねぇよ」
「やっちまおうぜ」
痺れを切らした男の一人がラヴァーソウルの柔肌に手を伸ばす。
押し倒して犯してしまおうと、華奢な体に手を寄せた。
「熱っ!」
「どうしたよ?」
「いや……なんかこいつの体が熱を帯びてて……」
白すぎる肌に冷たく輝く銀の髪。一見すれば冷ややかなラヴァーソウルの容姿は、今は高温に滾っている。
あまりの熱量に光すら屈折し、妖しげな肢体は不気味に揺れている。
「嘘吐きはぁ……燃やしちゃお……」
指先を弾くラヴァーソウルだが、燃えるような現象は見てとれない。
私も含めて、きっと男たちの頭にも疑問符が浮かんだだろう。
だがそれも、己の額に浮かぶ汗に気付くまではの話だが。
「なんか妙に熱くね?」
「俺もだけど……その……熱い部分って……」
男たちの視線は下に向き、その場所は二十五にもなる私の知らない聖域。
つまりラヴァーソウルが火を放ったのは、あろうことか男の急所だった。
「いやぁん、あそこが熱いだなんてぇ、若い子はお盛んだことぉ」
「い……いやいや、熱いっても……熱っ!」
「そういう熱さじゃ……熱ぃ!」
そりゃあそのはずだ。火照るだとか滾るだとかの範疇ではなく、彼らの陰部は真に炎に焼かれているのだ。
あまりの熱さに床を転げて、必死に手で払うように急所を叩くが、神の炎はその程度で消えるような柔なものではなかった。
「ぎぃえええ!」
「うぎゃあああ!」
下着と服を焼き払い、露わとなる男たちの恥部。
下品な話だけれど、焼かれるそれらは比喩でなくソーセージみたいで――
「なぁるほどぉ! 小っちゃいとぉ、炎も合わせて小さくなるのねぇ♪」
焼かれるソレをしげしげと見つめるラヴァーソウル。
究極のマゾヒストさんは、ラヴァーソウルとの戯れにトライしてみては如何かしら。