不思議で愉快な物語
悪戯の犯人捜しはラヴァーソウルに任せるとして、私は仕事を開始する。
画鋲で傷付いた指先はラヴァーソウルがいとも簡単に治してくれた。しかし治癒の意味合いは仕事への差し支えとは別にある。
仕掛けた画鋲が見かけ上は不発に終わったと。本当は引っ掛かったけれど、犯人には失敗だったと思わせること。
表面上は無傷で出社した私に、再び何かしらの行動に出てくれることを願って。
それにしてもだ。創造に破壊、捜査に治療。神力とはかくも都合の良いものなのだと思い直す。
ラヴァーソウルさえいてくれれば、もはや何者だって怖くない。
唯一恐れるべきはラヴァーソウルに見限られ、裏切られてしまうことくらいだが、契約を交わした以上は合意なしには引き下がれないだろう。
そういう意味でも、取引は結んでおいて良かったと改めて思う。
私は私で仕事をしながら、同時に犯人の炙り出しに取り掛かる。
といってもだ。お前が犯人だろうと、直接的に問答をする訳ではない。
私にできることは、ただただ媚びるに尽きる。
しかしターゲットは女子社員ではなく、男性社員に媚びを売るのだ。めいっぱいの色気を晒し、愛想を振り撒き媚びまくる。
半ばいちゃつきに近いスキンシップを交えた談笑を、これみよがしに女子社員に見せつけてやるのだ。
苛立ちが募り、堪えようのない衝動に駆られ、そして嫌がらせに走った犯人を自滅の道に嵌めてやる。
今まで散々いじめてきて、そろそろ警戒心も薄れているはず。
そうして人目を盗んで席を立つ女子社員は、ラヴァーソウルの待ち構える蜘蛛糸の網目に、まんまと絡めとられたのだった。
「いっちょ前にエリュメスのバーギンかよ。蓬のやつ調子に乗りやがって……」
「ほんとよねぇ、地味子の癖に色付いちゃって。ブランドバッグもずたずたにして、次はカメラも仕掛けようよ。それで裸の写真をばら撒いちゃお」
そんな妬みを漏らす犯人の女子社員たちは、二人組だったとのことだ。
断罪の一部始終は、恋の神様ラヴァーソウルから聞いた不思議で愉快な物語。
昔々、ラヴァーソウルという美しい恋の神様がおりました。神様は使命に熱心で、悩める多くの子羊を恋仲に結び付けたそうな。
そんな優雅なラヴァーソウルですが、このたび目を掛けた女の子。それはそれは地味な子で、手取り足取り丁寧に美の秘訣を教えてあげました。
可憐なラヴァーソウルの教えに従い、見違えるように美しくなった女の子。男の子たちの視線は彼女一人に釘付けです。しかし気に入らない女たちがおりました。
女たちはあれやこれや、女の子にいじわるをしはじめます。困った女の子は、それを素敵なラヴァーソウルに相談しました。
見かねた美麗なラヴァーソウル、悪戯現場を突き留めます。優しく罪を諭しますが、二人は聞く耳を持ちません。
それどころか女たちは馬鹿にします。お前は誰だと、不審者なのかと。困った優美なラヴァーソウルは二人を異なる世界に誘います。
突然のことに女たちは大慌て、これで神様と信じてくれるかな? いいえ、それでも女たちは認めません。お薬を盛ったと、神の行いに言いがかりをつけるのです。これは駄目ねと、麗しくも愛らしいラヴァーソウルは――
一人の女の子の心を焼きました。
神様は物じゃなくても燃やせます。
あれよあれよと燃え上がる心。一人は素直な良い子に生まれ変わりました。それを見ていたもう一人の女の子。床に頭を擦り付けて、罪を認めてくれました。
ところがどっこい、いっけなぁい! なんと、おちゃめでドジっ子キュン☆キュン激可愛ラヴァーソウルは、謝った女に誤って、うっかり火を点けちゃった。
同じく心を焼かれる女の子。消して欲しいと希いますが、ひとたび炎が点いてしまうと燃え尽きるまでは消えません。
てへっと舌先を覗かせて、反省の態度を示します。
そうして二人目も、尊みのやばいラヴァーソウルの下、純粋無垢な良い子に生まれ変わりましたとさ。
「めでたしめでたしぃぃぃ♪」
「……で、どうするのよ。この二人は」
眼下には二人の女子社員が膝を崩し、言葉語らず、虚の一点を見つめている。
「あはぁ。そぉんなの知ったこっちゃないものぉ。とぉっても幸せそうだしぃ、このままそっとしておいてあげるのが優しさじゃないかしらぁ」
それもそうか。
死んでさえいないのであれば、誰ぞ犯人ということもないだろう。
唯一悔やまれることがあるとすれば、それはこいつらが苦しみもがく断罪の場に、居合わすことができなかったということくらいだ。
「まーいっかぁ! それよりさ、このバッグどう思う?」
「それぇ、気になってたぁ! 可愛いっ! とぉっても! さすがハイブランドは違うのねぇぇぇ」




