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幻想の先

 恋治なき後、磔の友香を開放し、そして私たち三人は抱き合った。

 私は許されざる罪を冒した。

 それでも友香は笑って私を許すのだ。泣きじゃくる私を二人が優しく包み込む。

 その気持ちはとても嬉しい、だけど私は決して甘んじてはならない。例え友香が心の底から許していても、安易に受け入れてはいけない。


 友香は病院へ行くのを嫌がった。

 どうやら私が殴ったことを、公にはしたくないようだ。

 全力でハンマーを振るったつもりだったが、実は心の内に躊躇いがあって、すんでのところで加減を加えていたらしい。

 だが頭の衝撃は脳にどう影響しているとも分からない。私が拝み倒すと、友香は渋々病院へ行くことを受け入れた。


 そして私は家に帰る。家に着くや否や、母は涙ながらに私に縋り付く。

 ラヴァーソウルが持つはずの携帯は何故か部屋に残されており、携帯を持たぬまま消えた私を、母は心底心配したようだ。

 母の気持ちが本当かどうか、それは私には分からない。母の本音を私には読むことはできない。

 なぜなら私は、母のことについてよく知らないのだから。それが知りたければ、これから私はもっともっと、母との接点を持つべきだ。


 そして消えたラヴァーソウルは。

 いない、家の何処にも影すら見当たらない。どうして姿を見せないのだろう――だなんて、そんなことは既に分かってる。

 だってラヴァーソウルという存在は――


 幻想。溺れる恋心、愛情が生み出す幻の神様。

 盲目になることで浮かびあがる、恋の奴隷を操る幻想の女神。

 そして私の視界が広がれば、現実の下に無に還る。


 思えば私は酷いことを繰り返した。それは親友の友香や京介はもちろん、敵対していた小野千秋に対しても。

 千秋は実際に話してみれば、とてもいい子だったと思う。情があり健気に生きて、必死に恋を紡いできた。

 そんな千秋を私は陥れた。殺害したのは早乙女恋治だが、社会的に抹殺したのは紛れもなく私。

 吉野恵美だって、横暴だったとはいえ死ぬほどの罪ではなかったはず。


 一連の出来事で、私は多くのものを失った。

 善を失い正を失い、そして恋を失ってしまった。

 私はこれから償わなければならない。私が携わった全てに、一生かけて償わなければならない。

 だがこれからの贖罪の人生、ただ罪を償うだけで終わりにはしたくない。

 大事な親友たち。そして京介は私の大切な想い人に。


 十字を背に、私は前に進んで行く。

 償いを、そして新たなる恋を。

 辛いことはたくさんあったけど、柊愛子の恋物語は、これから始まるのだから。

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