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エデンの園

 放課後を迎えると、友香には生徒会、遥には部活動が控えている。いつもならここで”また明日”と、何気ない日常の会話が交わされる。

 しかし友香はその日、何も言わずに教室を出た。そそくさと逃げるように、差し詰め先のやり取りが気まずいからといったところか。


「友香、どうしちまったんだ? なんかあったのかよ」

「大丈夫だよ。友香はきっと疲れてるんだよ。私が楽にしてあげなくちゃね――」

「愛子……?」


 疑問を抱く遥を背にして、私も部活動へと赴くことに。

 他にやるべきこともあるのだが、最期の最期の決心を。私には確認しなければならないことがある。

 それは罪の重さを知ること。

 友香が有罪であることは確定したが、裁くには全容を知る必要がある。友香の一方的な片想いなら僅かな情状酌量の余地はある。

 しかし万が一にも行動に移していたのなら。もし関わりを持っていたら。

 邪な行為は命をもって償う他ない。

 部活動の半ばのこと、五分間のインターバル。その時間を利用して、私は恋治先輩に探りを入れることに。


「恋治先輩、お疲れ様です。これ、どうぞ」


 渡すのは共用のスポーツドリンク――ではなく、わたし特製の愛子汁だ。

 他の女が手掛けた汚水など、何が混入されているか知れたものではない。恋治先輩を潤すのは私の清らかなる聖水で。


「ありがとう、愛子」


 私の特製で喉を鳴らす恋治先輩。興奮ものだが、今はそれに欲情している場合でもない。これはあくまで日課であり、慣習化されるべき日常風景。

 私の真の目的は別にある。


「友香――」


 瞬きで過ぎ去る一瞬の間、恋治先輩は体を固めた。

 私はそれを見逃さない。元より恋治先輩を前にして、瞬きなどしたことがないのだから


「津雲友香をご存知でしょうか」

「確か生徒会の人だよね? 壇上で見かける程度で、話したことはないかな」


 恋治先輩。私は友香を知っているかと、それだけを聞いただけだよ。


「その津雲さんが一体どうしたのかな?」

「いえ、なんとなくです。私の知り合いなだけですよ」

「…………そう」


 恋治先輩は嘘を吐いている。

 たったこれだけの会話でも、私にはそれが嘘と分かる。会っているのは当然のこと、十中八九話している。

 なぜ彼が嘘を吐くのか、それは百歩譲って私を不安にさせない為の優しさ、ということで良しとしよう。

 しかし友香、あなたは決して看過できない。

 些細な挨拶ならば許せるにしろ、わざわざ接点を秘匿するからには、それなりの出来事があったのだ。


 私の憧れた私の世界。そこに愛した仲間が集うことはなくなった。

 京介も友香も遥もいらない。誰も届かぬエデンの園にはアダムとイヴ、二人だけで十分だ。

 残念だよ。皆、私の親友だと思っていたのに……

 

 津雲友香。あなたはたった今この時をもって、私の崇高なる世界から追放するべき、忌まわしき災厄となったのだ。

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