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こんな故郷の片隅で 終点とその後  作者: しまうまかえで
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Red Rain ②

今回の冴子さんは過去の記憶に苛まれてます(-_-;)

私の新しい日常はおばあちゃま(英さんや加奈子さんが『ばあちゃん』と呼ぶので私も少し変えた)のお加減の事以外は、今までになく穏やかだった。


私の持ち場は前橋(まえはし)家の家事全般とお店の接客、商品の袋詰め等の軽作業と大切なおばあちゃまの家族としてのお世話だ。


掃除、洗濯は要領を見つけて乗り切ったが、お料理は時たま「ああああ」と頭を抱えてしゃがみ込むレベルの物が出来上がったりした。

しかし、いただいた命は粗末にできないので、すべて私のおなかに入れてしまった。

おかげで少しは体重が戻ったようだ。


おやじさんは私に甘々なので、時々“飛び級”で私に和菓子を触らせてくれた。


「冴ちゃんは手先が器用だな」なんて言われながら菓銘の付くような上生菓子のお手伝いもやってしまった。これって凄い事で英さんは高校卒業するくらいまでやらせてもらえなかったらしい。


英さんが横で仕事している時でも、おやじさんが上生菓子を作るときは必ず呼んでくれた。

さすがに気が引けたのだが、「冴ちゃんはセンスがあるから、後々お店の為になる」と有無を言わせなかった。

もとより英さんはそんなことをとやかく言う人ではないので、いずれ離れてしまわなければならない私自身が二人に申し訳なく、奥の蒸練機の前で、こっそり泣いたりした。

最近の私は、自分でもどうしようもないほど、涙もろくなってしまった。


特に、おばあちゃまを清拭させていただいている時など、おばあちゃまのお体が日に日に軽くなって、そのうち木の葉のようになってしまわれるのではと悲しくて悲しくて、パジャマやタオルを抱えて飛び込んだ洗濯室から出て来れなくなってしまう事がしばしばだった。


楽しい事もあった。


元々、おばあちゃまや英さんのお人柄がよく、喫茶スペースにもよくお客様がいらしていて、人付き合いの苦手な私にも皆さんは優しかった。

ただ、英さんがムダに?イケメンなので、若い女性からは“突然来たお嫁さん”という事で、ちょっと睨まれた(古くからのおなじみ様は私の顔を見て瞬時に理解を得たようだが…)


特に “あーちゃん、しーちゃん、みーちゃん”のJK3人組の当たりはなかなかのものだった。


私を取り囲んで、まるで小姑のように私の上から下までねめつけ、「ちょっと元がいいからといってあまりにも化粧っけがない」だの「野暮ったい」だの「細すぎて家業に不向き」だの色々盛りだくさんのご評価をいただいた。


まあカノジョたちにとっての英さんは、私にとってのアールシュ君(※ Twistin' the Night Away ②のお話をご参考下さい)のような感じかなと思うので腹が立つより、むしろ可愛く、また自分が()()()イメージで受け止められているのが、何とも意外だった。


ところが、ここからが面白かった。

あーちゃんという子が突然、私に顔を押し付けて、ワンコのようにスンスンと匂いをかいだのだ。


さすがに目が点になったが、あーちゃんはこのグループを仕切っているらしい。


冴姉(さえねえ)って呼んでいいですか?」というひと言で私たちはお友達になった。



“夜の生活”は相変わらずだった。

英さんは何もしないで背中を向け、すぐ寝入ってしまう。

さすがに失礼過ぎるので蹴とばしてやろうかとも思ったが…

可哀想なので止めた。

その代わりに手をつないでもらう事にした。


手をつないだまま仰向けになって天井を見ている。

英さんも今日はまだ寝入っていないようだ。


こんな自分がおかしくて、笑いがこみ上げてくるのだが…

ちょっと汗ばんだ英さんの手に何だか幸せを感じてしまって…

私は心の奥の暗闇を少しばかり押し込めることができた。



--------------------------------------------------------------------


その日は蒸して、ベタベタする潮風が吹き荒れる日だった。


「これは、降るなあ」とお昼から帰って来た箭内(おやじ)さんの言葉に何だか胸がざわざわした。


夜になって暖簾をしまう頃には、厚い雲を通して紅い月が顔をのぞかせ、強い風とともに雨が降り出した。


嫌な雨だ。


雲に滲む月の色が雨に溶けて降りかかってくる気がする。


もやもやした得体のしれない恐怖に取り憑かれて、つんつるてんなのにダボダボのスウェット姿の私は布団を被って震えていた。


何となく英さんが近づいてくる気配がしたが、すぐに自分の布団に戻ったようだ。


そう、カレの手を握ることなどすっかり忘れて、私は無意識にあかりの名を呼んでいた。



をみた


それは封じ込めていた忌まわしい記憶


複数の手足に取り押さえられ、踏まれて、

無理やり体を開かれ

入れ替わり立ち替わり

男に刺された

体も

心も


別の記憶


鈍器で殴られ

顎が砕ける音が耳の外と中から不気味に響き

その瞬間は

痛みすら止まった


『男を喰ってる』

私自身の声がする。

はっきり分かった。

自己欺瞞


『でもその最中、感じてしまいました。何度もイキました』

あかりの声


あかりの写真


公衆トイレの鏡に写った、刺された後の昔の私


ほどんど見えない目で見た、血だらけのバスルームの中の…顎のない私


何語でもない、原始の言葉かもしれない唸り、叫び声をあげて、私は跳ね起きた。


後から考えると英さんもその時に飛び起きたのだろう。私の狂った視野に彼が入らなかったのは本当に幸いだった。


狂った私は憎むべき()()()を探した。

自分の下半身を剥ぎ取って私を犯すモノを探した

手で触れて探した

私の()に既に潜り込んだのか?

紅い光を微かに写したハサミが目に入る。

ひっつかんで下腹部に狙いを定める。

中に居るなら外から突き刺して

息の根を止めるだけ


ハサミを振り上げた時


ものすごい力で羽交い絞めされた。

抗う事のできない憎むべきオトコの力が私の指をこじ開け、ハサミをもぎ取る。


私はあらん限り力を込めて腕を脚をオトコの体にぶち当てる。

噛みつく


耳に微かに声が伝わってくる。

私の放り投げた()()()

「さえ さえ さえ さえ…」


私の頬と髪にくっつく、温かい

血とか涙とか鼻水とか

なんだかグシャグシャしたものが

私を我に返らせた。


英さんがものすごい力で私を抱きしめているのに気が付いて

力が萎えた


カレは()()()()の私を呼び続けている

「冴ちゃん、冴ちゃん、冴ちゃん…」と


そのカレの顔を見て、私はまた、言葉では無い叫び声をあげた。


カレを私みたいに傷つけてしまった。

言われのない暴力で


「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい わたし こわれた こわれた…」


カレのパジャマがグシャグシャになるくらいワンワン泣いて

「あ 冷やさなきゃ」

と間の抜けた声をあげた。


カレがようやく腕を緩めてくれたので

カレの腕を脱いで

足元にまとわりついていたスウェットに足を入れてヨロヨロ立ち上がった。


けれどカレは、今度は私の手を握って離してくれないので、一緒に冷蔵庫まで行った。


カレに添い寝して、カレの腕の中で

保冷剤をふきんで巻いてカレの顔に当てたり、ネコか何かが舐めて傷を癒すように何度もキスしたりした。グシュグシュ泣きっぱなしだったけど… 






ああ

後ろのほうは書きながらウルウルしてました。

辛い冴子さんは見たくないなあ


なので来週は糖度高めのお話を書きたいです。


ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、切に切にお待ちしております♡




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― 新着の感想 ―
[良い点] もう少し先まで読んでから感想を書かせて頂くつもりだったのですが、このパートを読んだら書かずにいられません。 以前、冴子さんが意にそぐわない仕事をしていたのは仄めかされていました。 ですが…
[良い点] 非常に激しい描写ですが、文章から緊迫感が伝わります。 読んでいて、辛いものが、ありますね……。 [一言] 話題はコロリと変わりますが、私の家で飼っているワンコ(チワワ)が、膀胱結石で手術と…
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