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こんな故郷の片隅で 終点とその後  作者: しまうまかえで
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私の冴

この章は“あかりちゃん視点”で『Red Rain ②』の後半と次節、別掲載の『気まぐれな雨』https://ncode.syosetu.com/n4562ic/にリンクしています。





 イラストはあかりちゃんから見た冴ちゃんです。



挿絵(By みてみん)





 しきりに名前を呼ばれた私は、のたうち回る冴の夢の中へ、我を忘れて飛び込んだ。


 たった一晩の冴との蜜月の時に話には聞いていたが……

私は冴の夢の中で、冴が受けた暴行の凄惨な光景を、痛みを、冴と同じ様に見て、冴と同じ様にこの身に受けた。


 そしてあの観覧車の中で、私が冴に話した私自身の声を聞いた。

『でもその最中、感じてしまいました。何度もイキました』と言う……

 それは私の“業”


 そして、冴にも冴の“業”があった……けれどそれらはもう!!

 私が持ち去った筈なのに!!!


 唸り声を上げて、冴がハサミを我が身に突き付けようとした時にも、私は叫び続けていたのに!!!

 冴には届かなかった。



『いつもそばにいて 守っているよ』


 そう言っていたのに!!いつも冴と繋がっているのに!!!


 でも、私の叫び声を(すぐる)さんは聞いていてくれた。


 冴が唸り声を上げる前に跳ね起きていた。


 そして冴の“怒り”を全身で受け止めて、冴を鎮めてくれた。


 ああ!! 英さん!! やっぱりあなたは!

 私の憧れの人!!


 ()()()が冴を抱き留めた時に流した血や涙を……強い腕の力とその温かさを、私もこの身に感じて、冴と一緒にワンワン泣いた。



 そして私も冴と一緒に()()()にキスをした。


 死の帳をくぐり抜けた時、自らを殺めると言う大罪と引き換えに、私や冴の“業”は晴らされたと信じたい。

 冴や私が()()()に捧げるキスは穢れないものと信じたい。


 私はただ、見つめる事しかできなかったけど、冴ならきっと()()()や加奈子さんと心を通わせられる。


 それに

 ひょっとしたら


 私は二人の娘になれるかもしれない。



 “神様”は慈悲深い。


 大罪を犯した私にさえも


 こんな未来があるかもしれない事を見せてくれた。


 私に……

 諦めない事こそ、命に対しての祈りだと教えてくれた。


 冴にも決して諦めて欲しくはないから、節子様の力をお借りして、冴に()()()を、加奈子さんを引き合わせた。


 良かった!!


 ()()()は冴を愛している。


 きっと冴を守ってくれる。



 --------------------------------------------------------------------


 私の冴!


 今朝、あなたが自分の下着の事で恥ずかしがったり、気まずい顔で厨房の陰から英さんを覗いた事も、ちゃんと見ていたよ。


 前橋家のお墓には一緒に謝ったし、今は私に向けて話しているあなたの声を……あなたの肩に頭を預けて聞いている。



 ごめんなさい


 勝手に逝ってしまって


 だからね


 私より伸びてしまったあなたの横髪で

 あなたの涙を拭ってあげる。


 そう! あなたの帽子に悪戯して節子様に会わせた時みたいに……



 --------------------------------------------------------------------


 それなのに……


 こうして冴の傍らで

 いつも冴の幸せを祈っているのに!!


 私は冴の……不幸な未来が見えてしまった。


 あなたが自分から英さんの元を離れて、“どこかの誰か”とも別れて……ひとり喫茶店で泣いているのを……


 色んな街を流れて、あなたの前を仕事達が、男達が通り過ぎて……


 最期は私と同じに

 アスファルトと血糊のベッドの上で事切れるのを……


 どうしてこんな事になるの?!!

 どうして!!


 私が……あなたから持ち去った筈の“業”の記憶があなたを苛んで(さいなんで)……

 幸せに踏み出す足をすくませた??

 それなのに

 ただ、私を呼び戻したくて

 “私を産む”事だけは諦めきれなくて、

 それだけの為に

 男と()()()()()()しまっている。


 そんなの悲し過ぎる!!


 私の冴!


 愛しい冴!!


 気付いて! 

 自分の素晴らしさに!

 自分の愛らしさに!

 自分を愛して!! 

 そして愛される事に躊躇わないで!!


 あの雑居ビルのエレベーターの中で

 初めて会ったその時から


 私はこんなにもあなたに夢中なのに!!



 あっ!


 今、聞こえた!


 聞こえた!!!



 あまりにも大きい罪の深さが

 山谷のように取り囲んでいる中から


 話し合う声が……


 お母様とお父様の声が……


『……私は和尚様にお願いして、“あの人”にお会いしようと思っています』


『それは……却ってお前を傷付ける事になりはしないか?』


『そうかもしれません……でも泣きながら灯子(とうこ)の名を呼んでいたあの人は……きっと、前橋の女将さんが【津島のお墓にお参りにいらした方を私の方でお引止めしているから、是非一度、お会いになって】とおっしゃっていた方に違いないのです』


 “灯子”としての私はお母様とお父様の声を聞いただけで申し訳ない気持ちでいっぱいになって立ちすくんでしまう。


 けれども……冴の恋人としての私……“あかり”なら!! 愛する冴の為になら!!


 私はあらん限りの声を振り絞って、“大罪の城壁”の中へ叫んだ。


「お願い!! 冴に会いに行って!! あの子は私なの!! もう一度! もう一度!!私を育てて!! お願い!!」



 --------------------------------------------------------------------


灯子(あのこ)はもう一人のあなた。あなたはもう一人のあの子。 こうやってあなたを抱いていると それを体中で感じます」


 そう言ってお母様が冴を抱きしめた時、私も冴と一緒に泣いて……懐かしいお母様の胸のぬくもりを感じた。


「よーし よーし 」とあやすお母様の声に私はまどろみ、夢を見た。



 コクンコクンとおっぱいを飲んでいる私


 見上げると優しい笑顔の冴……


 頬にくすぐったさを感じて目を移すと

 そこには満面の笑顔で私をあやそうとする英さん……


 ああ!!“未来”が変わった!!


 だけど……


 “ママ”と“パパ”の仲が余りにも良すぎて

 ちょっと妬けたので……


 私はわざと


「ふぇ!ふぇ!」と泣いてみせた。







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― 新着の感想 ―
朝から泣きました(´;ω;`) 灯子さん本当に良かったですね! 私は結構小さい頃の記憶を忘れないで持ち続けて居る方だと思うのですが(約10カ月くらいの頃から断片的に覚えています)多くの人は幼稚園前後で…
この物語が一つの原点として、或いは隠し味に似たエッセンスとして、他の作品へも密かな影響を与えている気がします。 きっと四宮さんにとって、それほどに大事な作品。 私も何時か、そんな作品に巡り合えるよう頑…
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