Hotel California ②
間に合ったので第2部分をUPいたします。
両和システム株式会社の社屋は社長の親父さんが鈑金工場をやっていた頃からのもので1階が工場と倉庫、2階が事務所と居住スペースいう古めかしい建物だ。
ちなみに社長はようやく独身に戻ったのをいいことに、会社に泊まりこんでは夜遊びして他には誰も使わない1階のシャワー室を使っている。
意を決してそのシャワー室を掃除をしてあげたことがあるのだが…
スリッパを履かなきゃ到底歩けないようなドロドロの床だった。
なるほど、誰も使わないわけだと納得しつつ、社長の首根っこをネコようにひっ捕まえて、散々説教をくれてやった。
でもまあ、それも終わりだ…
私は社長室を兼ねた応接室で自分で淹れた“冴茶ソ”を飲んでいる。
目の前で難しい顔をしている社長の後ろには場違いにジュークボックスが置かれている。
そう言えば、これも動くかどうか聞いておけば良かったなあ
「静養のために辞めたい?…」
「ええ、長くなるかもしれないので、後々の事を考えたら今の内に新しい人にした方が…」
「お前が人事を考えるのか?! んっ?」
「目を剥かないで下さいよ。ただ、離れるんなら今のタイミングかなと思うんです。それなりに頑張った仕事なので筋は通したい」
社長はため息をついて立ち上がった。
「お前には無理させた。仕事だけじゃない何かがあったなという事も気付いていた… それなのにこき使ったから。愛想つかされても仕方がないが…」
背中を向け、古めかしい金庫のダイヤルを回しながら社長は訊く。
「どのくらいかかる?」
想定していた質問だが、うまくはぐらかせるかも
「社長、人の目の前で金庫のダイヤル回すのは不用心だ、私は鍵の置き場所も知ってるよ」
社長はそれには答えずに銀行の帯のついた札束を3つ取り出した。
「お前がそんな事をするタマかよ」
と私の目の前に札束を重ね置いた。
「まず最初の1か月。これでお前を買う」
私は社長と札束を見比べてタバコに火を点けた。
「愛人はやらないよ」
「ちょっと違うな。条件はただ一つ。お前がどこに行こうと、何をしようと構やしない。まあ人を殺したとしてもだ…。ただ必ず戻って来い。それが条件だ」
人殺しか… まあそういう事でもあるが…
私は社長の顔に煙を吹きかけてやった。
「アンタ、バカだよ」
社長は動じない。
「どうせ帳簿には載らないカネだ。こんな使われ方なら極上だ」
社長、アンタが私を見込んでくれたのなら、私もアンタを見込んで世話になった。
おかげで“カタギ”の仕事や関わりを味わせてもらった。
それは本当に感謝している。
だから…最後の前には顔を出すよ…
「ムダ金使うバカなヤツ」
と悪態をつく私の頬に、社長はその大きな手をやった。
「こんなに瘦せちまって…」
私はちょっと顔を傾けて頬を包んでくれた手のひらにキスをした。
「じゃあヤらせないよ」
「上出来だ!」と社長は包んでいる手の親指で私の頬を撫でた。
「しっかり休んできな」
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あかり、髪をあなたと同じようにパッツン姫カットにしたよ。それから…笑わないでね、初めて白いワンピースを買った。
このキャリーバッグにあなたの写真を入れて、あなたのストローハットを被って
あなたに会いに行くよ。
あなたの故郷へ
よく晴れた朝。
すっかり片付けた部屋の重いドアを閉めて私はキャリーバッグを曳いていく。
列車に乗る前に行きたいところがあったから…
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あの日と同じように青空が迫って来る。
今日は観覧車の中に薄く掛かっているBGMを聞きながら、私は昇っていく。
あかりが飛んだあの裏階段が見えてきた。
それを確認したかった。
大丈夫のようだ。
今日明日に何かが変わる事は無いだろう…
あの地面なら、きちんと時を選べば迷惑を掛ける事も少なくて済みそうだ。
可能性のカードはまだ手の中にあるけど…
もういいよね
あかり
私は被っていたストローハットを抱きしめた。
気持ちは澄んで
とても落ち着いていた。
◇◇◇◇◇◇
挿絵です。
まず、あかりに逢う前の、機械のメンテナンスのアルバイト時代の冴ちゃん
社長に『こんなに瘦せちまって…』と言われた、今の冴ちゃん
確かに、やつれた…
第2部分のお話を書いていて、また泣いてしまいました。(^^;)
ちなみに社長は私のお気に入りのキャラです。(*^。^*)
樹くんとはまた違った意味での…