クリスマス特別編 ザ★クリスマス ①
このお話は本編から数か月たったクリスマスのお話です。
津島のお家での冴ちゃんと加奈ちゃんの女子会から話は始まります。
「この、“お母さまの”野菜の揚げびたし、本当に美味しい。まろやかなコクがあって…」
「でしょ?! お母さまがおっしゃってたんです。ちゃんとしたみりんを使うのがコツなんですって」
「そっか… さえもドンドンスキルアップだね。私もレパートリー増やさなきゃ」
「だったら一緒にお母さまに教わりましょ! 私もおばあちゃま直伝のレパートリー、もっともっと教えて欲しいし…」
「スグルの為?」
「はい。英さんには一番親しみのある味ですから…」
「そうだね~ さえは、ばあちゃんの手料理、食べる機会なかったものね」
「はい、心残りはたくさんあります…」
「私も… ばあちゃんには心配かけっぱなしだったから…。賢ちゃんが初めてこっち来た時、お仏壇とお墓と、両方挨拶してくれて… 少しは安心してくれたかな…」
「賢兄、優しいから」
「スグルもでしょ?」
「そりゃもう! だから、今はとてもとても幸せなんだけど…おばあちゃまも一緒に居て欲しかったです。いつまでも」
私はセーターの上で光ってくれているおばあちゃまのメモリアルペンダントにそっと手をやる。
「大丈夫、ばあちゃんは今もさえと一緒にいるよ」
加奈姉さんの言葉に私は泣きそうになって、何となく徳利に手の伸ばしてしまう
「あ、もう無いみたい。お燗をつけてきますね」
「後で津島家の台所、見せてもらってもいい?」
「もちろん!ちょっとした調理場ですよ。一甫堂とは雰囲気違いますけど…」
「そう言えば仮店舗はどう?」
「そうですね…使い勝手が良くなるよう、ちょこちょこ手直ししています。」
「男前のジャンバー着て?」
「はい、ホントは免許なきゃやっちゃいけない事も…コソっとやってしまいました」
「あ~!! それだな手の甲のキズ! ちゃんと軍手とかしなきゃ!」
「エヘヘヘ… 軍手しながらやれるほど手慣れてないので、つい…で、ガリっとやっちゃいました」
「ダメだよ!お嫁入り前の娘なんだから。お母さまにもしかられたでしょ?」
「はい、『英さんが悲しみますよ』って…そう言えば、お姉ちゃん!お式までちょうどあとひと月ですね」
「ごめんね~私たちのほうが先になってしまって…ほら、一甫堂を建て替えて両和システムのオフィスも併設しちゃおうって、賢ちゃんが絵図描いちゃったからねえ… 結果的にアナタたちの結婚が遅れちゃった」
「とんでもない!! そのおかげで私は津島の養子としてお嫁に行けるんです。 賢兄にはほんと感謝しています。だって英さんの頼れるアニキだから」
「そうねえ、あの二人、妬けちゃうくらい仲いいよね。ていうかウチのお父さんもだけど…」
「今頃きっと、三人で明日の釣り談義ですよ、小学生の兄弟みたいに…」
「違いない、飲むのはジャックさんなんだろうけど…この寒さで何が釣れるのかねえ~」
「“オンナは釣るな”と釘さしておきました」
「あははは、うちのお父さんはともかく、二人ともモテるからなあ~」
「あら、オヤジさんもカッコいいです。私、何回か腕組んで歩きましたもん」
「プッ!ククク 付き添い介護になってなかった?」
「そんなの、オヤジさんに失礼ですよお」
「ハイハイ。スグルはさえが養子になる事、何か言ってた?」
「はい、迷っている私にこう言ってくれたんです『これは凄くいい事だよ。素敵なお父さんとお母さんができて、あかりと姉妹になれるんだよ』って」
「いい事言うじゃん! いかにもスグルらしいけど…」
「はい、英さんらしいです。本当に素敵な人です。私にはもったいない」
「さえ! それは違うよ! スグルはアナタじゃなきゃダメなんだからね!」
「…そうでした。 お姉ちゃんが賢兄じゃなきゃダメなように…」
「その通り! ところでさ! さえって、アクセサリー付けないよね」
「元々あまり付けない方でしたし…今はおばあちゃまの指輪も外させてもらってます」
「まあ、あれは結婚指輪の類だもんね…」
「お姉ちゃん、エンゲージリング、二つ持ってます?」
「そうなのよ、こないだ、賢ちゃんが三つ目買おうとして…さすがに阻止したけど…今度はクリスマスにかこつけてなんかやりそう… そりゃあ嬉しくない事は…無いけど、ねえ~ 薬指は限りあるしさ。それよりスグルはどうなの? さっさと買ってもらいなさい。でないと私の結婚式の時に付けていけないじゃん」
「うふふふ どうなんでしょうね… こないだ、なんかゴニョゴニョ言ってたのは…そうなのかな」
「あいつ、そういうとこはグズだからなあ~ さえはずっと“しなかった派”?」
「そうですね… 仕事の時は付けないし、OFFは“おめかし”ってしないし…」
「仕事の時はね~私も付けないし…OFFのおめかしも…しなかったかな ほら、ピアスだって穴塞がるじゃん」
「はい、今、思い出しました。私、ピアス、2回したことあります。仕事がらみで…」
「仕事がらみ?」
「はい、一度目はエンコーやり始めたころ、オトコがバッグからピアッサー出してきて『お前の初めてになってやる』とかふざけたこと言うから、傍に合ったアレ…ほら、名札とか付ける…」
「安全ピン?」
「そうです、安全ピン! あれを耳たぶにブっ刺しまして『いらねえ』と言いました。あんまり勢いよく刺したものだから突き抜けた針が左手の指に刺さって…実はそこそこ痛かったですけど…さすがにオトコもドン引きしました。アハハハ」
「いや、さえ、そこは笑うところじゃない。アンタって子は…元看護師を心配させる様な事はしないの!」
「ごめんなさい… いわゆる感染とかは気を付けていたんですけどね」
「安全ピンだって、危ないの!! やっちゃダメよ!!」
「はい! ちゃんと軍手もします」
「でもやったんでしょ?」
「ああ、もう1回はですね… 舌にやってみたんです。仕事上の探求心で…デメリットの方が大きかったので、さっさとやめましたけど…」
加奈姉さんにさすがにため息をつかれてしまった。
「ほんとにもう…叩けばホコリならぬ凄まじいことばかり出てくる子で…姉ちゃん、泣いちゃうよ」
加奈姉さんが涙模様になってしまったので、私は慌てて話を変えた。
「お姉ちゃんはクリスマスどうするの? 賢兄のとこ行くの? それともマンション?」
加奈姉さんは鼻を啜り上げた。
「今年はさえとスグルは津島家でしょ? お父さん独りにはしておけないからイヴの夜まではさえのマンションで過ごしてクリスマスの朝にこちらへ戻ってくるつもり。仕事の段取りもそういう風に組んでる。」
「そっか、あのマンションでイヴを過ごしてくれるのか…嬉しいなあ」
「今年はお互い嬉しいことだらけだけど…去年まではどうだった? 私は夜勤している事が多かったなあ~リア充の子達を優先してあげてたから」
「私も毎年仕事…去年は“冴茶ソ”の件で走り回ってました…」
「ウチの賢ちゃんがこき使ったのね」
「まあ、こき使われました。なので今年はお姉ちゃんが賢兄をこき使ってやって下さい。文句言ったら…」
「冴ちゃソのリベンジって言うね」
「もう、是非是非。 …おととしまでは…昔の仕事…してました。やっぱり、何だかんだ需要がね、あるんです。…これは英さんには話していないんですけど…」
「また凄まじい話?」
「ちょっと違います。 何年か前、呼ばれた先がホテルのスウィートルームだったんです。『ホテル予約した後、彼女に振られて…キャンセルするのは立場無くなるから、オンナ買ったんだって…』 そこそこの身なりのコだったから、どっちにしても見栄っぱりの嘘つきなんだろうなあと思ってたんですけど…」
「違ったの?」
「そのコがシャワー浴びてる時に、たまたま鳴ったスマホの通知バーのメッセージが見えてしまったんです『アノ子が言いたかった言葉を代わりに贈ります。メリークリスマス』って…嘘は嘘でも冗談にもならない悲しい噓だったんです…」
「ひょっとして…そのオトコの子のカノジョ、亡くなってたの?」
私は頷いて言葉を繋いだ。
「『イヴの夜に、こんな二人がシャンパンの前で何やってるんだろうね』って泣きました…だから、一所懸命お仕事しました」
「お仕事?」
「はい、あくまでも“お仕事”! “お仕事” としてその子の事を抱きしめました。心を傾けて…うん。カラダはね、確かに反応します。でもそれだけ。 私はあくまでもいろんなものを…感情だのオスだのを…受け止める器、ただそれだけなのです」
「さえ…」
「今は違いますよ。第一、すべて英さんにお任せ状態になってますもん。それがね…すっごくすっごく心が反応するんです。幸せが叫びまわってるんです」
「分かる、分かるよ、私も叫んでる。さえのマンション、防音しっかりしてて良かった」
「エヘヘヘ 去年まではあんまり関係なかったんですけどね。お姉ちゃんはどう思います? やっぱり英さんにもっとしてあげた方がいいかな?」
加奈姉さんは私をギュッーと抱きしめて言ってくれた。
「さえはそのままでいいよ。さえが心から幸せなのが英にはすぐわかるから、それがこの上もないアノ子の幸せなの。だからさえはその時にしたいなあって思った事を、すればいいの」
ラフ画は、外出しにしていたメモリアルペンダントに手をやる冴ちゃんです。
髪の毛もまともに描いてませんが…(^^;)
203.12.1更新
今日は20日ですが、クリスマスまでにこのお話を書き終われるのだろうか…
実はかなり不安です(^^;)
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