“もうひとつの” Sailing ③
賢ちゃんが加奈ちゃんのお父さんに挨拶へ行きます(#^.^#)
タクシーを商店街の入り口で停め、私達は一甫堂を目指す。
「あ、このお店、“冴茶ソ”置いてもらっているよ」と教えてあげると、賢ちゃんは大きな体を折り曲げて、1軒1件、丁寧に挨拶をして回った。
そのカレの姿に、私はもう、嬉しくってカレの事をフィアンセ(うわっ!言葉にすると恥ずい!!)と紹介してしまったので、店に着く頃にはエールをたくさんもらっていた。
賢ちゃんの立ち姿は本当にカッコいい。そのカレが潮風に額の髪をそよがせているのを見るとうっとりしてしまう。
なので、やっぱり私はカレの腕に掴り、勝手口から入って厨房に声を掛けた。
「お父さん!! 今、大丈夫?」
「お客様、来るかもしれないから、表に回ってくれ」
お店に入るとちょうど、お父さんが出てきたので、声を掛ける。
「お客さん、連れてきた。」
お父さんは賢ちゃんの顔を見るなり、嬉しそうにこちらに出て来た。
「冴ちゃんのところの社長さん…ですよね。一度、お会いしたかった!」
「初めまして、両和システムの上川と申します。 宜しくお願い致します。」
「昨日も冴ちゃんの事でお世話いただきありがとうございます。…今日はこちらでお仕事ですか?」
「いえ、今日は、あなたにお目にかかりたくて参りました」
「私に? ですか?」
「はい」
「なにか私どもに関するお仕事の話でしょうか?」
「いえ、お嬢さんの…加奈子さんの事です。」
「娘の?…」そう言いながらお父さんは、賢ちゃんの腕に掴っている私を睨む。
賢ちゃんは、あの“耳当たりの良い”声で、ゆっくりと話してくれた。
「私と加奈子さんは結婚の約束をしています。そこであなたを、男と見込んでお願いがあります。私の親父になっていただけませんか?」
賢ちゃんの申し出を聞いた父は深いため息をついて私に命令した。
「加奈子、お前はこっちへ来い!!」
「嫌だ!」
私は賢ちゃんの腕をしっかり抱え込んだ
「行かない!!」
「とにかくこっちへ来い!! お前が縋っていちゃ、話もできねえ!!」
賢ちゃんが「とにかく、お父さんのところへ行きな」と言ったので、私は渋々、父の脇に立った。
「お父さんが何を言ったって、私は賢ちゃんと一緒になるからね!!」
投げつけた私の言葉に振り向いた父は…
涙を流していた。
母が亡くなった時も
泣かなかったのに…
「男と見込んでとあなたは仰るが、いったい、私の何を、見込んでいただいたのですか!?」
賢ちゃんは父を真っ直ぐに見て言った。
「私の大切な加奈子さん、スグルくん、そして冴ちゃん、みんなあなたを心から慕っています。私も、そういう頼れる親父が欲しかったのです! 心から!」
「加奈子は…」
私の方を見て、父は言葉を継いだ。
「過去に不幸な結婚をして、私のところへ戻ってきました。その時、もう二度とこの子を手放したくないと思いました。 それなのに昨日、あの10年前の結婚の時と同じ、暗い目をして、この子は雨の中、出ていったのです。いい大人のこの子を止める権利は、私にはもう、有りません。だけど、だけど、どれほど心を痛めたことか…」
「加奈子さんを呼び出したのは私です。申し訳ございません」
賢ちゃんは“私の時”以上に頭を下げてくれる。
私は感極まって、誰が何と言おうと賢ちゃんについて行こうと決心した。
「頭を上げて下さい。そうではないんです。私はコイツが…」
父は突然、私の頭を撫でた。それこそ幼い頃以来に…
「コイツが今、こんなに幸せそうな顔をしていることが、嬉しくてならねえのです。しかも、その相手が、私が男と見込んだあなただ!! コイツは私には過ぎた娘です。コイツはあなたにこそ相応しい私の自慢の娘です。 どうか、末永く添い遂げてやって下さい」
深々と頭を下げる父に私も泣かされた。
「あなたも、加奈子さんも、私の“家族”です。私のすべてと命を張ってお守りします」
そう言ってくれた賢ちゃんの言葉の重みを私は知っている…
だから、もっと泣かされた。
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なんだかいつの間にか店の内外がお祝いモードになっていたので、私たちはお客様にも入ってもらって、スグルと冴ちゃん宛てにビデオメッセを送る事にした。
「おっ! 動いた動いた!録るぞ!」
「お父さん! スマホ、片岡さんに渡して!こっちに来て! 一緒に映ろっ!」
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『スグル~!』
『冴チャソ~!』
『これ、二人で観てるんだよね。なので私達も二人で… 後ろにお父さんとお客様も来ていただいて映ってるけど… ちょっと、お父さん!小突かないで! えっと、私の横、見えますよね。 アナタの社長の賢ちゃんで~す。 お、賢ちゃん、手を振ってくれてま~す』
『スグルくん! 昨日、キミがやったみたいに今日はオレが一甫堂に来てるよ~』
『賢ちゃん、本題!本題!』
『おうっ! 突然だけど、オレと加奈ちゃん、結婚するから! さっきお父さんにもお許しいただいた』
『ハイ! みんなでVサインして下さ~い! えへへへ! これはさすがに驚きでしょう? 賢ちゃんの首のところ、ハイ、私の指先にカメラ寄って下さいね~ ここ見えますか? 私の噛み跡! 売約済の証です~!! お客様の皆さま! ヒューヒューと賑やかしをありがとうございま~す!!』
『皆さまありがとうございます。ここは本当に温かい街ですね』
『温泉の街だよ~』
『お客様!合いの手、ありがとうございます。 今日はこれから私も和菓子の配達の手伝いで皆さまのところへ参ります。よろしくお願いします。』
『スグル~! 冴ちゃ~ん! そんなわけで、今日は私たちがお店手伝うから、ゆっくりデートしてね~!』
『お二人もデートみたいなもんでしょ?』
『ハイハイ、またまた合いの手、ありがとうございます。 あはははは! その通りで~す!! だから、ラブラブが駄々洩れしていても、お許しくださ~い!!』
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「それじゃ! 加奈ちゃんと配達行って来ます」
「賢ちゃん、ネクタイは外したら? 今日は暑いから、汗だくになるよ」
「挨拶回りを兼ねているから、これでいい。それに“男は汗かいてナンボ”
ですよね。お父さん!」
「おう!」と返したお父さんの顔も
本当に幸せそうだった。
よくある“ご挨拶”シーンですが… 実際はどんな感じなんでしょうね?? 意外とリアルもフィクションに影響されたやり取りがなされてるのかも…(#^.^#)
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