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こんな故郷の片隅で 終点とその後  作者: しまうまかえで
3/48

Hotel California ①

黒楓で書かせていただいた『こんな故郷の片隅で』の最終章とその後を書かせていただく予定です。



白黒混ざったシマウマ状態の楓なので“しのみやかえで”では無く“しまうまかえで”名義とさせていただきます。


※ エピソード25で本編は終了です。 なのでそれほど長くはないです(^_-)-☆

「師匠、この梱包材も台車に積んでもらえますか?」

今日は久しぶりに師匠と一緒だ。

「冴ちゃん! こんなのは俺たちに任せて…説明会の準備しなきゃ!」


「大丈夫!社員食堂の方はもう全部準備できてるから」


「『冴茶ソ(さえちゃそ)』も?」


「師匠~それ言うのホントやめて。毎度毎度恥ずかしいから…」


私の心の中は相変らずの袋小路なのだけど、私の身の回りは随分変わった。


今の私はアルバイトではなく両和システム株式会社の正社員だ。


事の発端はウチの会社で浄水器を作り始めた事からだった。


この浄水器が曲者で師匠達がどんなに手を掛けても、水をサーブする時に鈴の様な涼やかな音が止まない。

「まあ、イヤな音じゃないし、このまま行こう! そうだな!商品名は『まろやか音(まろやかね)』でどうだ!!」


この社長のひとことに私は頭を抱えた。

私がこの浄水器の販売担当にさせられたからだ。


いくつか試した結果、この浄水器の水が私の淹れるお茶によく合う事が分かった。


それで実演販売や設置時にお茶の淹れ方も一緒に案内するようにした。


その内、お茶の紹介にもお声が掛かって自社ブランドで生産依頼するようになったのだが…

「お茶の名前は『冴茶ソ(さえちゃそ)』にしよう!!」とまた社長のひとこと。


で、その結果、人付き合いの苦手な私が、ずらりと集まったOLさんたちの前でマイク持っている。これも10台納入時のサービスの一環と言う事か…


「え~っと!今回導入をいただきました『まろやか音』の両和システム株式会社の…」


「冴チャソ!」と声が掛かる。


私は照れ照れで『冴茶ソ』のパッケージを顔の辺りに持ってきて

「冴チャソです」と笑いを取った。



--------------------------------------------------------------------


説明会が無事終わり会場の後片付けをしていると、今回の導入を決定していただいた総務部長の日高敦子さんが声を掛けてくれた。


「ご苦労様です。スーツ姿も凛々しいけど、今日の作業着姿、素敵ですね」

「いえいえ!とんでもない。それよりご導入いただきましてありがとうございます」

「ひとつお願いがあるの。サインを…」

「えっ?! 何か書類に不備がありましたか?」

「そうではなくて、色紙にね」と部下の方に色紙を持って来させた。


「食堂に飾ろうと思って」


もちろん私はサインなぞ書いた事は無い。あれこれ悩んで『まろやか音』と急須と湯飲みのイラストを描いて、『両和システム 冴チャソ』と署名した。


部下の方に色紙を渡すと日高部長さんは私の方を向き直った。

「この後、予定がないようでしたら、お食事などいかがですか?」


「はい!ご接待します」


日高部長さんは首を振った。

「仕事抜きでお願いします。実は今日のあなたとなら行けるかもというお店があって…」


私は少し戸惑いながらOKした。



--------------------------------------------------------------------


日高さんに案内されたのは雑多な界隈にある古びた焼肉屋だった。


「ずっと昔にね…よく通っていたの」


「失礼ですけど… 男の人と、ですか?」


日高さんは如何にもマメで世話焼きだ。今だって“焼肉奉行さん”をしている。

それは、男としてはきっと連れて行きたいタイプだ。

その人がニッコリ笑う。

「当時、お付き合いしていた人とね」とビールジョッキを外した唇に人差し指を当てる。

かわいい。


私は店の中を見回した。確かにこの雰囲気はお世辞にもおしゃれとは言い難いしキレイな服にはNGだ。

部下のオトコ達なら連れて来れそうだが、今のご主人にさえも立ち入らせたくない思い出の場所なのだろう… こんなに愛らしく、かつ頼もしく仕事もできる人だから…


「連れてきていただき、ありがとうございます」


「いえいえ、私も気兼ねなく美味しいお肉が食べたいのよ。だから付き合ってくれてありがとうございます」


それから彼女は少し真顔になって尋ねた。

「こんなことを聞くのはどうかしているのだけど…冴さんはずっとお独り?」


「はい」

即答した私に日高さんはしばし無言になった。

でも、じっと私を見ている。

焼き過ぎにならないよう、私が肉を取り分けた。


「あなたの事だから…今までは乗り越えられたのだと思う。随分ご苦労はされたのだと思うけど… だから、立ち入って申し訳ないのだけど、これからの事はひとこと言わせて。

どんな理由付けでもいいから、一緒に人生を歩いて行けるパートナーを探して!」



--------------------------------------------------------------------


家へ帰る道すがら、私は考えていた。

日高さんとは確かに仕事で何回かお目にかかった。だけどプライベートではほんの数時間。

なのに彼女は私の中の何を見つけてくれたのだろう…。

しかし人と人のつながりは時間の長さだけではない。それもあかりが教えてくれた事…


私は見えないあかりに話し掛ける。

『一緒に人生を歩いて行けるパートナーを探して』って言われたよ…もうあかりは居ないのにね…

あ、今、『居ないのにね』って言ってしまった… それが本当に悲しい…



マンションのメールボックスに興信所からの茶封筒が入っていた。


それは、私が長く待ちわびていた物だった。







。。。。。。




2022.5.20更新


イラストです


大人バージョンのあかり


目は強めに描きました。


挿絵(By みてみん)



色塗り


挿絵(By みてみん)

今回はまだ導入部という感じです。

ゆるゆる更新いたします<m(__)m>

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― 新着の感想 ―
[良い点] これからの話の展開に期待します。 あと、私の「最後の一作」「最良の一作」の参考に、これから、チマチマと読んでいきます。 時間が、掛かりますが、ご容赦下さい。
[良い点] 社長のセンスに問題を感じますが、『冴茶ソ』売れるといいなあ……。 イラスト、仕事のできる美人という感じで……憧れます。 [一言] もう削除しないですよね!?
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